働き方
ICFとは|6つの構成要素と「活動と参加」の線引き、記録での使い方
内容確認: 2026年7月28日 ・ 次回確認期限: 2027年4月30日 ・ 編集部確認済み
「入浴は活動なのか、参加なのか」。ICFの図を思い浮かべながら、アセスメントシートの前でそこだけ何分も止まったことはないでしょうか。
研修でICFの図は何度も見ました。矢印が双方向に走っているあの図です。説明も聞きました。それでも、いざ自分の書類を埋める段になると手が動かない。ICFとは何かを調べ直しては、また同じ図に戻ってくる。
先に、いちばん肩の力が抜けることを書きます。**活動と参加の区別に迷うのは、あなたの理解が足りないからではありません。**ICF本体が「区別することは困難である」と認めたうえで、区別のしかたを4通り示し、どれを採るかを使う側に委ねているからです。
そしてもうひとつ。ICFの使用を義務づける条文は、居宅介護支援の運営基準のどこにもありません。それでいて、介護報酬の通知は「心身機能」「活動」「参加」という3つの言葉で書かれています。あなたが毎日埋めている計画書は、ICFという名前を出さないまま、すでにICFの形をしているわけです。
この記事では、厚生労働省が公開しているICF日本語版の本文と、介護報酬の通知の原文にあたって、6つの構成要素の正確な意味、活動と参加をめぐる迷いの正体、そして記録での具体的な書き分け方までを整理します。
読み終えたときに手元に残るのは、覚えるべき図ではありません。明日の記録で1つの行為を3行に分けて書く、という具体的な手順です。
まず結論:ICFは覚える図ではなく、記録の枠

ICFは「分類」であって、あの相互作用の図そのものではありません。 ICF本体の序論に、はっきりこう書かれています。「ICFは分類であり、生活機能や障害の『過程』をモデル化するものではない」。図は理解を助けるために添えられたもので、本体は約1,500項目にのぼる分類のほうです。
「活動」と「参加」の区別は、ICF本体が使う側に委ねています。 「活動と参加の分類の各領域別に、『活動』と『参加』とを区別することは困難である」と本体が認めたうえで、区別のしかたを4通り示し、どれを採るかを利用者に選ばせる形をとりました。区別しないという選び方も、その4つのうちに含まれます。現場で毎回迷うのは、理解が足りないからではありません。
そして、ICFの使用を義務づける条文はありません。 居宅介護支援の運営基準を全文で検索しても、ICFという語は1度も出てきませんでした。それなのに、介護報酬の通知は「心身機能」「活動」「参加」という3つの言葉で書かれています。あなたがいま埋めている計画書は、すでにICFの形をしています。
この記事のゴールは、6つの要素を暗記することではありません。明日の記録の1行を、ICFの枠で書き分けられるようになることです。
17年目の訪問介護ヘルパーが、noteにこう書いていました。
記録は、利用者様、家族様、他業種、そして同じ利用者様のサービスに入るヘルパーの数少ない連絡ツールと私は思っていつも書いている。①電子記録②連絡メール③手書きの記録④口頭連絡。なのに!!これだけしても繋がらない、伝わらない。
手段は4つもある。それでも伝わらないとしたら、足りないのは手段の数ではなく、書く枠が揃っていないことかもしれません。ICFが「共通言語」と呼ばれるのは、まさにこの一点に関わっています。
ICFとは|生活機能をプラス面から見る分類

ICFは International Classification of Functioning, Disability and Health の略で、日本語では「国際生活機能分類」と呼ばれます。2001年5月、世界保健機関(WHO)の総会で採択されました。ここではまず、その前身であるICIDHから何が入れ替わったのか、用語の定義はどうなっているのか、そして分類としてどのくらいの規模のものなのかを、原文にあたって確認します。
ICIDHから何が入れ替わったのか
ICFの日本語版は、厚生労働省のホームページで公表されました。2002年8月5日の報道発表資料に、経緯がこう記されています。
ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)は、人間の生活機能と障害の分類法として、2001年5月、世界保健機関(WHO)総会において採択された。この特徴は、これまでのWHO国際障害分類(ICIDH)がマイナス面を分類するという考え方が中心であったのに対し、ICFは、生活機能というプラス面からみるように視点を転換し、さらに環境因子等の観点を加えたことである。
ICIDHは1980年にWHOが試案として発表した分類で、正式には国際障害分類といいます。ICFはその改訂版にあたり、2001年5月22日の第54回世界保健会議で決議WHA54.21として承認されました。
何が入れ替わったのかは、用語の対応を見るのが早道です。ICF序論の脚注に、こうあります。
これらの用語は,以前用いられていた「機能障害(impairment)」,「能力障害(disability)」,「社会的不利(handicap)」にとって代わり,分類の視野を拡大して,マイナス面だけでなくプラス面をも記述できるようにしたものである。
| ICIDH(1980年) | ICF(2001年) | 視点の違い |
|---|---|---|
| 機能障害(impairment) | 心身機能・身体構造 | 失われた機能 → 体と心の働きそのもの |
| 能力障害(disability) | 活動 | できないこと → 課題や行為の遂行 |
| 社会的不利(handicap) | 参加 | 被った不利 → 生活・人生場面への関わり |
| (該当なし) | 環境因子 | —(新設。人を取り巻くものを分類対象にした) |
左の3語は、いずれも「失われたもの」を数える言葉でした。右の3語は、いま何がどう働いているかを書く言葉です。同じ人を見ていても、書き出される中身が変わります。
