働き方
ADLとは|できるADL・しているADLの違いと、記録での書き分け方
内容確認: 2026年7月28日 ・ 次回確認期限: 2027年4月30日 ・ 編集部確認済み
記録のADLの欄で、手が止まることがあります。たとえば「歩行」の項目。今朝は手すりを持って自分でトイレまで歩いた人が、夕方には足が出ず、腕を支えて一緒に歩いた。どちらを書けばいいのだろう、と。
あるいは認定調査の日。調査員の前ではしっかり立ち上がったのに、普段は職員が両側について支えている。結果を見た家族から「なぜこの区分なんですか」と聞かれて、うまく説明できなかった。そんな経験のある方もいると思います。
迷うのは、あなたの観察力や文章力の問題ではありません。ADLという言葉が、二つの異なる意味を抱えているからです。しかも、書類によってどちらを聞かれているかが違います。
厚生労働省の認定調査員テキストは、判定の基準が3つの軸に分かれていることを認めたうえで、「調査項目によって異なる選択基準で混乱せずに選択する能力が求められる」と書いています。難しくて当たり前なのです。
この記事では、ADLとBADL・IADLの分け方を確認したうえで、「できるADL」と「しているADL」がなぜずれるのか、要介護認定ではどちらが問われているのか、そして記録に何を書けば伝わるのかを、国のテキストの原文をたどりながら整理します。読み終えるころには、迷ったときに立ち返る物差しが手元に残るはずです。
まず結論:ADLは「できる」と「している」で違う

ADLには「できるADL」と「しているADL」の二つがあります。 前者は評価や訓練の場面で発揮できる能力、後者は実生活で実際に行っている状況のことです。同じ人を見ていても、どちらを問われているかで答えが変わります。
要介護認定の調査は、項目ごとに問う軸が違います。 寝返りや歩行は「能力」で、移乗や食事摂取や排尿は「介助の方法」で選ぶ決まりです。同じ調査票の中で基準が切り替わります。
能力で見る項目では、介助が発生しているかは選択基準に入りません。 厚生労働省の認定調査員テキストに明記されています。ADLが低いほど要介護度が高くなる、という単純な関係ではないということです。
記録の入力画面で手が止まったときは、「いま自分は能力を聞かれているのか、実際に行われている介助を聞かれているのか」に戻ってください。それだけで、書き出せることが多いはずです。
ADLとは|BADLとIADLの違いと分類

ADLは日常生活動作のことですが、現場では二段階に分けて考えます。基本的な身体動作を指すBADLと、道具や社会との関わりを伴うIADLです。この節では両者の中身と、IADLを測る代表的な指標である老研式活動能力指標までを整理します。
ADLの意味と、介護現場で使われる場面
ADLは Activities of Daily Living の略で、日本語では日常生活動作と訳します。人が生活していくうえで繰り返し行う動作のことです。
介護の現場でこの言葉が出てくる場面は、大きく4つあります。日々の介護記録、アセスメントとケアプランの作成、カンファレンスでの情報共有、そして要介護認定の調査です。
それぞれで求められる粒度が違い、記録なら「今日どうだったか」、ケアプランなら「これからどうするか」、認定調査なら「日頃どうなのか」を問われます。同じADLという言葉でも、場面によって答えるべき内容が変わるということです。
なお、看護やリハビリテーションの職種も同じ言葉を使いますが、見る角度は少し違います。リハ職は訓練でどこまでできるようになったかに注目し、介護職は生活の中でどこまで実行できているかに注目しがちです。カンファレンスで話が噛み合わないと感じたときは、この違いが原因のことがあります。
BADL(基本的日常生活動作)に入る動作
BADLは、生きていくうえで欠かせない基本的な身体動作です。公益財団法人長寿科学振興財団の健康長寿ネットも「基本的な身体動作」と位置づけています。単に「ADL」と言うときは、このBADLを指すことが多いです。具体的な動作は次のH3の表で整理します。
