悩み・退職
介護職の腰痛を防ぐ|原因と「持ち上げない介助」、痛めたときの受診・労災まで
利用者さんを支えた瞬間、腰にズキッと走る痛み。夜勤明けの朝、ベッドから起き上がるのに一呼吸いる。湿布を貼り、コルセットを巻いて、「介護をしていれば腰が痛いのは当たり前」と自分に言い聞かせながら、今日も移乗をこなす——。この記事を開いたあなたには、そんな覚えがいくつもあるはずです。
最初に、いちばん大切なことをお伝えします。腰痛は、あなたの気合いや体の弱さの問題ではありません。重いものを、無理な姿勢で、繰り返し支えるという「力学」の問題であり、その負担を道具と体制で減らせていない「職場環境」の問題です。 実際、厚生労働省は腰痛対策を、働く人の根性論ではなく、事業者(職場)が取り組むべき課題として指針にまとめています。力のかかり方と環境は変えられる——それがこの記事の出発点です。
この記事では、なぜ介護が腰を痛めやすいのかを力学から確かめたうえで、体の使い方(ボディメカニクス)、福祉用具と「持ち上げない介護」、そしてそれらを職場に求めてよい根拠である国の指針を、順に見ていきます。最後に、痛めてしまったときの受診と労災の使い方、自分の職場の腰痛リスクを見分ける観点まで持ち帰れるようにまとめました。あなたの腰は、この先何十年も使う一生ものの体です。だましだまし使い続ける以外の道を、ここから確かめてください。
まず結論:腰痛は気合いの問題ではなく、力学と環境の問題

この記事の結論を先にお伝えします。覚えておいてほしいことは3つです。
1つ目。腰痛の正体は、中腰・ひねり・抱え上げの繰り返しという力学的な負担です。 厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」(2013年改訂)は、腰痛の発生要因を、動作・環境・個人・心理社会的要因が複合したものと整理し、対策を事業者の課題として位置づけています。あなたの根性や技術の不足が原因、という説明はこの整理のどこにもありません。
2つ目。「人力で抱え上げない」は、国が職場に示している原則です。 同じ指針は、全介助が必要な方の移乗にはリフト等を積極的に使い、原則として人力による人の抱え上げは行わせないよう事業者に求めています。リフトやスライディングシートはぜいたく品ではなく、本来そろっているべき装備です。
3つ目。痛みが出たら、我慢は禁物です。 早めに受診すること、そして仕事が原因なら労災として認められる可能性があることを知っておいてください。具体的な流れは後半で説明します。
数字も、腰痛が「あなた個人の問題」ではないことを示しています。厚生労働省の「腰痛予防対策」のページによると、職場での腰痛の発生件数は全体としては昭和53年をピークに長期的に減ってきた一方、社会福祉施設や医療保健業が含まれる「保健衛生業」では、集計を開始した平成5年以降、発生件数が増えてきました。働く人1,000人あたりの労働災害による死傷者数を表す指標(死傷年千人率)で見た腰痛の発生率も、保健衛生業は0.25と、全業種平均の0.1を大きく上回ります(厚生労働省「腰痛予防対策」・2026年7月閲覧)。
「まわりの先輩は平気そうなのに、自分だけ腰が痛い」と、自分を責める必要はありません。平気そうに見える人も、湿布やコルセットでしのぎながら痛みを口に出していないだけ、ということは少なくありません。負担のかかる仕事をまじめに続けてきたから痛い——まずはそう受け止めたうえで、力のかかり方と職場の環境をどう変えられるかを、ここから順に見ていきます。
なぜ、介護は腰を痛めやすいのか

腰を守るには、まず「なぜ痛めるのか」を知るのが近道です。原因が分かれば、どこをどう変えればいいかが見えてきます。前出の指針の解説でも、腰痛につながる動作の代表として、重量物の取扱い、人力による人の抱え上げ、前屈(おじぎ姿勢)・ひねりなどの不自然な姿勢が挙げられています。介護の一日には、この全部が詰まっています。大きく3つに整理しましょう。
中腰の姿勢が、じわじわ腰にこたえる
1つ目は、中腰です。低いベッドでのおむつ交換、更衣介助、足元のケア——介護には、前かがみで腰を曲げたまま行う作業がいくつもあります。中腰は、上半身の重みを腰の一点で支え続ける姿勢です。指針が「前屈や中腰はひざを着いた姿勢に置き換える」ことを求めるほど、負担の大きい姿勢として扱われています。一回一回は小さな負担でも、一日に何十回と繰り返されれば、腰は確実にすり減っていきます。