ICF序論は、この移行を一段抽象化してこう表現しています。「ICFは『疾病の結果(帰結)』の分類(1980年版)から『健康の構成要素』の分類へと移行してきた」。病気の結果として何を失ったかではなく、健康を構成しているものを並べる分類になった、ということです。
「生活機能」と「障害」は包括用語
ICFを読むときにつまずきやすいのが、「生活機能」と「障害」という2つの言葉の使い方です。日常語の感覚で読むとずれます。序論の定義はこうです。
ここで生活機能(functioning)とは心身機能・構造,活動,参加の全てを含む包括用語である。同様に障害(disability)は,機能障害(構造障害を含む),活動制限,参加制約の全てを含む包括用語として用いられている。
つまり「生活機能」は、心身機能・身体構造と活動と参加の3つをまとめて呼ぶための総称です。「体の機能」という意味ではありません。同じく「障害」も、機能障害・活動制限・参加制約の3つの総称であって、特定の状態を指す言葉でもありません。
この対応関係は、厚生労働省の報道発表資料に添えられた表で確認できます。
| 構成要素 | 肯定的側面 | 否定的側面 |
|---|---|---|
| 心身機能・身体構造 | 機能的・構造的統合性 | 機能障害(構造障害を含む) |
| 活動・参加 | 活動/参加 | 活動制限/参加制約 |
| 環境因子 | 促進因子 | 阻害因子 |
| 個人因子 | 非該当 | 非該当 |
上の3行が「生活機能」にあたり、下の3行の否定的側面が「障害」です。表の最下段、個人因子だけが肯定・否定のどちらも「非該当」になっている点は、後ほど詳しく触れます。
障害のある人だけのものではない
もうひとつ、ICF本体がわざわざ念を押している点があります。
ICFは,障害のある人だけに関するものとの誤解が広まっているが,ICFは全ての人に関する分類である。あらゆる健康状態に関連した健康状況や健康関連状況はICFによって記述することが可能である。
序論はこの段落を「つまり,ICFの対象範囲は普遍的である」と結んでいます。「誤解が広まっているが」という書き方に、この分類の立場がよく表れました。要介護認定を受けている人にも、まだ受けていない人にも、支援する側の職員にも同じ枠が使えます。夜勤明けで頭が回らない自分の状態も、ICFの言葉に置き換えれば「心身機能の一時的な変化」であり、そこには職場の勤務体制という環境因子が効いている——そう説明することもできます。
ただし、なんでも扱えるわけではありません。序論は範囲についてもこう線を引いています。「ICFは広い意味での健康の範囲にとどまるものであり,社会経済的要因によってもたらされるような,健康とは無関係な状況については扱わない」。
約1,500項目という規模感
ICFの実体がどのくらいのものかは、あまり知られていません。厚生労働省の報道発表資料に数字が出ています。
人間の生活機能と障害について「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つの次元及び「環境因子」等の影響を及ぼす因子で構成されており、約1,500項目に分類されている
序論の記述はさらに具体的です。「2桁レベルではコードの全数は362である。より詳細なレベルにおいてはこれらのコードの数は1424にまでなる」。1,424という数字は、第4レベルまで展開した完全版のコード数です。
| レベル | コード数 | 用途・内訳 |
|---|---|---|
| 1桁レベル | 1人あたり最大34 | 内訳は心身機能8・身体構造8・実行状況9・能力9 |
| 2桁レベル(短縮版) | 全数362 | 調査や臨床効果の評価に用いる |
| 4桁レベル(完全版) | 全数1,424 | リハビリテーションの効果、老年医学などの専門的サービスで用いる |
数字だけ見ると身構えますが、序論は実務での目安も添えています。「あるケースを第2レベル(3桁)の正確さで表現するためには,3〜18個のコードが適当であろう」。1,500項目すべてを使うのではなく、その人に関係する十数個を選ぶ設計だということです。
とはいえ、介護の現場でコードを付ける場面はまず訪れません。その理由は後半の「制度の中のICF」で扱います。ここでは、ICFが「考え方」であると同時に「膨大な項目表」でもあるという二面性だけ、頭の隅に置いてください。
ICFの6つの構成要素|定義を原文で確認する

ICFは一般に「健康状態」「心身機能・身体構造」「活動」「参加」「環境因子」「個人因子」の6つで説明されます。研修で配られる図も、たいていこの6つが矢印で結ばれた形をしています。ただ、原文にあたると6つの扱いは対等ではありません。分類として項目が用意されているもの、他の分類に任されているもの、そもそも分類されていないものが混ざっています。ここを整理しておくと、後で書類を書くときの迷いが減るはずです。
健康状態
健康状態は、病気・変調・傷害などを指します。脳梗塞、認知症、変形性膝関節症、骨折といったものがここに入ります。
ただし、ICFの分類項目のなかに「健康状態」の章はありません。序論によれば、健康状態は主にICD-10(国際疾病分類第10版)という別の分類が担当します。ICFが引き受けるのは、そこから先です。
健康状態に関連する生活機能と障害はICFによって分類される。したがって,ICD-10とICFとは相互補完的であり
つまり健康状態はICD-10が担当し、ICFはその健康状態に関連する生活機能のほうを引き受けます。図のいちばん上に健康状態が置かれているのは、ICFの外側から接続してくる情報だからです。
この整理が効いてくる場面があります。診断名を書いた欄が埋まっても、ICFの側は1文字も埋まっていない、ということです。「アルツハイマー型認知症」と書いたところで、その人が何をしていて何ができるのかは、まだ何も記録されていません。
心身機能・身体構造
心身機能は体と心の働き、身体構造は体の部分そのものを指します。コードはそれぞれ b(body functions)と s(body structures)で始まる記号です。
心身機能は8つの章に分かれています。
| 章 | 内容 |
|---|---|
| 第1章 | 精神機能 |
| 第2章 | 感覚機能と痛み |