介護保険の要介護認定でも、中心に調査されるのはこの領域です。認定調査票の第1群(身体機能・起居動作)と第2群(生活機能)がこれにあたります。項目の一覧と、どの項目をどの軸で評価するかは後の章で扱う予定です。
現場で「ADLが下がってきた」と言うとき、多くはこの範囲の話をしています。
IADL(手段的日常生活動作)に入る動作
IADLは、BADLより複雑で、道具や社会との関わりを伴う動作です。健康長寿ネットはこれを「より複雑な生活関連動作」と表現しています。どの動作がどちらに入るかを並べると、性格の違いがはっきりします。
| 区分 | 主な動作 | 崩れたときに最初に困ること |
|---|---|---|
| BADL(基本的日常生活動作) | 歩行・移動、食事、更衣、入浴、排泄、整容 | 身体介助が必要になる。介護の手が直接要る |
| IADL(手段的日常生活動作) | 交通機関の利用、電話の応対、買物、食事の支度、家事、洗濯、服薬管理、金銭管理 | 身体は動くのに生活が回らなくなる。周囲が気づきにくい |
在宅の利用者を思い浮かべると違いが分かりやすいはずです。歩けるし着替えもできる、けれど通帳の記帳ができなくなった、薬が飲み残しになっている。
BADLは保たれているのにIADLが先に難しくなる状態は、決して珍しくありません。身体介助の必要量だけを見ていると、この段階の変化は見落とされます。
老研式活動能力指標が測る13項目
IADLを含めて生活機能を測る代表的な指標が、老研式活動能力指標です。古谷野・柴田らが開発したもので、13項目に「はい」「いいえ」で答え、「はい」を1点として13点満点で評価します。
| 下位尺度 | 質問項目 |
|---|---|
| 手段的自立(5項目) | バスや電車を使って1人で外出できますか/日用品の買い物ができますか/自分で食事の用意ができますか/請求書の支払いができますか/銀行貯金・郵便貯金の出し入れが自分でできますか |
| 知的能動性(4項目) | 年金などの書類が書けますか/新聞を読んでいますか/本や雑誌を読んでいますか/健康についての記事や番組に関心がありますか |
| 社会的役割(4項目) | 友だちの家を訪ねることがありますか/家族や友だちの相談にのることがありますか/病人を見舞うことがありますか/若い人に自分から話しかけることがありますか |
後半の項目に、身体動作がほとんど出てこないことに気づいたでしょうか。本を読む、相談にのる、見舞いに行く。
これらは介助量では測れませんが、その人が「生活できているか」を確かに映します。ADLを身体の話だけに閉じ込めないための設計だと読めます。
質問が単純で二択のため、負担が少ないのも特徴です。担当している人の様子が気になったとき、13項目を頭の片隅に置いて世間話をしてみると、身体機能の記録には出てこない変化に気づけることがあります。
「できるADL」と「しているADL」がずれる理由

朝は手すりを持って自分でトイレまで歩いた人が、夕方には足が出ず、腕を支えて一緒に歩く。どちらが本当のADLなのかと迷いますが、実はどちらも本当です。ここでは、この二つの言葉の出どころを確認したうえで、ずれを生む4つの要因を分解します。
大川弥生による3つの定義と、重視される順序
この区分を整理したのは、リハビリテーション医学の大川弥生氏です。1996年の『リハビリテーション研究』第85号では、次のように定義されています。
| 用語 | 定義(原文) | 現場での言い換え |
|---|---|---|
| できるADL | 評価・訓練時の能力 | やってもらえばできること |
| しているADL | 実生活で実行している状況 | 実際に毎日していること |
| するADL | 将来的な生活の場で実行するであろう(と予想され、それを目指す)ADLの能力 | これから目指す姿 |
押さえておきたいのは、リハビリテーション医学では「できるADL」よりも「しているADL」のほうが重視されるべき対象とされている点です。訓練室で立てるようになっても、居室で立つ機会がなければ、その人の生活は変わっていません。評価の場で発揮された能力は、生活に移されて初めて意味を持つという考え方です。
