給料・待遇

介護職の残業・サービス残業の実態|残業代の権利と、記録・相談のしかた

公開: 2026年7月21日 / 編集: 介護のしるべ編集部

タイムカードは押した。でも、パソコンの前ではまだ記録の入力が終わっていない。次の人への申し送りも残っている。気づけば、退勤の打刻から30分、1時間。「まあ、いつものことだし」と、そのままカバンを持って帰る——そんな日々を、あなたも重ねてきたのかもしれません。

その、打刻のあとの時間。あるいは、始業より早く来て準備をしている時間。委員会や研修で、勤務時間の外に呼び出される時間。「これくらい、みんなやってるから」と、いつのまにか“数えないもの”になってはいないでしょうか。定時に上がれないのは、あなたの要領が悪いからではありません。介護には、残業が生まれやすい“場面”が、仕事の性質としていくつも組み込まれています。

この記事だけの視点を、先にひとつお伝えします。それは、その“みんなやってるから”で流してきた無償の時間にも、本当は値段がついている、ということです。実際、マイナビ介護職『介護職白書 2024年度版』では、時間外労働の賃金が「全額支払われている」と答えた人は33.0%にとどまりました。裏を返せば、約7割の職場で、支払われるべき賃金が支払われていない時間がある、ということになります。あなたが働いた時間は、法律の上では、支払われるべき労働の対価です。ただ、その値段が見えなくなっているだけ。だからこの記事は、まずあなたの時間を「見えるようにする」ところから始めます。見えれば、守れます。

この記事では、介護でなぜ残業が生まれやすいのかにふれたうえで、賃金の支払われない残業(サービス残業)が法律で認められないこと、残業代の割増や働かせられる時間の上限という制度の基本、そもそも「労働時間」とは何を指すのか、そして自分の残業を記録して“サービス残業かどうか”を見分ける手順と、いざというときの相談先までを、厚生労働省の情報をもとに、やさしく順を追ってお伝えします。個別の職場が違法かどうかを決めつけるのではなく、「自分の職場を判断する物差し」をお渡しするのが、この記事のねらいです。

まず結論:その「数えていない時間」にも、値段はついている

こまかい話に入る前に、この記事でいちばん伝えたいことを、先に3つだけまとめます。

  • 無償の残業(サービス残業)は、法律で認められていません。 働いた時間に対して残業代が支払われるのは、あなたの権利です。「介護だから仕方ない」ことではありません。
  • 「労働時間」は、思っているより広い。 会社の指示で行う申し送り・記録・準備などは、たとえ打刻の外でも、労働時間に当たりうる時間です。これは職場の決まりではなく、実態で決まります。
  • まず、自分で時刻を記録することが最強の自衛です。 何時から何時まで働いたかを自分のメモに残す。それが、あとで相談したり、権利を主張したりするときの、いちばん確かな支えになります。

数字をひとつだけ先に見ておきます。株式会社マイナビが運営する「マイナビ介護職」の『介護職白書 2024年度版』(調査時期:2024年11月7日〜12月3日、介護職976人が回答。以下、この記事で引用する白書の数値はすべて同調査によるものです)によると、**時間外労働の賃金が「全額支払われている」と答えた人は33.0%**でした。これは転職サービスの登録会員への調査で、転職を意識する介護職に寄ったサンプルである点は割り引いて読む必要がありますが、それでも「働いた分の残業代が、そのまま支払われているとは限らない」現実を映した数字です。

大切なのは、この数字を「どこかの職場が悪い」という話にしないことです。この記事は、特定の職場を違法だと決めつけるためのものではありません。「働いた時間には値段がある」——この一点を物差しにして、まずは、なぜ介護で残業が生まれやすいのかから、いっしょに見ていきましょう。

介護で残業が生まれやすい、いくつかの場面

「自分の要領が悪いから、定時に上がれないのかな」——もし、そう感じたことがあるなら、まずその気持ちをそっと下ろしてください。介護には、残業が生まれやすい“場面”が、仕事の性質としていくつも組み込まれています。あなた個人の問題ではありません。代表的なものを、見ていきましょう。