| 第3章 | 音声と発話の機能 |
| 第4章 | 心血管系・血液系・免疫系・呼吸器系の機能 |
| 第5章 | 消化器系・代謝系・内分泌系の機能 |
| 第6章 | 尿路・性・生殖の機能 |
| 第7章 | 神経筋骨格と運動に関連する機能 |
| 第8章 | 皮膚および関連する構造の機能 |
第1章の精神機能には、意識機能・見当識機能・知的機能・注意機能・記憶機能・情動機能・思考機能・高次認知機能などが並びます。認知症のある方について「認知機能の低下」とひとことで書いてしまいがちなところが、ICFの枠では見当識なのか記憶なのか注意なのかに分かれる、ということです。
身体構造も同じく8章あり、神経系の構造、目・耳および関連部位の構造、運動に関連した構造といった具合に、体の部位ごとに整理されています。
活動と参加
ここはICFの中心であり、同時にいちばん誤解されやすい部分です。まず定義を原文で確認します。
活動とは,課題や行為の個人による遂行のことである。 参加とは,生活・人生場面への関わりのことである。
うまくいかない状態の呼び方も、それぞれ別に定義されています。
| 用語 | ICF序論の定義(原文の言い回し) |
|---|---|
| 活動制限 | 個人が活動を行うときに生じる難しさのこと |
| 参加制約 | 個人が何らかの生活・人生場面に関わるときに経験する難しさのこと |
活動は「する」こと、参加は「関わる」ことです。食事をとる動作は活動、家族と食卓を囲むことは参加、と説明されます。
ICFでは、この2つが1つのリストにまとめられ、d(domains)から始まるコードで9つの章に整理されています。
| コード | 章 | 介護現場で対応するもの |
|---|---|---|
| d1 | 学習と知識の応用 | 説明の理解、手順の習得 |
| d2 | 一般的な課題と要求 | 日課をこなす、ストレスへの対処 |
| d3 | コミュニケーション | 会話、意思表示、電話 |
| d4 | 運動・移動 | 寝返り、起き上がり、移乗、歩行、外出 |
| d5 | セルフケア | 入浴、更衣、排泄、食事、整容 |
| d6 | 家庭生活 | 買い物、調理、掃除、洗濯 |
| d7 | 対人関係 | 家族・友人・職員との関係 |
| d8 | 主要な生活領域 | 仕事、経済生活 |
| d9 | コミュニティライフ・社会生活・市民生活 | 地域行事、趣味の集まり、信仰 |
「参加」というと地域活動やボランティアを思い浮かべがちですが、d7の対人関係も参加の領域です。誰かと言葉を交わすことも、生活・人生場面への関わりにあたります。
そして参加は、放っておくと減っていくものでもあります。ICF序論は、構成要素どうしの逆方向の影響について具体例を挙げており、そのひとつがこれです。
逆方向の影響がある程度ある場合(例:手足を使わないことが筋萎縮の原因となる場合,施設入所が社会生活技能の喪失につながる場合)
施設入所が社会生活技能の喪失につながる場合。介護の側にいる人間にとっては、目をそらしたくなる例かもしれません。ただ、これを書き留められる欄があるかどうかで、気づける時期が変わります。
環境因子
環境因子は e(environmental factors)から始まり、5つの章に分かれます。
| コード | 章 | 例 |
|---|---|---|
| e1 | 生産品と用具 | 杖、車椅子、手すり、住宅改修、薬 |
| e2 | 自然環境と人間がもたらした環境変化 | 気温、段差、音、明るさ |
| e3 | 支援と関係 | 家族、友人、職員、近隣 |
| e4 | 態度 | 家族の考え方、職場の空気、社会の偏見 |
| e5 | サービス・制度・政策 | 介護保険、事業所の運営方針、自治体の施策 |
環境因子で見落とされやすいのが、e4とe5です。手すりやスロープのような目に見えるものだけでなく、周囲の態度も制度も環境因子に含まれます。序論の定義もそう書いています。
環境因子(environmental factors)とは人々が生活し,人生を送っている物的な環境や社会的環境,人々の社会的な態度による環境を構成する因子のことである。
そしてICFは、環境因子を促進と阻害の両面で見ます。
阻害因子を含んでいたり促進因子のない環境は,個人の実行状況を制限するであろうし,より促進的な環境はその実行状況を向上させるであろう。社会は個人の実行状況を,阻害因子を作り出すこと(例:利用できない建物)で,あるいは促進因子を供給しないこと(例:福祉用具が利用できないこと)で妨げる可能性がある。
阻害因子を作り出すことだけでなく、促進因子を供給しないことも妨げになる、という指摘です。何もしていないことが環境の側の問題として数えられる、という書き方には重みがあります。
e3の「支援と関係」が促進因子として働く場面は、現場のほうがよく知っています。小規模施設で10年以上働く介護職員が、noteにこう書いていました。
他の職員が行くと怒鳴って動かない利用者が、自分が声をかけると渋々でも立ち上がってくれる。
同じ利用者の、同じ「立ち上がる」という行為です。それでも、誰が声をかけるかで結果が変わっている。この方は「大事なのは、その人がどういう人生を生きてきたかを想像すること」とも書いていました。
ICFの枠で見れば、この差は本人の能力の変動ではありません。関係という環境因子が、促進の側に働いたということです。そして、それは記録できます。「拒否あり」で終わらせず、誰が・どんな言い方で声をかけたときに動いたかを書けば、次の職員に渡せる情報になります。
制度もまた環境因子です。訪問できる時間帯や回数、サービスの区分。それらが本人の希望とずれるとき、原因は職員の努力不足ではありません。e5のサービス・制度・政策が阻害因子の側に働いている、と書ける欄がある。誰のせいでもない要因を、要因として記録できることが、この枠の効き目です。
個人因子は分類されていない
最後の個人因子は、性別、年齢、生育歴、職業、性格、価値観、困難への対処のしかたといった、その人固有の背景を指します。競合する解説の多くは、ここまでは同じように説明します。
ただ、決定的な一文が抜けがちです。