そして3つ目の「するADL」は、目標としてのADLです。ケアプランの目標欄に書くのはこれにあたります。現状(している)と可能性(できる)を突き合わせて、これから何を目指すかを決める。3つを区別すると、記録・アセスメント・目標設定の役割分担がはっきりします。
時間帯と体調で変わる
もっとも頻度が高いずれの要因が、時間帯と体調による変動です。朝は自分で立てるのに夕方は難しい、週の後半は動きが鈍る、暑さが続くと食事に手が伸びない。日内変動や週単位の波は、多くの人に見られるものです。
1回の観察で判断すると、必ずどちらかを取りこぼします。厚生労働省の認定調査員テキストも、能力で評価する項目について「実際に試行した結果と日頃の状況が異なる場合は、一定期間(調査日より概ね過去1週間)の状況において、より頻回な状況に基づき選択する」と定めています。国の基準ですら、1回のスナップショットではなく1週間の頻度で見なさいと言っているわけです。
日々の記録でも、同じ姿勢が役に立ちます。「今日はできなかった」ではなく「今週は5日中4日、夕食時は介助が必要だった」。こう書けば、読む人は状態の全体像をつかめます。
手すり・福祉用具・履物という環境の影響
同じ人でも、居室とトイレと浴室では「できること」が変わります。手すりの有無、床の材質、ベッドや車椅子の高さ、履いている靴。環境の条件が違えば、動作の成否も変わって当然です。
ここで迷いやすいのが、用具を使っている場合の扱いです。認定調査員テキストは、能力や介助の方法について「日常的に自助具、補装具等の器具・器械を使用している場合で、使用していることにより機能が補完されていれば、その状態が本来の身体状況であると考え、その使用している状況において選択する」としています。
つまり「杖なしでは歩けないから歩行はできない」と考える必要はありません。普段どおり杖を使った状態で判断してよいのです。この考え方は記録にもそのまま応用できます。「手すりあり・日中・履き慣れた靴」といった条件を1行添えておけば、環境を変えたときに何が効いたのかを後から検証できます。
認知機能によるずれ
筋力は十分あるのに、着替えの手順が分からず止まってしまう。声をかければ始められるが、放っておくと動かない。こうしたずれは、身体機能だけを記録していると読み手に伝わりません。
このとき「できない」と書いてしまうと、身体的にできないのか、手順が分からないのかが区別できなくなります。動作そのものは可能で、開始のきっかけや順序の提示が必要なのだと分かるように書くと、次に関わる職員が同じ手順を再現できます。声かけ1つで自分でできるなら、それは全介助ではありません。
認知症のある人のADLについては、後の章で国の判定基準を見ながらもう一度扱います。
人手と時間という支援側の要因
4つ目は、書きにくく、いちばん見落とされやすい要因です。利用者の側ではなく、支援する側の事情でADLが下がることがあります。
朝の忙しい時間帯に、一人ずつ着替えを見守る余裕がない。結果として職員が袖を通してしまう。これが半年続けば、できたはずのことは本当にできなくなっていきます。
これは気のせいではありません。マイナビ介護職『介護職白書 2024年度版』(株式会社マイナビ/調査時期: 介護職調査 2024年11月7日〜12月3日)では、十分な介護が提供できていないと感じる介護職が41.0%おり、その理由の1位は介護職員不足で78.8%でした。
この調査は転職サービスの登録会員が母集団のため、介護職全体の数値としてではなく、転職を意識する層の実感として読んでください。それでも、時間と人手が足りないという感覚には覚えがあるのではないでしょうか。
はっきりさせておきたいのは、これが職員個人の怠慢ではないということです。人員配置と時間の構造から生まれる問題であり、その場にいる誰かの努力不足ではありません。ただ、自分の中では利用者側の要因と体制側の要因を分けて捉えておくほうがいいはずです。混ぜてしまうと、自分を責める材料にしかなりません。