白書2024でも、残業が発生するのは**「日勤の終業後」が72.8%と突出して多く、次いで「日勤の始業前」(いわゆる前残業)が28.4%**でした。そして残業中にしている業務は、**利用者対応55.0%・介護記録36.2%・書類作成や事務30.5%**の順。つまり残業の中身は、遊んでいるわけでも段取りが悪いわけでもなく、「ケアそのもの」と「その記録」だということが、数字にも表れています。

申し送りと記録:定時のあとに残りやすい

介護の一日は、利用者のケアで、ほぼ定時ぎりぎりまで埋まっています。そのうえで、申し送り(もうしおくり)——次の勤務に入る人へ、利用者の体調や出来事を引き継ぐこと——や、その日のケアの記録を入力する作業が残ります。これらは、ケアの合間にゆっくりやる時間がなく、勤務の終わりにまとめて行うことになりがちです。結果として、「打刻はしたけれど、記録が終わらない」「申し送りが長引いた」という形で、定時のあとに時間がはみ出しやすいのです。

委員会・研修:勤務時間の外に組まれやすい

介護の職場では、感染対策・事故防止・褥瘡(じょくそう。床ずれのこと)予防といった、さまざまな委員会の活動があります。また、資格や質の維持のための研修も定期的に行われます。こうした委員会や研修は、通常のシフトとは別に、勤務時間の外に組まれることが少なくありません。「休みの日に研修に呼ばれた」「早番のあとに委員会が入っていた」——そんな形で、本来の勤務に上乗せされる時間になりがちです。

行事・レクの準備:季節ごとに山ができる

夏祭り、敬老会、クリスマス会、お正月の飾りつけ——介護の施設では、利用者に季節を感じてもらうための行事や、毎日のレクリエーションがあります。喜んでもらえる大切な取り組みですが、その準備は、通常のケアの合間や、勤務時間の外に食い込みやすいものです。

デイサービスで働くある介護職の方は、レク準備の実際を、個人ブログにこう書いています。

「普段の業務にプラスして準備しないといけないんです。そして予算はカッチリ決まってる。」

「問題は『業務時間内に終わらない』こと。介護施設って残業申請が通りにくいので、どうしてもサービス残業になりがちです。」

出典: 介護士あるある!デイサービスのレク準備で残業地獄(アメーバブログ「介護士matinekoの日常」・2025年9月)。「帰りたいのはこっちです!やらないと終わらないから残ってるんです!」という一節もあります。これは真偽を検証した統計ではなく、あくまで当事者の声のひとつですが、「必要だからやっているのに、その時間が数えられない」という感覚は、多くの現場に通じるものではないでしょうか。

早出・時間前出勤:始業「前」も見落とされやすい

残業というと「定時のあと」を思い浮かべますが、先ほどの白書のとおり、始業の前にも数えられていない時間がひそんでいることがあります。「申し送りに間に合うよう、15分早く来て準備する」「朝の忙しい時間に備えて、少し早めに動き出す」——それが習慣になっていると、その分の時間が“なかったこと”になりやすいのです。

これらの場面に共通するのは、どれも**「利用者のため」「現場を回すため」に必要なこと**だという点です。だからこそ、つい自分の時間を差し出してしまう。でも、必要な仕事だからこそ、その時間はきちんと数えられるべきものなのです。

賃金の支払われない残業(サービス残業)は、法律で認められていない

ここからが、この記事のいちばん大事な部分です。今見てきたような、打刻の外にはみ出した時間。そこに賃金が支払われていないとしたら、それは法律の上でどう扱われるのか——結論から、はっきりお伝えします。

賃金の支払われない残業(サービス残業)は、法律で認められていません。

厚生労働省は、割増賃金や賃金が支払われないまま早出・残業・休日出勤をすることを、労働基準法(ろうどうきじゅんほう。働く人を守るための、いちばん基本の法律)に違反する、違法なものだと、はっきり述べています(厚生労働省「確かめよう労働条件」)。しかも国は、こうした働き方をあえて「賃金不払残業」と呼んでいます。「サービス残業」という言葉だと、こちらの厚意でおまけをしているような、やわらかい響きになり、違法であることが意識されにくいからです。言葉をやわらかくしても、中身は「ただ働き」——あなたが働いた時間に対して、支払われるべきお金が支払われていない状態を指しているのです。