個人因子はICFには分類として含まれていないが,その関与を示すために図1には含まれている。
さらに序論の別の箇所にも、繰り返しこうあります。「一方,個人因子はICFの今回の版では分類されていない」「これらの評価は必要に応じて利用者に任されている」。
つまり個人因子には、コードも章立ても存在しません。図のなかに枠だけがあり、中身は使う人が自分で書く設計です。先ほどの表で、個人因子の肯定的側面・否定的側面がどちらも「非該当」だったのは、このためです。
理由は、序論の別の箇所から読み取れます。ICFは国際比較のための分類であり、活動と参加についても「国際的な多様性と,各専門職間,また各理論的枠組み間でのアプローチの相違により」統一できなかったと書かれています。文化や社会によって意味が大きく変わるものは、世界共通のコードにしにくい。個人因子はまさにその種類のものです。
現場にとって、これはむしろ朗報かもしれません。「戦後すぐの生まれで、三人きょうだいの長女として家を支えてきた」「人に頼むのが苦手」といった記述に、決まった型はありません。書きたいように書いてよい欄です。
「活動」と「参加」で迷うのは、あなたのせいではない

アセスメントシートや計画書を前にして、「入浴は活動か、それとも参加か」で手が止まった経験はないでしょうか。研修で聞いた説明を思い出しても、決め手が見つからない。この節では、その迷いの正体をICF本体の記述から明らかにし、代わりに使うべき2つの軸を示します。
ICF本体が「区別することは困難」と書いている
結論から書きます。区別できないのは、ICFがそう設計されているからです。
活動と参加の分類の各領域別に,「活動」と「参加」とを区別することは困難である。同様に,各領域別に「個人」と「社会」の観点を区別しようとすることも,国際的な多様性と,各専門職間,また各理論的枠組み間でのアプローチの相違により可能ではなかった。
「困難である」「可能ではなかった」と、ICF本体が認めています。日本語版が公表された2002年から、この記述はずっとそこにあります。
だから、活動と参加はd1からd9までの単一のリストとして示されました。序論の言い方はこうです。「活動と参加の領域は,単一のリストとして示されており」「このリストの構成要素は,(a)『活動』,(p)『参加』,または両方を示すために用いることができる」。
先ほどのd1〜d9の表を思い出してください。あの9章は「活動の章」と「参加の章」に分かれていません。同じ1本のリストです。
区別のしかたは4つ示され、選択は利用者に委ねられた
では、どう扱えばよいのか。ICFは方法を4つ提示し、選択を使う側に委ねました。
そのため,ICFでは単一のリストを用意し,利用者が彼ら自身の操作的な方法で活動(A)と参加(P)とを区別して使用できるようにした。…それを行う可能な方法は4つある。
序論が挙げた4通りは、次のとおりです。
| 方法 | 内容(ICF序論の原文) |
|---|---|
| (a) | いかなる重複も認めず,ある領域を活動とし,その他を参加とするもの |
| (b) | (a)と同様だが,部分的な重複を認めるもの |
| (c) | すべての詳細な領域を活動,大分類のみを参加として用いるもの |
| (d) | すべての領域を活動と参加の両方として用いるもの |
この4つは並列に置かれているだけで、どれが正解とも書かれていません。ここでいう「利用者」はICFを使う側、つまり私たち専門職を指します。
だとすれば、事業所ごとに様式の分け方が違っていても、それ自体はおかしなことではありません。「うちの様式は活動と参加が分かれていないから遅れている」わけでもない。ICFが4通りを許した以上、様式の違いは運用の違いにすぎません。
もうひとつ、脚注に短くも重い記述があります。「表2の一括表の中で,参加の唯一可能な指標は,実行状況についてコード化することである。このことは,参加が自動的に実行状況に等しいということを意味しているものではない」。参加を単独で測る物差しは、ICFのなかにも用意されていない、ということです。
だから、「活動か参加か」で長く悩む必要はありません。分けられない前提で作られているものを分けようとしていたのですから、時間がかかって当然でした。
能力と実行状況という2つの評価点
活動と参加を分ける代わりに、ICFが本当に使ってほしい軸は別にあります。実行状況と能力の2つです。
実行状況(performance)の評価点とは,個人が現在の環境のもとで行っている活動/参加を表すものである。
能力(capacity)の評価点とは,ある課題や行為を遂行する個人の能力を表すものである。この構成概念は,ある領域についてある時点で達成することができる最高の生活機能レベルを示すことを目的としている。
先ほどのd1〜d9のリストには、各章に「実行状況」と「能力」という2つの評価点欄が用意されています。つまりICFは、9つの領域それぞれについて、いま実際にしていることと、条件が整えばできることの両方を書かせる構造をとりました。
介護の現場では、これを別の言葉で呼んでいます。ADLの記録で使う「している」「できる」が、ICFの実行状況・能力にそれぞれ対応します。ただしICFの能力は標準化された環境を想定する概念で、現場の「できるADL」がいつもその前提に立っているとは限りません。ADLの記録での書き分けはADLとは|できるADL・しているADLの違いと、記録での書き分け方で詳しく扱っています。
| 実行状況(performance) | 能力(capacity) | |
|---|---|---|
| 見るもの | 現在の環境のもとで行っていること | その時点で達成できる最高のレベル |
| 環境の扱い | いまの環境をそのまま含む | 標準化された環境を想定する |
| 現場での呼び方 | している | できる |
| 福祉用具・人的支援 | どちらも「使う場合」「使わない場合」の両方で記録できる | |
福祉用具と人的支援の扱いについては、序論に明記があります。「能力と実行状況の評価点はいずれも,福祉用具や人的支援をともなう場合と,ともなわない場合の両方について用いることができる」。杖を使えば歩ける人について、杖ありの状態と杖なしの状態を別々に書ける、ということです。
