施設選び
年金だけで入れる介護施設はある?|費用を抑える選択肢と、使える軽減制度
親の介護施設を探しはじめて、まず気になるのは「この年金で、本当に入れる場所があるのだろうか」ということではないでしょうか。パンフレットに並ぶ月額の数字を見て、そっと閉じてしまった。そんな経験をされた方も多いと思います。
介護にかかるお金の話は、なかなか人に相談しにくいものです。親のことなのに、自分の生活も守らなければならない。その板ばさみのなかで、「お金がないから」と選択肢をあきらめかけている方に、まず知っておいてほしいことがあります。
年金の範囲で入れる施設は、選ぶ場所をしぼれば、現実的に見つかることがあります。魔法のような裏技があるわけではありません。けれど、「費用を抑えやすい施設の順番」と「申請すれば使える軽減の制度」を知っているかどうかで、見える景色はずいぶん変わります。
この記事では、費用を抑えやすい施設の考え方と、食費や居住費を軽くする公的な制度を、介護の知識がまったくない方にも分かるように、順を追って説明します。過度に「大丈夫」とも言いませんし、いたずらに不安をあおることもしません。事実として使える手立てを、できるだけ正直にお伝えします。
最初に、正直にお伝えしておきたいこと

「年金だけで入れる介護施設はありますか」という問いに、いちばん誠実に答えるなら、こうなります。
あります。ただし、どの施設でも入れるわけではなく、施設の種類・親御さんの所得・お住まいの地域によって変わります。
たとえば、月に数十万円かかる民間の施設もあれば、公的な性格が強く、入るときにまとまったお金(入居一時金)がいらない施設もあります。年金の範囲を考えるなら、後者から探すのが基本になります。
さらに、所得が低い方には、食費や部屋代を軽くしてくれる公的な制度がいくつも用意されています。これらを組み合わせると、はじめに見た「高そうな金額」が、思っていたより下がることがあります。
一方で、費用を抑えやすい施設は人気が高く、地域によっては入るまで順番待ちが生じることもあります。だからこそ、「安いところが見つかるまで待つ」だけでなく、「今すぐ相談できる窓口に動く」ことが大切になります。相談先はこの記事の後半でまとめます。
まずは、費用を抑えやすい施設を「抑えやすい順」に見ていきましょう。
費用を抑えやすい施設を、順番に見ていく

介護の施設にはたくさんの種類があり、名前も似ていて分かりにくいものです。ここでは「年金の範囲で考えたときに、費用を抑えやすい順」に整理します。
ポイントは2つです。ひとつは、入るときにまとまったお金(入居一時金)がいるかどうか。もうひとつは、所得に応じて費用が軽くなる仕組みがあるかどうかです。この2つを満たす施設ほど、年金の範囲で考えやすくなります。
なお、これから出てくる金額は、すべて全国的な「めやす」です。同じ種類の施設でも、部屋のタイプ(相部屋か個室か)、地域、そして親御さんの所得によって、実際の金額は上下します。「必ずこの金額」という意味ではないことを、先にお断りしておきます。
1. 特別養護老人ホーム(特養)
まず候補になりやすいのが、特別養護老人ホーム、略して「特養(とくよう)」です。常に介護が必要で、家での暮らしが難しくなった高齢者が、長く暮らすための公的な施設です。
特養が費用を抑えやすいのには、はっきりした理由があります。
- 入居一時金がいりません。 入るときにまとまったお金を用意する必要がないのは、大きな安心材料です。
- 月額のめやすは、約8〜15万円です(相部屋か個室か、そして所得によって変わります)。この月額は「介護保険の自己負担(1〜3割)+部屋代(居住費)+食費+日用品などの費用」でできています。
- 所得の低い方は、後で説明する**「負担限度額認定」で食費と部屋代が軽くなる**ため、月額がさらに下がることがあります。
注意しておきたい点もあります。特養は原則として要介護3以上の方が対象です。「要介護3」とは、日常生活のほぼ全般に介護が必要とされる状態のめやすで、市区町村が認定します。認知症などで在宅の介護が難しいなどの事情があれば、要介護1・2でも特例で入れることがあります。
もうひとつ、特養は人気が高く、地域によっては入るまでに順番待ち(待機)が生じることがあります。入る順番は申し込んだ早さではなく、介護の必要度や介護する家族の状況などを点数にした「入所判定」で決まります。複数の施設に申し込んでおくのが一般的です。
費用の面では、年金の範囲で最初に検討したい施設のひとつと言えます。
2. 介護老人保健施設(老健)・介護医療院
次に、入居一時金がいらないという点で共通するのが、「介護老人保健施設(略して老健/ろうけん)」と「介護医療院」です。
老健は、病院と自宅の中間にあたる施設です。医師や看護師、リハビリの専門職がいて、自宅に戻ることを目標にリハビリや医療的なケア、日常の介護を受けられます。
- 入居一時金はいりません。