体をひねる動きが、腰に無理をかける
2つ目は、ひねりです。ベッド上の利用者さんを、足の向きは変えないまま腕と上半身だけをねじって動かす。車いすへ移すときに、足を踏みかえずに腰から上だけをぐるっと回す。こうした動きは、まっすぐ支えるより腰の一部に力が集中しやすく、指針も「ひねりは体ごと向きを変え、正面を向いて作業する」よう求めています。「ちょっと向きを変えるだけだから」という小さな油断が、引き金になります。
人を抱え上げる動作は、それ自体が危険
そして3つ目、いちばん大きな原因が、人を抱え上げる動作の繰り返しです。移乗、入浴介助、トイレ介助——相手は自分と同じか、それ以上の体格の大人です。その重さを腕と腰で持ち上げれば、大きな負担がかかるのは力学として当然です。指針の解説も、人力による人の抱え上げを、腰部に大きな負荷を受ける代表的な動作として名指ししています。
しかも抱え上げには、「じわじわすり減る」だけでは済まない怖さがあります。2018年、X(旧Twitter)で移乗介助の事故の証言が集まったことがありました。老健に勤めていた介護職の方は、体格の大きな利用者さんが移乗の際に転倒しかけ、とっさに支えた同僚のベテラン女性介護職が肋骨を骨折して介護の仕事を続けられなくなった、という出来事に触れてこう投稿しています。
「マジで体格差ある人の介護は命懸けっすよ」
同じまとめには、100kgの利用者さんの訪問入浴を3人がかりで支えるなかで体を痛め、のちに「椎間板2箇所ダメになりまして、現在、長距離歩行が出来ない体になりました」と語る介護職の方の投稿もあります(Togetterまとめ「【体重は凶器】80kgオーバーの男性が転倒し全体重を乗せられた女性介護士は肋骨粉砕骨折…」・2018年3月)。いずれも2018年のXの投稿で、拡散した声には極端な例が集まりやすい偏りがあることは差し引いて読んでください。それでも、「体格差のある介助は命懸け」という感覚は、人力の抱え上げが続く現場の実感として、重く受け止める価値があります。
大切なのは、この抱え上げこそ腰痛の最大の原因であり、同時に、いちばん減らせるポイントでもあるということです。次の章から、その減らし方を具体的に見ていきます。
体を守る介助の工夫(1)ボディメカニクス

腰を守る工夫の土台になるのが、ボディメカニクスです。研修で習った方も多いと思いますが、あらためて「何のための技術か」から整理します。
ボディメカニクスは「体の使い方の原理」
ボディメカニクスとは、てこ・重心・体全体の大きな筋肉といった、体の使い方の原理を活かして小さな力で介助する技術のことです。腕の力だけで持ち上げるのをやめ、足・お尻・太もも・背中——体じゅうの大きな筋肉に負担を分散させる。腰の一点に力を集めない、というのが狙いです。道具がなくても今日から意識できる、いちばん手前の工夫です。
腰への負担を減らす、体の使い方のコツ
基本のコツは5つです。どれも、前の章で見た「中腰・ひねり・抱え上げ」を打ち消す方向の動きになっています。
足を肩幅より広く開いて、土台を安定させる。 ぐらつく足場では、腰でバランスを取ろうとして余計な力がかかります。まず足元からです。
腰ではなく、ひざを曲げて重心を低くする。 低い位置を支えるときは、腰を曲げるのではなく、ひざを曲げてしゃがみます。指針も、前屈や中腰をひざを着いた姿勢に置き換えるよう求めています。
相手にできるだけ近づく。 離れた位置から手を伸ばすほど、腕と腰に無理がかかります。体を近づけるほど、少ない力で支えられます。
持ち上げるのではなく、水平に滑らせる。 上に持ち上げるより、横へ滑らせるほうがずっと小さな力で済みます。スライディングシートが効くのも同じ理屈です。
体をひねらず、足ごと向きを変える。 向きを変えるときは足を踏みかえて、体全体で向き直ります。腰から上だけをねじる動きを、意識してなくしていきます。
まずは「足を開く」「ひざを曲げる」の2つだけでも、今日の勤務から意識してみてください。職場に研修があれば、体で覚える機会として活用する価値があります。
ただし、ボディメカニクスは万能ではない
ここで、正直にお伝えしておきたいことがあります。体の使い方をどれだけ磨いても、人力で人を抱え上げ続ける限り、腰への負担はなくなりません。 実は国の指針も、対策の最初に挙げているのは作業の自動化・省力化や福祉用具の導入であって、体の使い方の注意はそのあとに置かれています。