2つのギャップが教えてくれること
そして、この2軸を使う最大の理由が、序論に1文で書かれています。
能力と実行状況の間のギャップは現在の環境と画一的な環境の影響の差を反映し,したがって,実行状況を改善するために個人の環境に対して何をなすべきかについての有用な手引きを提供する。
できるのに、していない。その差は、本人のやる気の問題ではなく、環境の影響の差だとICFは言い切っています。そして、その差こそが「環境に対して何をすべきか」の手引きになる、と。
具体例で考えてみます。ある方が、手すりがあれば一人でトイレに行けるとします。ところが実際は毎回職員を呼んでいる。能力と実行状況にギャップがある状態です。
| 状態 | ICFでの書き方 | そこから見えること |
|---|---|---|
| 手すりがあれば一人で行ける | 能力:見守りなしで可能 | 身体の側の準備はできている |
| 実際は毎回職員を呼んでいる | 実行状況:一部介助 | 環境の側に理由がある |
| 夜間は照明が届かず足元が見えない | 環境因子(e2):阻害因子 | 照明の位置を変えれば差が縮む可能性 |
このとき、記録に「意欲低下」と書いてしまうと、原因が本人の内側に閉じ込められます。ICFの枠なら、差の理由を環境の欄に書けます。同じ場面を見ていても、書ける場所が変わると、次に打てる手が変わるわけです。
序論は、機能障害がなくても実行状況に問題が生じうることにも触れています。「実行状況に関して,個人に機能障害がない場合でさえ,社会環境が原因となって問題が生じることがある」。体は動くのに、環境の側の事情でできていない。その状態を書くための欄が、ICFには初めから用意されていました。
制度の中のICF|義務ではないのに、書類はICFの形

研修で「ICFの視点を持ちましょう」と言われても、では使わなければ何かに引っかかるのか、と考えると急に足元が怪しくなります。ここでは条文と通知を実際に確認して、ICFが制度のどこに位置しているのかをはっきりさせましょう。結論を先に書くと、義務づける条文は見あたらないのに、日々埋めている様式のほうはICFの構造でできています。
運営基準にICFという語は出てこない
ケアマネジャーの仕事を規律しているのは、指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)です。アセスメントの定義も、居宅を訪問して面接する義務も、この省令の第13条に書かれています。
この省令の条文をe-Gov法令検索で全文取得して確認したところ、「ICF」「国際生活機能分類」「生活機能」のいずれの語も、条文中に1度も出てきませんでした(2026年7月時点)。
つまり、ケアマネジャーにICFの使用を命じる条文はありません。アセスメントで求められているのは「適切な方法により」課題を把握することであり、その方法をICFに限定する規定はない、ということです。課題分析の枠として国が示しているのは課題分析標準項目の23項目のほうで、その中身はアセスメントとは|介護の課題分析標準項目23項目と2023年改正の要点にまとめています。
ここで肩の力が抜けてほしいところです。ICFは、使わないと指導の対象になるようなものではありません。使うと記録が通じやすくなる道具、という位置づけがいちばん実態に近い理解です。
通知は「心身機能」「活動」「参加」で書かれている
ところが、介護報酬の側に目を移すと景色が変わります。
リハビリテーションや個別機能訓練の実務を定めた通知に、介護保険最新情報Vol.936(令和3年3月16日・厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課、老人保健課)があります。この通知にも「ICF」という語は出てきません。それでいて、本文は生活機能の低下した利用者へのリハビリテーションの目的を、こう書き出しています。
単に運動機能や認知機能といった心身機能の改善だけを目指すのではなく、利用者が有する能力を最大限に発揮できるよう、「心身機能」「活動」「参加」のそれぞれの要素にバランスよく働きかけていくこと、また、これによって日常生活の活動を高め、家庭や社会への参加を可能とすることを目的とするものである。
「心身機能」「活動」「参加」。ICFの生活機能を構成する3要素が、そのまま並んでいます。
同じ通知は、この考え方が理学療法士・作業療法士・言語聴覚士だけのものではないことも明記しました。
特に日常生活上の生活行為への働きかけである介護サービスは、リハビリテーションの視点から提供されるべきものであるとの認識が重要である。
介護サービスそのものが、生活機能に働きかける行為として位置づけられています。ICFの枠が介護職に関係するのは、たまたま研修に出てくるからではありません。
リハビリテーションマネジメントの説明も同じです。通知は調査・計画・実行・評価・改善の頭文字をとったSPDCAというサイクルを示し、それを通じて「心身機能、活動及び参加について、バランス良くアプローチする」ことを求めています。アセスメントの段階についても「利用者の心身機能、活動及び参加の観点からアセスメントを行うこと」という一文が置かれました。
調査の段階では、何を把握するかまで具体的に指示されています。
事業所の医師の診療、運動機能検査、作業能力検査等により利用者の心身機能や、利用者が個人として行う日常生活動作(以下「ADL」という。)や手段的日常生活動作(以下「IADL」という。)といった活動、家庭内での役割、余暇活動、社会地域活動、リハビリテーション終了後に行いたい社会参加等の取組等といった参加についての状況を把握すること。
ADL・IADLが「活動」、家庭内での役割や余暇活動や社会地域活動が「参加」。ICFの枠組みが、介護報酬の言葉として翻訳されているのが分かります。
個別機能訓練の長期目標はa〜cで立てる
同じ通知のなかで、いちばん直接的な記述は個別機能訓練加算の項にありました。長期目標の立て方についてこう書かれています。