- 月額のめやすは、約8〜17万円です(部屋のタイプ・所得で変わります)。
- 特養と同じく、所得の低い方は「負担限度額認定」で食費・部屋代が軽くなります。
ただし老健は「自宅に戻ること」を前提とした施設で、おおむね3か月ごとに入所を続ける必要があるか判定されます。状態が安定すると退所を勧められることもあり、長く住み続ける場所としては向かない場合があります。
介護医療院は、長く続く医療と介護を一体で受けられる施設です。たんの吸引や経管栄養(口から食べられない方に管で栄養を送ること)など、医療的な管理が必要な方が療養しながら暮らします。
- 入居一時金はいりません。
- 月額のめやすは、約10〜20万円です(医療の必要度・部屋のタイプで変わります)。
- 「負担限度額認定」に加え、後述する「高額医療・高額介護合算」の対象にもなります。
老健・介護医療院は、リハビリや医療の必要性がある場合の選択肢です。費用面では一時金がいらない点が大きな利点ですが、医療の手厚さがある分、月額は特養より幅が出やすい傾向があります。
3. ケアハウス(軽費老人ホーム)
もうひとつ知っておきたいのが、「ケアハウス」を含む軽費老人ホームです。名前のとおり、比較的軽い費用で利用できるように作られた高齢者向けの住まいです。
- 月額のめやすは、約6〜17万円です。
- いちばんの特徴は、所得に応じて費用が軽くなる仕組み(事務費の軽減)があることです。所得が低いほど負担が軽くなるよう配慮されています。
- 入るときの費用は施設によって幅があり、不要のところから数十万円かかるところまであります。
ケアハウスには、自立した方向けの「一般型」と、介護が必要な方も対象になる「介護型」があります。介護が重くなったときの対応は施設によって異なるため、そこは確認が必要です。
なお、ケアハウスは後で説明する「負担限度額認定」(食費・部屋代の軽減)の対象ではありませんが、そのかわり所得に応じた独自の費用軽減があります。制度の名前が違うだけで、所得の低い方への配慮がある点は共通しています。
費用が高めになりやすい施設
一方で、民間の有料老人ホームや**サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)**は、費用が高めになりやすい傾向があります。
有料老人ホームは、入るときの費用(入居一時金)と月額の差が施設によって非常に大きく、月額は約15〜30万円が一つのめやすです。サ高住も月額約12〜25万円ほどで、家賃・食費・介護費などが含まれます。
大切なのは、これらの施設では家賃や食費が「負担限度額認定」の対象にならないということです。つまり、特養などで使える食費・部屋代の軽減が、有料老人ホームやサ高住では使えません。年金の範囲を優先して考えるなら、まずは前に挙げた一時金のいらない施設から検討するのが現実的です。
申請すれば使える、費用を軽くする制度

施設の種類選びと並んで大切なのが、「申請すれば使える軽減の制度」です。ここがこの記事でいちばんお伝えしたいところかもしれません。
これらの制度に共通する、とても重要な注意点があります。それは、**どれも「申請しないと使えない(申請主義)」**ということです。黙っていて自動的に安くなるものではありません。制度があることを知り、自分から手続きをして、はじめて使えます。だからこそ、知っているかどうかが大きな差になります。
主な制度を、ひとつずつ見ていきましょう。
食費と部屋代が安くなる「負担限度額認定」
正式には「特定入所者介護サービス費(とくていにゅうしょしゃかいごサービスひ)」といい、一般には「負担限度額認定(ふたんげんどがくにんてい)」と呼ばれます。名前は難しいですが、中身はシンプルです。
所得の低い方について、施設で払う食費と部屋代(居住費)を軽くしてくれる制度です。
- 対象になるのは、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院・ショートステイです。これらの施設では、この制度で食費・部屋代がぐっと下がることがあります。
- 使うには、住民税がかかっていない(住民税非課税)ことに加え、預貯金などの資産にも条件があります。所得だけでなく貯金の額も見られる、という点は覚えておいてください。
- 前に触れたとおり、有料老人ホームやサ高住の家賃・食費は対象外です。
手続きは、お住まいの市区町村の窓口で申請します。認定されると「介護保険負担限度額認定証」が交付され、それを施設に見せることで軽減が受けられます。
介護費に上限を設ける「高額介護サービス費」
介護保険を使うと、かかった費用の1〜3割を自分で払います。この自己負担が、月にたくさん重なると生活が苦しくなります。
そこで、ひと月に払う介護費の自己負担に上限を設け、上限を超えた分が後から戻ってくるのが「高額介護サービス費(こうがくかいごサービスひ)」です。
- 上限額は所得に応じて段階的に決められており、所得の低い方ほど上限が低く(=負担が軽く)なります。