先ほどの白書2024が示していたのも、まさにここでした。時間外労働の賃金が「全額支払われている」のは33.0%。転職を意識する層に寄った調査という限界はありますが、支払いが当たり前になっていない現実が、数字にも表れています。

残業代は「厚意」ではなく「対価」

大切なのは、残業代は、会社の“やさしさ”で払われるものではない、ということです。**残業代は、あなたが提供した労働に対する「対価(たいか。働きに見合った報酬)」**です。物を買えば代金を払うのと同じように、働いてもらった時間には、賃金を払う。それが法律のルールです。単なる払い忘れではなく、法律に反する状態なのだ、ということを覚えておいてください。

「みんなやっているから」は、理由にならない

「でも、うちの職場はみんな残業代なしでやっているし……」——そう感じる方も、いるかもしれません。ここで、はっきり言わせてください。**周りが我慢しているかどうかは、あなたの権利とは関係がありません。**みんなが無償で残業していても、それが「正しいから」そうなっているわけではありません。多くの場合、声を上げにくい空気があるだけです。法律は、あなた一人にも等しく効いています。「新人だから」「非常勤だから」といった理由で、対価なしに働く義務が生まれることも、ありません。

無償の残業には、研修や勉強会といった「仕事に見えにくい形」で紛れ込むものもあります。うつ病で介護職を離れたある元職員の方は、離職に至るまでを振り返って、こう書いています。

「さらには夜勤入りや明けにタダ働きで『研修という勉強会』」

「たった1時間の時間外のため眠たい目をこすって『フロア会議』に半強制参加」

出典: 介護職でうつ病、自殺未遂…そこから介護系YouTuberで世間に復讐を始めた話(note・2025年7月)。過重労働と無償労働が積み重なった末に心身を壊した、という重い証言です。これも当事者の声のひとつであり、すべての職場がそうだという話ではありません。ただ、「たかが1時間」「たかが勉強会」と流されがちな無償の時間が、積もれば人を追い込むこともある——そのことは、心にとめておいてよいと思います。あなたが「おかしいな」と感じたその感覚は、否定しないであげてください。

残業代の割増と「働かせられる時間の上限」——制度の基本

「残業代が支払われるべきなのは分かった。では、いくら支払われるのが本来の姿なの?」——ここで、制度の基本を押さえておきましょう。あくまで一般的な制度の説明であり、個別の職場の当てはめは実態によって変わりますが、物差しとして知っておくと役に立ちます。

残業には「割増」がつくのが本来の姿

労働基準法では、決められた時間(原則1日8時間・週40時間)を超えて働かせた場合、会社は割増賃金を支払わなければならない、と定められています(労働基準法第37条)。厚生労働省「確かめよう労働条件」によれば、割増の率は次のとおりです。

  • 時間外労働(決められた時間を超えた残業)……1時間あたりの賃金の25%以上を上乗せ
  • 深夜労働(午後10時〜午前5時)……25%以上を上乗せ
  • 法定休日の労働……35%以上を上乗せ
  • 1か月60時間を超える時間外労働……その超えた分は50%以上を上乗せ

つまり、残業には、ふだんの時給に“割り増し”までついているのが本来の姿です。夜勤帯の時間外や、休日に呼び出されての勤務は、さらに率が高くなります。

働かせられる時間にも「上限」がある

残業は、いくらでもさせてよいわけではありません。時間外労働には、原則として月45時間・年360時間という上限が法律で定められています(厚生労働省「時間外労働の上限規制」)。この原則を超えられるのは、臨時的な特別の事情があって労使が取り決めた場合に限られ、それでも年6か月まで、かつ年720時間・月100時間未満(複数月平均80時間以内)といった歯止めがかかります。2019年4月に規定され、中小企業には2020年4月から適用されています。

白書2024で見ると、月の時間外労働は**「なし」27.8%・「5時間未満」27.7%**で、40時間未満が全体の93.3%。多くの人は、法律の上限の範囲内に収まっています。ただし一方で、**50時間以上の人も4.0%**いました。つまり「上限に近い、あるいは超えるおそれのある働き方」の職場も、少ないながら存在するということです。これも転職を意識する層に寄った調査ですが、自分の残業時間が全体のどのあたりにあるのかを知る、ひとつの目安になります。