長期目標は生活機能の構成要素である以下a~cをバランスよく含めて設定することが求められる。 a 体の働きや精神の働きである「心身機能」 b ADL・家事・職業能力や屋外歩行といった生活行為全般である「活動」 c 家庭や社会で役割を果たすことである「参加」
国の通知が、心身機能・活動・参加を日本語で定義しています。「生活機能の構成要素である」という前置きまで付いています。ICFという語こそ使われていませんが、これはICFの生活機能そのものです。
そのうえで、通知は目標の立て方に踏み込みます。
具体的には、利用者が住み慣れた地域で居宅において可能な限り自立して暮らし続けることができるよう、単に座る・立つ・歩くといった身体機能の向上を目指すことのみを目標とするのではなく、居宅における生活行為(トイレに行く、自宅の風呂に一人で入る、料理を作る、掃除・洗濯をする等)や地域における社会的関係の維持に関する行為(商店街に買い物に行く、囲碁教室に行く、孫とメールの交換をする、インターネットで手続きをする等)等、具体的な生活上の行為の達成を含めた目標とすること。
商店街に買い物に行く。囲碁教室に行く。孫とメールの交換をする。国の通知に、こういう具体例が並んでいます。「参加」を抽象的な理念で終わらせず、行き先と相手の名前がつくところまで降ろしています。
興味・関心チェックシートは「参加」の様式
同じ通知には、別紙様式として「興味・関心チェックシート」も添付されました。使い方の説明はこうです。
利用者が日常生活上実際にしていること、実際にしてはいないがしてみたいと思っていること、してみたいまでは思わないものの興味があると思っていることに関して、利用者の記入又は聞き取りにより作成すること。
様式は「している」「してみたい」「興味がある」の3列に、生活行為がずらりと並ぶ形です。実際に載っている項目を一部挙げます。
| 区分 | 様式に並ぶ生活行為(抜粋) |
|---|---|
| 身のまわり | 自分でトイレへ行く/一人でお風呂に入る/自分で服を着る/自分で食べる/歯磨きをする/身だしなみを整える/好きなときに眠る |
| 家事 | 掃除・整理整頓/料理を作る/買い物/家や庭の手入れ・世話/洗濯・洗濯物たたみ |
| 外出・つきあい | 電車・バスでの外出/孫・子供の世話/動物の世話/友達とおしゃべり・遊ぶ/家族・親戚との団らん/居酒屋に行く/地域活動(町内会・老人クラブ)/お参り・宗教活動 |
| 趣味 | 読書/俳句/書道・習字/絵を描く・絵手紙/写真/歌を歌う・カラオケ/将棋・囲碁・麻雀・ゲーム等/散歩/編み物/畑仕事/旅行・温泉 |
居酒屋に行く。デート・異性との交流。競馬・競輪・競艇・パチンコ。国が示す様式に、こうした項目が実際に印刷されています。「その人らしさ」という抽象語を使わずに、その人の暮らしを聞き出すための道具です。
そして注目したいのが、3つの列の意味です。「している」は実行状況、「してみたい」と「興味がある」は、いまは実行されていないが本人の側に動機がある領域。ICFの2軸に、本人の希望という3つ目の軸を足した形になっています。
同じ思想は、計画書の書き方にも及びました。リハビリテーション計画書の「活動の状況」欄について、通知はこう指示しています。「現在の状況については『している』状況を該当箇所にチェックすること」。ADLの評価にBarthel Indexを使う場合も「現在『している』状況について評価を行い」と念を押されています。
国の様式は、能力ではなく実行状況を先に書かせています。ICFが「実行状況は現在の環境のもとで行っていること」と定義したその欄が、日本の介護保険では「している」という一語になって現場に届いている、ということです。
記録でICFを使う|明日から書き分ける3つの欄

ここまでで、ICFが何であり、制度のどこにいるのかは整理できました。残るのは、では明日の記録で何をするか、です。この節では、コードを覚えなくても今日から使える書き分けの形を1つ渡します。研修の資料をもう一度開く必要はありません。
コードと評価点は現場で付けなくてよい
まず、身構えなくてよい理由から書きます。
ICFのコードは、単体では意味を持ちません。序論にこうあります。
ICFのコードは評価点があってはじめて完全なものとなる。評価点は健康のレベルの大きさ(例:問題の重大さ)を表す。…どのコードも最低1つの評価点を伴う必要がある。評価点がなければ,コード自体には何の意味もない。
評価点は0から4の共通スケールで、次のように定められています。
| 評価点 | 意味 | 目安 |
|---|---|---|
| xxx.0 | 問題なし | 0〜4% |
| xxx.1 | 軽度の問題 | 5〜24% |
| xxx.2 | 中等度の問題 | 25〜49% |
| xxx.3 | 重度の問題 | 50〜95% |
| xxx.4 | 完全な問題 | 96〜100% |
| xxx.8 | 詳細不明 | — |
| xxx.9 | 非該当 | — |
たとえば「d5101._1」は、いまの環境で使える補助用具を使って全身入浴に軽度の困難がある状態を表します。環境因子だけは例外です。促進因子を示すときには小数点をプラスに置き換え、e110+2のように書きます。
ここまで読んで「現場で毎日これを付けるのか」と思われたなら、序論の次の一文が答えになります。
利用者は,本分類の使用にあたってはWHOと協力センターを通じて所定の研修を受講することが,強く推奨される。
コード化は所定の研修を前提とした作業です。序論には、パーセント表示の運用について「ここに示した数量的なスケールを普遍的に用いることが可能になるためには,研究を重ねて評価の手順が開発される必要がある」という注記まで添えられています。
ですから、介護記録にICFコードを書き込む必要はありません。ICFのコードや評価点は、点数で人を判定するための道具でもありません。現場が受け取るべきなのは、コードそのものではなく分け方のほうです。
「している」「できる」「環境」の3行で書き分ける
そこで提案したいのが、1つの生活行為について3行に分けて書く、という方法です。ICFの実行状況・能力・環境因子を、そのまま記録の形に置き換えたものになります。