そして、ずれ自体がもっとも重要な情報でもあります。「できるが、していない」と分かれば、そこに伸びしろがあるということです。
ADL向上というと訓練で身体機能を伸ばす話を思い浮かべがちですが、現場で最初にできるのは、していない理由のほうを外すことです。何が邪魔をしているのか(時間・環境・声かけ・道具・意欲)を特定できれば、変えるべきものが具体的に見えてきます。ずれをならして一つの数字にまとめてしまうと、この情報は消えてしまうのです。
ADL評価スケール|バーセルインデックスとFIM

職場で使われるADLの評価スケールにはいくつか種類があり、それぞれ測っているものが違います。ここでは代表的な2つの違いと、そもそもなぜ職場で点数をつけているのかという制度上の理由まで押さえます。
バーセルインデックスの評価項目と特徴
バーセルインデックス(Barthel Index・BI)は、10項目を採点して合計100点満点で表す評価法です。厚生労働省がLIFEへの提出用に示している別紙様式1「科学的介護推進に関する評価」には、項目と配点がそのまま載っています。
| 項目 | 自立 | 一部介助・代替手段 | 全介助 |
|---|---|---|---|
| 食事 | 10 | 5 | 0 |
| 椅子とベッド間の移乗 | 15 | 10(監視下)/5(座れるが移れない) | 0 |
| 整容 | 5 | 0 | 0 |
| トイレ動作 | 10 | 5 | 0 |
| 入浴 | 5 | 0 | 0 |
| 平地歩行 | 15 | 10(歩行器等)/5(車椅子操作が可能) | 0 |
| 階段昇降 | 10 | 5 | 0 |
| 更衣 | 10 | 5 | 0 |
| 排便コントロール | 10 | 5 | 0 |
| 排尿コントロール | 10 | 5 | 0 |
移乗と平地歩行の中間点は、介助量だけでなく代替手段の使用も含みます。車椅子を自分で操作できる場合の5点は、歩けないが移動手段は確保されている状態を指すものです。
最大の特徴は、簡便さにあります。項目が少なく段階も粗いため、短時間で採点でき、職種を問わず共有しやすい。カンファレンスで「前回60点、今回65点」と言えば、その場の全員が変化の方向をつかめます。
配点をよく見ると、意外なことに気づきます。移乗と平地歩行だけが15点で、整容と入浴は自立でも5点。 移動に関わる動作に重みが置かれた配点になっています。また整容と入浴には「一部介助」で得られる点がなく、自立か0点かの二択です。
このため、入浴介助の手間がどれだけ減っても点数は動きません。逆に、歩行が少し不安定になっただけで15点が10点に下がることもあります。
点数が変わらないから改善していない、とは限らない。現場の実感と数字がずれるとき、この重みづけが関係している場合があります。
FIMとの違いは「測っているもの」
FIM(機能的自立度評価法)は、運動に関する項目に加えて認知に関する項目を含み、介助量をより細かく段階分けする評価法です。回復期リハビリテーション病棟を中心に使われています。なおFIMは著作権が管理されている評価法のため、採点基準の詳細はここでは扱いません。職場で使う場合は、正規の講習や公式のマニュアルで学んでください。
2つの違いは、細かさよりも「何を測っているか」にあります。一般に、BIは「できるADL」寄り、FIMは「しているADL」寄りの指標だと説明されることが多いです。理学療法士が出した点数と、日々の介護記録から受ける印象が食い違うとき、原因はこの差にあることがあります。
どちらが優れているという話ではありません。測っているものが違うと知っていれば、他職種と数字を突き合わせるときに話が噛み合います。「訓練場面ではここまでできる」と「病棟・居室ではここまでしている」は、両方あって初めて計画が立てられます。
BIとFIMではIADLを測れない
見落とされがちですが、BIもFIMも対象はBADLの範囲です。買い物、金銭管理、服薬管理、電話の応対といったIADLは、これらのスケールには含まれていません。