- この制度は施設の種類を問いません。有料老人ホームやサ高住で介護を受けている場合も、介護費については対象になります。
- 一度手続きをすれば、その後は自動的に振り込まれる自治体が多いですが、最初は申請が必要な場合があります。
医療と介護を合わせて上限を設ける「高額医療・高額介護合算」
年を重ねると、介護だけでなく医療にもお金がかかることがあります。そこで、1年間に払った医療費と介護費を合算し、その合計に上限を設けて、超えた分を戻すのが「高額医療・高額介護合算療養費(こうがくいりょう・こうがくかいごがっさんりょうようひ)」です。
- 医療の負担と介護の負担が両方ある世帯にとって、負担を軽くする助けになります。
- 上限は所得や年齢に応じて決められています。
- 対象になりそうな場合は、市区町村や加入している医療保険の窓口から案内が届くことがありますが、こちらから確認するのが確実です。
生活保護を受けている場合
年金や貯金だけでは生活が立ちゆかない場合、生活保護という制度があります。生活保護を受けている方が介護を必要とするときは、「介護扶助(かいごふじょ)」によって、介護サービスの費用がまかなわれます。
- 特別養護老人ホームなどへの入所も、状況に応じて対応されます。
- 手続きや、実際にどの施設に入れるかは、担当のケースワーカーや自治体との相談になります。
- 「生活保護を受けていると施設に入れないのでは」と心配される方がいますが、そうではありません。介護が必要な状況であれば、必要な支援が受けられる仕組みになっています。
生活保護についての相談は、お住まいの地域の福祉事務所が窓口です。ためらわず相談してよいものです。
「年金額」で考えるときの見方

ここまで施設と制度を見てきました。では、実際の年金額との関係はどう考えればよいでしょうか。ひとつだけ先にお断りしておくと、年金の額は一人ひとり違い、施設の費用も地域や所得で変わるため、「年金○万円ならここに入れる」と断定することはできません。あくまで一般的な見方としてお読みください。
国民年金が中心で、年金が少なめの場合
自営業や専業主婦(主夫)として過ごした期間が長く、受け取る年金が国民年金(老齢基礎年金)中心の場合、年金額は月に数万円台になることもあります。
このとき手がかりになるのが、所得の低い方ほど軽減が効くという制度の考え方です。前に説明した「負担限度額認定」や「高額介護サービス費」は、所得が低いほど負担が軽くなるよう設計されています。年金が少ないことは、こうした軽減を受けやすい方向に働く、とも言えます。
一時金のいらない特養やケアハウスを軸に、軽減制度を組み合わせて、月々の負担がどこまで下がるかを窓口で試算してもらうのが現実的な進め方です。それでも足りない場合は、生活保護の相談も選択肢に入ります。
厚生年金がある場合
会社などに勤めた期間が長く、厚生年金を受け取れる場合は、年金額に幅が出ます。所得の段階によっては軽減の効き方が変わり、費用の見え方も変わってきます。
この場合も基本は同じで、まずは一時金のいらない施設を軸に検討し、負担限度額認定や高額介護サービス費の対象になるかを確認します。年金に少し余裕がある場合は、選べる施設の幅が広がることもありますが、その分、月額の高い施設を選ぶと負担も増えます。年金の範囲を超えない金額かどうかを、施設ごとに具体的に試算して比べるのが大切です。
年金だけでは足りないと感じたら
大切なのは、足りないかもしれないと感じた時点で、早めに相談することです。ぎりぎりまで一人で抱えず、次の窓口に声をかけてください。どこも無料で相談できます。
- 市区町村の介護保険の窓口 … 負担限度額認定などの申請や、制度全般の案内をしてくれます。
- 地域包括支援センター … 高齢者の暮らしの相談を幅広く受ける、地域の総合窓口です。どこに相談すればいいか分からないときの最初の一歩に向いています。
- 施設の相談員(生活相談員) … 見学した施設に、費用の内訳や軽減制度の使い方を具体的に聞けます。
- 福祉事務所(生活保護の窓口) … 年金や貯金だけでは生活が立ちゆかない場合の相談先です。
これらの窓口は、費用の心配を打ち明けるための場所でもあります。「お金がないので」と正直に伝えて大丈夫です。むしろ、正直に伝えるほど、使える制度を具体的に案内してもらえます。
費用だけで決めないために

最後に、費用の話をしてきたからこそ、あえてお伝えしておきたいことがあります。
費用を抑えることは、とても大切です。無理をして高い施設を選び、家族の生活まで傾いてしまっては、長続きしません。その意味で、年金の範囲で考えることは、決して後ろめたいことではなく、むしろ現実的で賢い選び方です。
ただ、安さだけで決めてしまうと、あとで別の困りごとが出ることもあります。たとえば、次のような点も一緒に考えられると、選択の失敗が減ります。