| 行 | 書くこと | ICFでの位置 |
|---|---|---|
| 1行目 | いま している こと(誰の手を借りて、どこまで) | 実行状況 |
| 2行目 | 手を貸さなければ できる こと(条件が整えばどこまで) | 能力 |
| 3行目 | 環境が変われば 変わりそうなこと(何が助けになり、何が邪魔をしているか) | 環境因子 |
同じ場面を、従来の書き方とこの3行で比べてみましょう。
| 書き方の例 | |
|---|---|
| 従来 | 入浴:一部介助。意欲低下あり。声かけにて浴室へ誘導。 |
| 3行 | している:浴槽をまたぐ際に職員1名が手を添えている。洗身は自分で行っている。 できる:手すりを使えば、またぎ動作は自力で可能だった(本人の申し出により5月に試行)。 環境:浴室の手すりが右側のみで、麻痺のある左側に支えがない。滑り止めマットは未設置。 |
書く分量は増えますが、後で読む人の受け取り方は大きく変わります。「意欲低下」は本人の問題として閉じますが、「手すりが右側のみ」は次に打てる手につながる情報です。序論の言い方を借りるなら、能力と実行状況のギャップは「実行状況を改善するために個人の環境に対して何をなすべきかについての有用な手引き」でした。
この「原因を個人の内側に閉じ込めない」という向きは、実は職員自身にも当てはまります。ケアマネジャー14年目の方が、noteにこう書いていました。
ケアマネの業務量の多さは、構造的な問題だ。
あなたが悪いんじゃない。仕組みが追いついていないんだ。
終わらない仕事を「自分の要領が悪いのか」と自分に返してしまうのは、利用者のできないことを「意欲低下」と本人に返してしまうのと、同じ形をしています。ICFの3行は、その向きを外側に開くための道具です。
すべての行為でこれをやる必要はありません。いま気になっている行為を1つ選んで、そこだけ3行にする。これで十分です。
環境因子は促進と阻害の両面で書く
3行目を書くときのコツが、促進と阻害の両方を書くことです。
環境因子は、同じものが人によって逆に働きます。手すりは多くの人にとって促進因子ですが、位置が合わなければ阻害因子に転じます。家族の熱心な関わりも、本人が一人でやりたい場面では妨げになりえるものです。
| 環境因子の章 | 促進因子として働く例 | 阻害因子として働く例 |
|---|---|---|
| e1 生産品と用具 | 握りやすい太柄のスプーン | 本人の手に合わない標準サイズの杖 |
| e2 自然環境 | 朝の自然光が入る食堂 | 夜間に足元まで届かない照明 |
| e3 支援と関係 | 同じ職員が続けて担当する体制 | 担当が毎回替わり手順が変わる |
| e4 態度 | 時間がかかっても待つという職場の共通認識 | 「危ないから座っていて」という反射的な声かけ |
| e5 サービス・制度・政策 | 訪問の時間帯を本人の生活リズムに合わせた調整 | 制度上できることと希望のずれ |
e4の態度が環境因子に含まれている点は、書き手にとって少し痛いところでもあります。職員の声かけの癖も、職場の空気も、その人の実行状況に効いている環境の一部です。ただ、これは責めるための欄ではありません。変えられる余地がどこにあるかを探すための欄です。手すりの位置を変えるのが難しくても、声かけの言い方を変えるのは今日からできます。
参加の目標を、行為に分解する
もう1つ、そのまま真似できる手順が通知に載っています。個別機能訓練の目標設定の例です。
長期目標を「スーパーマーケットに食材を買いに行く」とした場合、通知は必要な行為をこう分解しています。
- 買いたい物を書き記したリストを作る
- 買い物量を想定し、マイバッグを用意する
- スーパーマーケットまでの道順を確認する
- スーパーマーケットまで歩いて行く
- 入り口で買い物かごを持つ
- 中でリストにある食材を見つける
- 食材を買い物かごに入れる
- レジで支払いをする
- 買った品物を袋に入れる
- 買った品物を入れた袋を持って、自宅まで歩いて帰る
そのうえで、通知はこう続けます。「短期目標を達成するために必要な行為のうち、利用者の現状の心身機能等に照らし可能であること、困難であることを整理する」「困難であることについて、どのような訓練を行えば可能となるのか検討する」。
この手順の要点は、順番です。参加(買い物に行く)から始めて、活動(歩く、探す、持つ)に降り、最後に心身機能(歩行機能、注意機能)に届く。心身機能から積み上げるのではありません。
現場でよくあるのは逆の順番です。まず筋力訓練を設定し、その先に何があるかは曖昧なまま続く。分解の順番を変えるだけで、訓練の意味を本人にも家族にも説明できるようになるはずです。
ICFが「共通言語」と呼ばれる理由も、ここに戻ってきます。同じ「スーパーに買い物に行く」という目標を、リハビリ職は歩行と注意の課題として、介護職は生活の場面として、ケアマネジャーはサービスの組み合わせとして見ています。見ている角度は違ってよい。同じ枠に書き込まれていれば、角度の違いは重ならずに並びます。
まとめ|次の記録で1行だけ変えてみる

ICFは覚える図ではなく、書くための枠でした。活動と参加の区別に決着がつかないのはICF本体がそう設計しているからで、代わりに使うべき軸は実行状況と能力の2つです。その差は本人の意欲ではなく環境の影響の差を映していて、だからこそ次に何をすればよいかの手がかりになります。
制度の側は、ICFという語を条文に置かないまま、心身機能・活動・参加という3語で計画書を組み立てています。新しく覚えることは、思っているより少なくてすむはずです。
次の一歩は、いくつかの選び方があります。いま気になっている利用者の1つの行為について、している・できる・環境が変わればの3行に分けて書いてみる。あるいは、事業所にある興味・関心チェックシートを開いて、「してみたい」の列に何が書かれていたかを読み返す。手元に様式がなければ、ADLの記録での書き分け方から入っても構いません。
どれか1つで十分です。全部を今日から変える必要はありません。
よくある質問
ICFとICIDHの違いは何ですか?