ここで大事なのは、こうした数字はあくまで**「自分の職場を測る物差し」**だということです。上限を超えていそうだからといって、この記事が「あなたの職場は違法だ」と断じることはできません。実際の判断は、契約や勤務の実態をふまえて、後述の公的窓口が行うものです。まずは、自分の残業がどれくらいあるのかを“見えるように”しておくことが出発点になります。

そもそも「労働時間」とは何を指すのか

「賃金の払われない残業は違法」「残業には割増や上限がある」と分かっても、ここでひとつ、大きな疑問がわいてくるはずです。「じゃあ、そもそも“残業”ってどこからが残業なの?」「申し送りや着替えの時間は、労働時間に入るの?」——この、いちばん迷いやすいところを整理します。

労働時間=「会社の指揮命令下にある時間」

労働基準法でいう「労働時間」には、法律上の考え方があります。それは、「使用者(会社)の指揮命令下(しきめいれいか)に置かれている時間」——つまり、会社の指示に従って動いている時間、というものです(厚生労働省「労働時間の適正な把握のためのガイドライン」ほか)。ここで、とても大切なポイントが2つあります。

1つ目は、この判断は、労働契約や就業規則の決まりに関係なく、「実態」で客観的に決まるということです。たとえ会社が「これは労働時間ではない」と決めていても、実際に会社の指示で業務をしていれば、それは労働時間として扱われるべきものになります。「うちのルールでは残業に入らない」という説明が、いつも正しいとは限らない、ということです。

2つ目は、「指揮命令下」は、直接こまかく命令されている時間だけを指すのではない、ということです。命じられた仕事を行ううえで、切り離せない・欠かせない行為の時間も、労働時間に含まれうる、と考えられています。

打刻の外にある時間も、対象になりうる

この考え方をあてはめると、これまで“数えていなかった”時間の見え方が、変わってきます。厚生労働省の説明などをふまえると、たとえば次のような時間は、労働時間に当たりうるものです(あくまで一般的な考え方で、最終的には個々の実態で判断されます)。

  • 申し送り・記録の入力……会社の業務として指示され、行っている時間
  • 業務前後の準備・後片付け……ケアを始める・終えるために欠かせない作業の時間
  • 着替え……業務に不可欠なものとして、事業所内で行うよう指示されている場合
  • 義務づけられた研修や委員会……「自主参加」の形でも、実際は参加が求められている場合

反対に、純粋に自分の意思で、参加しなくても不利益のない自主的な学習などは、労働時間に当たらないこともあります。線引きが難しいのは、まさにこの「自主的か、実際は求められているか」の境目です。だからこそ、「これは労働時間に入るのだろうか」と迷う時間ほど、まずは実際にかかった時刻を記録しておくことが大切になります。入るか入らないかを一人で結論づける必要はありません。記録さえ残っていれば、あとで窓口に相談したときに、正確に判断してもらえます。

あなたの残業は「サービス残業」? 見分けて記録する手順

ここまでの内容を、今日から使える一つの手順にまとめます。自分の残業を「記録して、見分けて、備える」——この記事でいちばん持ち帰ってほしい部分です。むずかしく考える必要はありません。特別なアプリも、りっぱなノートもいりません。スマホのメモや手帳のすみで十分です。

手順1:働いた時刻を、その日のうちに書き残す

本来、働いた時間を正しく把握して記録するのは、会社の責任です。厚生労働省も、使用者は労働者一人ひとりの始業・終業の時刻を確認し、記録しなければならない、というガイドラインを示しています。とはいえ、その記録が実態とずれてしまうこともあります。打刻のあとにも仕事が続いていた場合、会社の記録には「定時で終わったこと」になっているかもしれません。そんなとき、あなた自身の記録が、実際に働いた時間を示す、もう一つの証拠になります。人の記憶は日がたつほどあいまいになります。その日のうちに、淡々と書き残しておきましょう。書くのは、次の4つで十分です。

  • 日付……「◯月◯日」
  • 始業・終業の実時刻……「8時45分に準備開始/18時30分に退勤」など
  • 打刻の時刻とのちがい……タイムカードの時刻と実際の時刻が違うなら両方
  • 何をしていたか……「打刻後、記録と申し送りで30分」などごく簡単に