「腰を痛めるのは介助技術が未熟だから」という説明を、現場で聞くことがあるかもしれません。しかしそれは順序が逆です。個人の技術は、道具と体制という土台の上に載る最後の仕上げであって、土台の代わりにはなりません。だからこそ、次の章の「道具」と、その先の「職場の体制」の話が必要になります。
体を守る介助の工夫(2)福祉用具と「持ち上げない介護」

ボディメカニクスの限界を埋めてくれるのが、道具の力です。腰を守る福祉用具と、その先にある考え方を紹介します。
腰を守ってくれる、福祉用具たち
スライディングシート。 滑る素材のシートです。ベッド上で利用者さんの体の位置を直すとき、体の下に敷けば、持ち上げずに滑らせて動かせます。数千円程度から手に入る道具で、移乗・体位変換の負担を大きく変えられる、費用対効果の高い装備です。
スライディングボード。 座位が保てる方が、ベッドから車いすへ移るときの橋渡しになる板です。抱え上げずに、座ったまま滑って移乗できます。
移乗用リフト。 体をつり上げて移動させる機械です。全介助が必要な方を、人力で抱え上げずに移乗できます。天井走行タイプや床走行タイプがあります。
スタンディングマシーン。 立ち上がりの動作を支える機械です。立位が保てる方の移乗や更衣の場面で、支え続ける負担を減らせます。
もう一つ、見落とされがちなのがベッドの高さ調整です。指針は、ベッドサイドの介護では、立ったまま前かがみにならない高さまで電動で上がるベッドを使い、働く人が各自で作業する高さを調整するよう求めています。「ベッドの高さを介助のたびに変えるのは面倒」という空気の職場もありますが、これは怠けではなく、国の指針が想定している標準的な使い方です。
こうした道具は「使うのが手間」「時間がかかる」と敬遠されることがあります。ですが、腰を一度壊して働けなくなったときに失うものと比べれば、道具に慣れる手間は決して高い代償ではありません。
「持ち上げない介護(ノーリフトケア)」という考え方
福祉用具の活用の先にあるのが、ノーリフトケア(ノーリフティングケア)——人力での抱え上げを原則としてやめる、という考え方です。「介助とは人が力で持ち上げるもの」という前提をいったん手放し、福祉用具と、利用者さん本人に残っている力(少し立てる、少しお尻を浮かせられる、など)を活かして介助を組み立て直します。
これは「楽をするため」の考え方ではありません。働く人の腰を守ることと、利用者さんが安全・安楽にケアを受けられることを、同時にかなえるための考え方です。抱えられる側にとっても、宙づりで引き上げられるより、道具で支えられて動くほうが、体の負担も不安も少なくて済みます。そしてこの考え方は、一部の熱心な施設だけのものではなく、国が正面から示している方針です。次の章で確かめましょう。
「人力で抱え上げない」は、国が職場に示している方針

ここで、あなたの大きな支えになる事実を確認します。「人力で抱え上げない介護」は、個人の努力目標ではなく、国(厚生労働省)が事業者に示している方針です。
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」は、働く人の腰痛を防ぐために職場が取り組むべきことをまとめた国の指針で、2013年(平成25年)の改訂で、福祉・医療分野の介護・看護作業が対策の対象としてはっきり位置づけられました。介護の現場について、指針は次のことを求めています。
- 全介助が必要な方にはリフト等を積極的に使用し、原則として人力による人の抱え上げは行わせない
- 座位を保てる方はスライディングボード等、立位を保てる方はスタンディングマシーン等の使用を検討する
- やむを得ず人力で抱え上げる場合は、できるだけ適切な姿勢で、身長差の少ない2名以上で行う
- 腰に著しい負担のかかる作業に常時就く人には、配置時とその後6か月以内ごとに1回、医師による腰痛の健康診断を行う
- 腰痛予防の教育を行い、腰痛で休んだ人が復帰するときは作業方法や作業時間に配慮する
(出典: 厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」・2013年改訂)
注目してほしいのは、この指針が向けられている相手です。これは働く一人ひとりへの「気をつけましょう」という呼びかけではなく、事業者、つまり職場に対して、腰痛を防ぐ環境を整えるよう求めているものです。道具をそろえる、二人介助の体制を組む、教育と健診を行う——それは本来、職場が担うべき役割だと国が示しているのです。