- 要介護度と施設の対象が合っているか。 特養は原則要介護3以上、老健は要介護1以上など、施設には受け入れの目安があります。安くても親御さんの状態と合わなければ入れません。
- 必要な医療やケアに対応できるか。 たんの吸引やインスリン、看取りへの対応は施設によって差があります。今後、医療的なケアが必要になりそうな場合は、対応できるかを確認しておくと安心です。
- 通いやすい場所にあるか。 遠すぎると面会の足が遠のきます。家族が無理なく会いに行ける距離かどうかは、入居後の安心に直結します。
費用・要介護度・医療・立地。この4つを天びんにかけながら、「今の親にとって、無理なく続けられる場所はどこか」という視点で見ていくと、年金の範囲という条件のなかにも、納得できる選択肢が見えてきます。
お金の不安は、それだけで心を重くします。けれど、費用を抑えやすい施設の順番と、申請すれば使える制度を知っているだけで、動ける方向がはっきりします。まずは、地域包括支援センターか市区町村の窓口に、「親の年金の範囲で入れる施設を探しています」と一言、相談してみてください。そこから、あなたと親御さんに合った道が開けていくはずです。
※この記事の費用はすべて全国的なめやすであり、部屋のタイプ・地域・所得によって変わります。制度は年度や改定で変わることがあります(記載内容は2026年7月時点)。個別の適用や費用は、施設・市区町村・専門家に必ずご確認ください。
よくある質問
年金だけで特養に入れますか?
施設の種類や所得、地域によりますが、費用を抑えやすい特別養護老人ホーム(特養)は、入居一時金が不要で月額は約8〜15万円がめやすです(居室のタイプと所得で変わります)。所得の低い方は「負担限度額認定」で食費・居住費が軽くなるため、年金の範囲におさまる場合があります。ただし人気が高く待機が生じることもあり、必ず入れるとは言えません。まずは市区町村や地域包括支援センターにご相談ください。
費用がいちばん安い介護施設はどこですか?
一般に、入居一時金がなく公的な性格の強い施設ほど抑えやすいとされます。目安としては特別養護老人ホーム、介護老人保健施設・介護医療院、ケアハウス(軽費老人ホーム)などです。金額はあくまでめやすで、居室のタイプ・所得・地域で変わります。民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は費用が高めの傾向があります。
年金が少なくて費用が足りない場合はどうすればいいですか?
まず市区町村の介護保険の窓口や地域包括支援センター、施設の相談員(生活相談員)に相談してください。食費・居住費が軽くなる「負担限度額認定」や、自己負担に月額上限を設ける「高額介護サービス費」など、申請で使える軽減制度があります。それでも生活が立ちゆかない場合は、生活保護の窓口(福祉事務所)への相談も選択肢です。
生活保護を受けていても介護施設に入れますか?
生活保護を受けている方も、介護が必要な場合は「介護扶助」により介護サービスを利用できます。特別養護老人ホームなどへの入所も、状況に応じて対応されます。手続きや入れる施設は自治体・ケースワーカーとの相談になりますので、担当の福祉事務所や地域包括支援センターにご確認ください。
負担限度額認定はどの施設でも使えますか?
いいえ。食費・居住費が軽くなる「負担限度額認定」の対象は、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院・ショートステイに限られます。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の家賃・食費は対象外です。ただし介護費の自己負担については、種類を問わず「高額介護サービス費」の月額上限を利用できます。
親と世帯を分ける「世帯分離」をすると、施設の費用は安くなりますか?
場合によっては、食費・部屋代の軽減(負担限度額認定)の対象になり、結果として安くなることがあります。負担限度額認定は「世帯全員が住民税非課税であること」が条件のひとつなので、課税されている家族と世帯を分けることで、親御さんの世帯が非課税世帯になり、対象に入ることがあるためです。ただし、世帯分離は費用を下げるための手続きではなく、実際の暮らしの実態に合わせて行うものです。また、配偶者の所得や資産は世帯を分けても合わせて見られるうえ、国民健康保険料など他の負担が変わることもあります。損得はケースによって異なるので、市区町村の窓口で自分たちの場合にどうなるかを確認してから判断してください。
出典
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、正確性・最新性を保証するものではありません。 制度や施設の状況は変わることがあります。実際のご判断の前には、各施設・公式情報や公的機関でご確認ください。
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