あわせて、給与明細は捨てずに保管しておきましょう。実際に何時間分の残業代が支払われた(あるいは支払われていない)のかを、あとで確かめる材料になります。

手順2:「サービス残業かどうか」を、5つの問いで見分ける

記録がたまってきたら、その時間が“数えられるべき時間だったか”を、自分でざっくり見分けてみます。次の問いに「はい」が多いほど、労働時間に当たりうる時間——つまり、本来は賃金が支払われるべきだった可能性が高くなります。断定するための道具ではなく、「相談すべきかどうかを考える物差し」として使ってください。

  • その時間は、会社の指示や、暗黙の求めで行っていたか(自分だけの自主的な作業ではないか)
  • やらなければ、業務が回らない・不利益があるか(参加しない自由が実際にあったか)
  • 打刻の時刻と、実際に働いた時刻がずれているか
  • その残業分の割増賃金が、給与明細に実時間分ついているか
  • 「サービス残業が当たり前」という空気で、最初から請求をあきらめていないか

とくに最後の問いは大切です。サービス残業の背景には、「自分から請求していない」ケースが多いと指摘されています。あきらめは、権利を手放すことと同じになりかねません。

手順3:「請求できる期間」を知って、備えにする

記録が効いてくる場面が、もう一つあります。もし、支払われていない残業代をあとから請求する、となった場合、さかのぼって請求できる期間には、期限があります。未払いの賃金(残業代を含む)を請求できる期間は、法律の改正で延長されました。以前は2年でしたが、2020年4月1日以降に支払われる賃金については、当分の間5年(当面3年)までさかのぼれる時効になっています(厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A)。

期間が延びたとはいえ、時間がたつほど記録は失われ、事実の証明は難しくなります。「いつか、もしものときに」と身がまえる必要はありませんが、日々の記録は、あなたの時間に値段を取り戻すための、静かな備えになります。書いておいて、損はありません。給与明細で残業代がどう表示されるかを詳しく知りたい方は、介護職の手取りと給料明細の見方もあわせてご覧ください。

相談は「まず職場、次に公的窓口」の順で

自分の記録がそろってきたら、次は「相談」です。ただ、いきなりどこか外部に駆け込む、という話ではありません。落ち着いて、順番を追っていきましょう。

まずは、職場の中で

最初の一歩は、職場の中で相談することです。直属の上司や施設の管理者、あるいは勤怠(きんたい。出退勤の管理)を担当している人に、「残業の時間が、うまく記録に反映されていないようです」と、事実を示して伝えてみます。このとき、これまで残してきた自分の記録が役に立ちます。「◯月は、打刻のあとに申し送りや記録で、これくらいの時間が出ています」と、具体的な時刻をもとに話せると、感情的なぶつかり合いになりにくく、相手も事実として受け止めやすくなります。多くの場合、まずはここで話し合うのが、いちばん角の立たない解決の道です。

改善しないときは、職場の外の公的窓口へ

職場に相談しても取り合ってもらえない、あるいは、そもそも言い出しにくい——そんなときは、職場の外にある、公的な窓口を頼ってください。無料で、あなたの側に立って相談に乗ってくれます。

  • 労働基準監督署(ろうどうきじゅんかんとくしょ)……残業代の未払いや長時間労働など、労働基準法に違反する働かせ方があるときの、公式な相談・申告先です。会社への指導を行う権限を持つ、国の機関です。
  • 総合労働相談コーナー……各都道府県の労働局や労働基準監督署の中などに、全国378か所設けられています。賃金・残業・労働時間をはじめ、あらゆる労働問題を、無料・予約不要で相談できます。法律違反の疑いがある場合は、担当部署に取り次いでくれます(厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」)。
  • 労働条件相談ほっとライン……厚生労働省が設けている無料の電話相談窓口です。労働基準監督署などが閉まっている平日の夜間や、土日・祝日にも、労働時間や割増賃金の相談ができます。「日中は仕事で電話できない」という方に向いています。

相談するときは、日付・時刻を記した自分の記録と、給与明細を手元に用意しておくと、話がスムーズです。「証拠が完璧でないと相談できない」ということはありません。まずは、今ある材料をもって、話を聞いてもらうところから始めれば大丈夫です。相談は、わがままでも、大げさなことでもありません。自分が働いた時間と、それに見合う対価を守るための、まっとうな行動です。そして、もし残業の多さそのものが心と体をむしばんでいるなら、それは働き方や職場を見直すサインかもしれません。つらさが限界に近いと感じるときは、介護の仕事がきつい・つらいと感じる理由と整理法のページも、あわせて読んでみてください。