つまり、「腰を守りたい」というあなたの思いは、わがままでも甘えでもありません。国の指針にかなった、まっとうな願いです。
職場に「腰を守る環境」を求めていい

前の章を土台に、はっきりお伝えします。あなたは、職場に「腰を守る環境」を求めていいのです。
どんなにボディメカニクスを意識しても、福祉用具が一つもない職場、体格差のある利用者さんを一人で抱え上げるのが当たり前の職場では、腰への負担は避けようがありません。環境が整っていなければ、個人の工夫には限界があります。だからこそ、次のような声は職場に届けてよいものです。
- 「移乗の負担が大きいので、スライディングシートやリフトを導入してほしい」
- 「全介助や体格差のある方の移乗は、二人介助をルールにしてほしい」
- 「腰痛予防の研修や、体の使い方を学ぶ機会をつくってほしい」
一人で言い出すのは勇気がいる——その気持ちもよく分かります。その場合は、同じ悩みを持つ同僚と複数人でまとめて相談する方法があります。腰の負担は多くの職員に共通する悩みだからこそ、「私だけの問題」ではなく「みんなの問題」として声を合わせやすいテーマです。
自分の職場の「腰痛リスク」を見る5つの観点
そのうえで、この記事の持ち帰りとして、自分の職場の腰痛リスクを見分ける観点を渡しておきます。どれも前の章で見た指針の要求と対応しているので、「うちの職場はどうか」を測る物差しになります。厚生労働省も介護の職場向けに「介護作業者の腰痛予防対策のチェックリスト」を公表していますが、ここではその考え方を、あなたがすぐ自分の職場を点検できる5つの観点に絞りました(厚生労働省「介護作業者の腰痛予防対策のチェックリスト」)。
- リフトやスライディングシートなどの道具があるか。あっても倉庫で眠っていないか
- 全介助や体格差のある移乗を、一人でやらせない決まりがあるか
- ベッドの高さを介助のたびに調整してよい運用になっているか
- 腰痛予防の研修や、腰に負担の大きい業務に就く人への健康診断があるか
- 「腰が痛い」と言い出せる雰囲気か。言った人が根性不足のように扱われないか
5つのうち当てはまらない項目が多いほど、あなたの腰は「個人の頑張り」だけで守られている状態です。改善を求める根拠として使ってください。そして、求めても職場が動かないなら、腰を壊す前に、負担のかたちが違う職場を選び直すことも、立派な自衛です。身体介護の量は施設タイプでかなり違います。仕事のきつさ全体を見つめ直したいときは介護の仕事がきつい・つらいと感じる理由と、抱え込まない考え方を、身体介護が多いとされる特養の実際は特別養護老人ホーム(特養)で働く実際を、施設タイプごとの身体の負担のちがいは施設タイプ別の「働き方」を比べるを、あわせて読んでみてください。
痛めてしまったときの対処と、労災という支え

ここまで「防ぐ」話をしてきましたが、すでに痛みを抱えている方もいるはずです。そのときにどう動くか。ここが、この記事でいちばん持ち帰ってほしい部分です。
「まだ大丈夫」が、いちばん危ない
まず、我慢しないでください。 「これくらいなら働ける」「休むとみんなに迷惑がかかる」と痛みをこらえて介助を続けるうちに、悪化して長く働けなくなる——これが腰痛のいちばん怖い進み方です。
介護職だけの話ではありません。デイサービスで介護業務も担う40代男性の言語聴覚士の方が、自身のブログ「『まだ大丈夫』が一番危ない。腰痛と向き合う日々」で、腰痛が悪化していった経過をこう記録しています。
「言語聴覚士という仕事自体は身体を使うことは少ないものの、デイサービスの仕事も手伝ったり。移乗したりベッド上で利用者の身体を動かしたりするので、全く身体を使わないという事もないです。」
体を使う場面が介護職より少ないはずのリハ職でも、移乗を含む業務で腰を痛めます。そして「まだ大丈夫」と働き続けた先に、こう続きます。
「段々痛みがひどくなり、立って歩くだけでも深刻な痛みが走るようになりました。」
(出典: 「まだ大丈夫」が一番危ない。腰痛と向き合う日々・はてなブログ・2026年4月)
ブログの題名のとおり、「まだ大丈夫」と思っているときが、実はいちばん危ないのです。痛みが続く、繰り返す、脚にしびれがある——そんなときは、早めに医療機関を受診してください。腰の痛みの原因も治療の方針も、体の状態によってさまざまです。この記事では治療について断定しません。あなたの腰を正しく診られるのは、目の前で診てくれる医師だけです。自己判断で「湿布でなんとかなる」と決めつけず、医師の診断と判断にしたがってください。