ICIDHがマイナス面を分類するのに対し、ICFは生活機能というプラス面から見る分類です。ICIDHは1980年に世界保健機関(WHO)が試案として発表した国際障害分類で、ICFはその改訂版として2001年5月22日の第54回世界保健会議で承認されました(決議WHA54.21)。厚生労働省の報道発表資料は「これまでのWHO国際障害分類(ICIDH)がマイナス面を分類するという考え方が中心であったのに対し、ICFは、生活機能というプラス面からみるように視点を転換し、さらに環境因子等の観点を加えたことである」と説明しています。用語も入れ替わりました。ICF本体の脚注によれば、以前の「機能障害(impairment)」「能力障害(disability)」「社会的不利(handicap)」に代わって、心身機能・身体構造、活動、参加が使われています。ICF序論はこの移行を「『疾病の結果(帰結)』の分類(1980年版)から『健康の構成要素』の分類へと移行してきた」と表現しています。
ICFの「活動」と「参加」はどう区別すればよいですか?
厳密に区別する必要はありません。ICF本体が「活動と参加の分類の各領域別に、『活動』と『参加』とを区別することは困難である」と明記しているためです。定義上は、活動が「課題や行為の個人による遂行」、参加が「生活・人生場面への関わり」ですが、ICFは両者を単一のリスト(d1〜d9の9章)として示し、区別のしかたを4通り提示したうえで、どれを採るかを使う側に委ねています。そのため事業所ごとに様式の分け方が違っていても、それ自体が誤りというわけではありません。区別に時間をかける代わりに、同じ領域について「実行状況(いま現在の環境のもとで行っていること)」と「能力(条件が整えば達成できる最高のレベル)」の2つの評価点で書き分けるほうが、ICFの設計に沿った使い方です。
ICFのコードや評価点は、介護現場でも付ける必要がありますか?
介護記録にICFコードを付ける必要はありません。ICFのコードは b(心身機能)・s(身体構造)・d(活動と参加)・e(環境因子)で始まる記号に評価点を組み合わせて表記しますが、ICF序論は「どのコードも最低1つの評価点を伴う必要がある。評価点がなければ,コード自体には何の意味もない」としたうえで、「利用者は,本分類の使用にあたってはWHOと協力センターを通じて所定の研修を受講することが,強く推奨される」と記しています。コード化は所定の研修を前提とした作業だということです。介護の現場が受け取るべきなのはコードそのものではなく、心身機能・活動・参加・環境因子という分け方のほうです。なお評価点は0(問題なし)から4(完全な問題)までの共通スケールで、環境因子だけは促進因子を示すときに小数点をプラスに置き換えます。
個人因子はICFのどこに分類されますか?
分類されていません。ICF序論は「個人因子はICFには分類として含まれていないが,その関与を示すために図1には含まれている」と明記しており、別の箇所でも「個人因子はICFの今回の版では分類されていない」「これらの評価は必要に応じて利用者に任されている」と繰り返しています。つまり個人因子には章もコードも評価点も存在せず、図のなかに枠だけが置かれている状態です。厚生労働省の資料に掲載されたICFの構成表でも、個人因子だけは肯定的側面・否定的側面がともに「非該当」と記されています。内容としては性別、年齢、生育歴、職業、性格、価値観、困難への対処のしかたなどが含まれますが、書き方に決まった型はないため、その人を理解するうえで必要なことを自由に記述してよい欄だと考えてください。
介護記録でICFを使うと、具体的に何が変わりますか?
同じ場面を、本人の内側の問題ではなく環境との関係として書けるようになります。この点についてICF序論は、「能力と実行状況の間のギャップは現在の環境と画一的な環境の影響の差を反映し、したがって、実行状況を改善するために個人の環境に対して何をなすべきかについての有用な手引きを提供する」と述べました。たとえば「入浴:一部介助。意欲低下あり」と書くと原因が本人に閉じますが、「している:浴槽をまたぐ際に職員が手を添えている/できる:手すりを使えばまたぎ動作は自力で可能だった/環境:手すりが右側のみで麻痺側に支えがない」と3行に分ければ、次に打てる手が読み手にも伝わります。すべての行為でこれを行う必要はなく、いま気になっている行為を1つ選んで3行に分けるところから始められます。
出典
- 厚生労働省「『国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-』(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について」(ICF日本語版 序論・分類を収録) (2002年(平成14年)8月5日)
- 厚生労働省老健局「リハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理及び口腔管理の実施に関する基本的な考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(介護保険最新情報Vol.936) (2021年(令和3年)3月16日)
- e-Gov法令検索「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第38号) (2026年(令和8年)閲覧)
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