我慢が続くなら、「職場を変える」も選択肢

ここまで、記録と相談で、今の職場のなかで状況を改善していく方法をお伝えしてきました。それでも——記録をそろえ、相談もした。けれど何も変わらない。あいかわらず無償の残業が当たり前で、声を上げれば居づらくなる。もし、そんな状態が続いているなら。

その職場を離れて、別の場所を探すことも、あなたを守る立派な選択肢です。 ただし、「今すぐ辞めるべき」という話でも、「我慢して続けるべき」という話でもありません。二択で自分を追い込む必要はありません。今の職場を続けながら情報だけ集める、という中間の道もあります。

残業やサービス残業のあり方は、職場によって本当に大きく違います。勤怠をきちんと管理し、残業代を正しく支払い、そもそも定時で上がれるよう業務を工夫している職場も、たしかにあります。今の職場だけが、介護の職場ではありません。そして、ここに介護という仕事の強みがあります。介護は人手が足りず、働き手が職場を選びやすいのです。これまで積んできた経験も資格も、次の場所でそのまま活きます。

もし次の職場を探すなら、見学や面接のときに、次のような点をやわらかく確認してみるとよいでしょう。

  • 残業は、月にどのくらいあるか(「繁忙期はどれくらいですか」と聞くと実感に近い答えが返りやすい)
  • 申し送りや記録の時間は、勤務時間に含まれているか(定時内に収まる仕組みか)
  • 残業代は、実働にもとづいて支払われるか(固定残業代がある場合は何時間分か、超えた分は別途出るか)

職場選びや、見学・面接での確認のしかたを、もっとくわしく知りたいときは、介護職の転職の進め方のページにまとめています。また、有給休暇という「もう一つの権利」の取り方は介護職は有給休暇を取れる?で扱っています。焦って今すぐ決める必要はありません。「いざとなれば、ほかにも場所はある」——そう思えるだけで、今の職場での交渉にも、少し余裕が生まれます。選択肢を知っておくことが、あなたを自由にしてくれます。

あなたの時間を、あなたの手に取り戻す

この記事でお伝えしたことを、最後に振り返ります。

  • 介護には、申し送り・記録・委員会・研修・行事準備・早出といった、残業が生まれやすい場面が構造として組み込まれている。定時に上がれないのは、あなたの要領のせいではない。
  • 賃金の支払われない残業(サービス残業)は、労働基準法に違反する違法なもの。国はこれを「賃金不払残業」と呼ぶ。残業代は厚意ではなく、働いた時間への正当な対価で、「みんなやっているから」は理由にならない。
  • 残業には**割増(時間外25%以上など)**がつくのが本来の姿で、時間外労働には原則月45時間・年360時間の上限もある。白書2024では全額支払いは33.0%にとどまり、月40時間未満が93.3%の一方、50時間以上も4.0%。
  • 労働基準法の「労働時間」は、会社の指揮命令下にある時間を指し、職場の決まりではなく実態で決まる。申し送り・準備・義務づけられた研修などは、打刻の外でも対象になりうる。
  • いちばんの自衛は、自分の残業を記録し、5つの問いで見分けること。未払い分は5年(当面3年)までさかのぼれる。相談はまず職場、改善しなければ労働基準監督署・総合労働相談コーナーなどの公的窓口へ。それでも変わらないなら、職場を変えることも自分を守る選択肢。

この記事の入口で、「無償の時間にも、本当は値段がついている」とお伝えしました。もう一度、そこに戻ります。あなたが差し出してきた“数えていなかった時間”は、決してタダではありません。法律の上では、支払われるべき対価がついた、あなたの大切な時間です。個別の職場が違法かどうかを、この記事が決めることはできません。けれど、自分の時間を“見えるように”し、物差しをあてて、必要なら相談する——その一連の行動は、あなた自身の手で始められます。

まず今日、できることは、ほんの小さな一歩で構いません。明日の勤務から、実際に働き始めた時刻と、終えた時刻を、スマホのメモに一行だけ書いてみる。それだけで、これまで見えなかった時間が、少しずつ形になっていきます。その一行が、あなたの働きに、あなた自身の手で値段を取り戻す、はじめの一歩になります。

よくある質問

介護の仕事は、残業が多いのですか?