痛みが出た日にやることは、シンプルに3つです。
- 我慢して重い介助を続けない。その日の移乗は同僚に代わってもらうか二人介助にする
- 痛みが強い・続く・しびれがあるなら、早めに受診する
- 仕事が原因かもしれないと職場に伝え、いつ・何をして痛めたかを記録しておく
3つ目の「職場に伝えて記録する」が、次にお話しする労災の入り口になります。
その腰痛、労災になるかもしれない
仕事が原因で腰を痛めた場合、労災(労働災害)として認められることがあります。労災とは、仕事が原因のけがや病気について、治療費や働けない間の生活の補償を受けられる国の制度で、腰痛もその対象になり得ます。厚生労働省は業務上腰痛の認定基準を定めていて、大きく2つに分けて判断されます(出典: 厚生労働省「業務上疾病の認定等」・2026年確認)。
災害性の原因による腰痛。 重い物や人を持ち上げた、あるいは不適切な姿勢で支えたなど、仕事中の突発的な出来事で腰に急激な強い力がかかって痛めたものです。「体格差のある利用者さんを支えた瞬間にズキッときた」というケースが、これにあたりえます。
災害性の原因によらない腰痛。 はっきりした一回のきっかけがなくても、重量物の取扱いなど腰に過度の負担のかかる仕事を続けたことで発症し、作業の内容や期間からみて仕事が原因と認められるものです。
つまり、突発的なけがだけでなく、「毎日の介助の積み重ねで、だんだん悪くなった」場合にも、労災として認められることがあるということです。ただし、日常のふとした動作でも起こるいわゆる「ぎっくり腰(急性腰痛症)」は、仕事中に発症してもそれだけで労災になるわけではなく、発症時の動作や姿勢の異常性などから腰への強い力の作用が認められる場合に対象となります。そして、労災補償の対象となるのは、医師が療養の必要を認めた腰痛に限られます。認定されるかどうかは個々の事情によりますが、認められれば治療費や休業中の収入の心配を大きく軽くできます(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「腰痛の労災認定」)。
労災を使うときの、基本の流れ
「労災かもしれない」と思ったら、流れは3ステップです。
- 職場に「仕事が原因で腰を痛めた」と伝える
- できれば労災指定の医療機関を受診し、仕事が原因の可能性を伝える
- 職場が動かない・判断に迷うときは、労働基準監督署に相談する
労災の手続きは職場を通して進めるのが基本ですが、職場が協力してくれない場合でも、あきらめる必要はありません。労働基準監督署は働く人の労災・労働環境の相談に乗ってくれる国の窓口で、相談は無料です。「労災を申し出たら気まずくならないか」とためらう気持ちがあるかもしれませんが、労災は働く人を守るために国が用意した正当な権利です。仕事で痛めた腰を、自分の財布と我慢だけで治そうとしないでください。
なお、指針は腰痛で休んだ人が職場に復帰するときにも、作業方法や作業時間への配慮を事業者に求めています。復帰を焦って元どおりの移乗量に戻る必要はありません。復帰時の業務調整も、求めてよい配慮です。
最後に、あなたの腰を守るために伝えたいこと

長い道のりでしたが、最後に芯だけを振り返ります。
腰痛は、気合いの問題ではなく、力学と環境の問題です。 中腰・ひねり・抱え上げの繰り返しという力のかかり方は、体の使い方(ボディメカニクス)と道具(福祉用具・持ち上げない介護)で変えられます。そして「人力で抱え上げない」ことは、国が職場に求めている方針です。リフトや二人介助を求めるあなたの声は、指針に裏づけられたまっとうな要望であり、一人で言いにくければ複数人で届ければいい。職場の腰痛リスクは、道具・ルール・ベッドの運用・教育と健診・言い出せる文化の5つの観点で測れます。
それでも痛みが出たら、我慢せず、早めに受診してください。仕事が原因なら労災という支えがあり、迷ったら労働基準監督署に無料で相談できます。「まだ大丈夫」と思っているときこそ、一度立ち止まる価値があります。
利用者さんを支えるあなたの手を、あなた自身の腰の痛みに奪わせないでください。まずは今日の勤務で「足を開いて、ひざを曲げる」から。そして帰り道に、この記事の5つの観点で自分の職場を眺めてみてください。腰は、根性で守るものではありません。知識と道具と、まわりの支えで守るものです。
よくある質問
なぜ介護の仕事は、こんなに腰を痛めやすいのですか?