残業の多い・少ないは職場ごとの差が大きく、一律に「介護は残業が多い」とは言い切れません。マイナビ介護職『介護職白書 2024年度版』(株式会社マイナビ・調査時期2024年11月7日〜12月3日・介護職976人回答)では、月の時間外労働が「なし」27.8%・「5時間未満」27.7%で、40時間未満が全体の93.3%を占める一方、50時間以上も4.0%ありました。転職を意識する層に寄った調査ですが、多くは短時間でも一部に長時間の職場があるとわかります。ただし介護は、定時ぎりぎりまでケアが続き、そのあとに申し送りや記録が残る「残業が生まれやすい構造」を持った仕事です。定時に上がれないのは、あなたの要領が悪いからではありません。

賃金の支払われない残業(サービス残業)は、違法なのですか?

はい、違法です。厚生労働省は、割増賃金や賃金が支払われないまま早出・残業・休日出勤をすることを「賃金不払残業」と呼び、労働基準法に違反する違法なものだと明言しています。「サービス残業」という言葉は違法性が意識されにくいため、国はあえて「賃金不払残業」という呼び方を使っています。残業代は、あなたが働いた時間に対して当然に支払われるべき労働の対価で、「みんなやっているから」「新人だから」という理由で無償労働が正当化されることはありません。まずは働いた時刻を自分で記録しておくことが、身を守る第一歩になります。

始業前の早出(前残業)も、残業になりますか?

会社の指示で業務を行っているなら、始業前の時間も労働時間に当たりうるものです。労働基準法でいう労働時間とは「使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」で、打刻や就業規則の決まりではなく実態で判断されます。『介護職白書 2024年度版』(株式会社マイナビ・調査時期2024年11月7日〜12月3日)でも、残業の発生源として「日勤の始業前」を挙げた人が28.4%いました。申し送りに間に合うよう早く来て準備する、朝の忙しさに備えて早めに動き出す——それが業務として求められているなら、数えられるべき時間です。前残業か迷うときほど、実際の時刻をメモに残しておいてください。

申し送りや着替えの時間は、残業代の対象になりますか?

一概には言えませんが、対象になりうる時間です。労働時間は会社の指揮命令下にある時間を指し、命じられた仕事に欠かせない行為の時間も含まれうると考えられています。会社の指示で行う申し送り・記録・準備や後片付け、義務づけられた研修などは労働時間に当たりうると厚生労働省は説明しています。着替えも、業務に不可欠なものとして事業所内で行うよう指示されている場合は含まれうるとされています。判断が難しい部分なので、まずは実際にかかった時刻をメモに残し、迷ったら公的な窓口に相談してください。

残業代は、どこまでさかのぼって請求できますか?

未払いの残業代(賃金)を請求できる期間は、法律の改正で延長されました。以前は2年でしたが、2020年4月1日以降に支払われる賃金については、当分の間5年(当面3年)まで請求できる時効になっています(厚生労働省「確かめよう労働条件」)。時間がたつほど記録が残りにくく、請求も難しくなります。だからこそ、日々の働いた時刻をメモしておくこと、給与明細を保管しておくことが役に立ちます。具体的な請求のしかたに不安があるときは、労働基準監督署や総合労働相談コーナーなど、公的な窓口に相談するのが確実です。

残業や残業代のことは、どこに相談すればいいですか?

まずは職場の中(上司・管理者や、勤怠を管理する担当)に、記録をもとに事実を示して相談するのが最初の一歩です。それで改善しない、または相談しづらいときは、職場の外の公的な窓口を頼ってください。全国の労働基準監督署や、その中などにある「総合労働相談コーナー」(無料・予約不要・全国378か所)では、賃金・残業・労働時間の相談ができます。夜間や土日に相談したいときは、厚生労働省の「労働条件相談ほっとライン」も利用できます。相談は弱さではなく、自分の働きと権利を守るための行動です。

出典


本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、正確性・最新性を保証するものではありません。 制度や施設の状況は変わることがあります。実際のご判断の前には、各施設・公式情報や公的機関でご確認ください。

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