中腰・体をひねる動き・人を抱え上げる動作という、腰に負担のかかる動きが一日に何度も繰り返されるからです。ベッドから車いすへの移乗、おむつ交換、入浴介助、体位変換は、いずれも腰に負担が集中しやすい姿勢や動作を含みます。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」(2013年改訂)も、福祉・医療分野の介護・看護作業を腰痛の発生が比較的多い作業として挙げ、重量の負荷や不自然な姿勢の繰り返しが腰部への過重な負担になると説明しています。腰を痛めるのは体が弱いからでも力が足りないからでもなく、仕事の性質そのものによるものです。
ボディメカニクスとは、どういう意味ですか?
ボディメカニクスとは、てこ・重心・体全体の大きな筋肉といった「体の使い方の原理」を活かして、小さな力で介助する技術のことです。足を広く開いて重心を低くする、相手に近づく、持ち上げるのではなく水平に滑らせる、体をひねらず足ごと向きを変える、といった基本があります。腰の一点に負担を集めない体の使い方として介助の土台になりますが、体の使い方の工夫だけで人力の抱え上げの負担がなくなるわけではありません。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」も、リフトなどの福祉用具の活用や複数人での作業体制といった、職場側の対策をあわせて求めています。
ノーリフトケア(持ち上げない介護)とは何ですか?
ノーリフトケア(ノーリフティングケア)とは、人力での抱え上げを原則としてやめ、リフトやスライディングシートなどの福祉用具と、利用者さん本人に残っている力を活かして介助する考え方です。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」も、全介助が必要な方にはリフト等を積極的に使用し、原則として人力による人の抱え上げは行わせないこととしています。働く人の腰を守ると同時に、利用者さんにとっても無理に引き上げられるより安全で安楽な介助になり得る、双方のための考え方です。
介護の腰痛は、労災になりますか?
仕事が原因で腰を痛めた場合、労災(労働災害)として認められることがあります。厚生労働省は業務上腰痛の認定基準を定めており、重い物や人を持ち上げた際などのはっきりしたきっかけで急に痛めた「災害性の原因による腰痛」と、腰に負担のかかる業務を続けたことで発症した「災害性の原因によらない腰痛」に分けて判断されます。認められれば、治療費や休業中の補償を受けられます。まず職場に仕事が原因である可能性を伝え、労災保険を使える医療機関(労災指定医療機関)を受診するのが基本の流れです。判断に迷うときは、お住まいの地域の労働基準監督署に無料で相談できます。
腰を痛めてしまったら、まず何をすればいいですか?
まず、我慢せずに早めに医療機関を受診してください。痛みをこらえて介助を続けると悪化し、長く働けなくなることがあります。仕事が原因だと思われる場合は、受診の前後に職場へ伝えておくと、労災として扱う際の手続きが進めやすくなります。そのうえで、重い移乗を一時的に控える・二人介助に切り替える・福祉用具を使うなど、腰に負担をかけない働き方への調整を職場に相談してください。痛みの原因や治療の方針は体の状態によって異なるため、自己判断で決めつけず、必ず医師の診断と判断にしたがってください。
職場に、腰を守る道具や体制を求めてもいいですか?
はい、求めてかまいません。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」は、事業者に対して、リフトやスライディングシートなどの福祉用具の活用、複数人での作業体制、腰痛予防の教育、腰に負担の大きい作業に常時就く人への定期的な腰痛の健康診断といった環境づくりを求めています。つまり、腰を守る環境の整備は本来職場の責任でもあります。「リフトを導入してほしい」「体格差のある移乗は二人介助にしてほしい」と伝えるのは、わがままではなく国の指針にかなった要望です。一人で言い出しにくいときは、同僚と複数人でまとめて相談する方法もあります。
出典
- 厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」 (2013年(平成25年改訂))
- 厚生労働省「腰痛予防対策」 (2026年確認)
- 厚生労働省「業務上疾病の認定等」 (2026年確認)
- 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「腰痛の労災認定」(リーフレット) (2026年確認)
- 厚生労働省「介護作業者の腰痛予防対策のチェックリストについて」 (2026年確認)
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、正確性・最新性を保証するものではありません。 制度や施設の状況は変わることがあります。実際のご判断の前には、各施設・公式情報や公的機関でご確認ください。
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