そのため在宅の利用者では、BIが満点に近いのに生活が回らなくなっている、という事態が起こります。歩けるし食べられるし着替えもできる、けれど薬が飲めていない。BIだけを追いかけていると、この変化は数字に現れません。
IADLの領域は、前の章で紹介した老研式活動能力指標や、Lawton(ロートン)のIADL尺度といった別の指標で測ります。なおBADLの評価法には、バーセルインデックスのほかにカッツインデックス(Katz Index)などもあります。
いずれにしても、BADLの点数とIADLの様子は、セットで見る必要があるということです。
職場でバーセルインデックスを測る制度上の理由
「何のために測っているのか説明されていない」——そう感じたまま入力している方は少なくありません。理由の一つは、介護報酬の加算に組み込まれているためです。
厚生労働省の通知「科学的介護情報システム(LIFE)関連加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和3年3月16日老老発0316第4号)は、ADL維持等加算について次のように定めています。「事業所・施設における利用者等全員について、利用者等のADL値(厚生労働大臣が定める基準(平成27年厚生労働省告示第95号)第16号の2イ⑵のADL値をいう。)を、やむを得ない場合を除き、提出すること」。
このADL値の評価に用いられるのがバーセルインデックスです。
同じ通知は、提出した情報のフィードバックを受けてケア計画を見直すPDCAサイクルを回すことも求めています。制度上は「評価のための評価」ではなく、測った数字がケアに戻ってくる設計になっているわけです。事業所にはフィードバックの帳票が届いているはずです。一度見せてもらうと、自分が入力した数字の行き先が分かります。
要介護認定のADL評価|能力と介助の方法の3軸

家族から最も多く質問を受けるのが、この領域だと思います。「これだけ介助しているのに、なぜこの区分なのか」という問いです。申請から認定までの流れは要介護認定の記事で扱っているので、ここではADLの評価方法に絞ります。答えは、認定調査が項目ごとに違う軸で評価しているという構造にあります。ここは厚生労働省の認定調査員テキストの原文を追いながら確認しましょう。
認定調査の判定基準は3つの軸に分かれる
認定調査の基本調査は、第1群 身体機能・起居動作(13項目)、第2群 生活機能(12項目)、第3群 認知機能(9項目)、第4群 精神・行動障害(15項目)、第5群 社会生活への適応(6項目)、そのほか過去14日間にうけた特別な医療(12項目)で構成されています。
厚生労働省の認定調査員テキスト2009改訂版(平成30年4月改訂)は、いま挙げた調査項目の一覧を示したうえで、判定基準についてこう説明しています。
上に示された調査項目には、①能力を確認して判定する(以下「能力」という)、②生活を営む上で他者からどのような介助が提供されているか(介助の方法)(以下「介助の方法」という)、あるいは、③障害や現象(行動)の有無(以下「有無」という)を確認して判定するというように、判定の基準が3軸ある。
さらに、同じテキストにはこう書かれています。
調査項目は、第4群のように、行動の有無という単一の判定の軸で評価できる群がある一方、「能力」、「介助の方法」、「有無」という3軸のすべての評価基準が混在している群もある。認定調査員には、調査項目によって異なる選択基準で混乱せずに選択する能力が求められる。
混乱せずに選択する能力が求められる、と国のテキストが明記しているわけです。難しく感じるのは当然で、それは読み手の理解力の問題ではありません。
能力で評価する18項目
能力で評価するのは、次の18項目です。
| 群 | 能力で評価する項目 |
|---|---|
| 第1群 身体機能・起居動作 | 寝返り/起き上がり/座位保持/両足での立位保持/歩行/立ち上がり/片足での立位/視力/聴力 |
| 第2群 生活機能 | えん下 |
| 第3群 認知機能 | 意思の伝達/毎日の日課を理解/生年月日や年齢を言う/短期記憶/自分の名前を言う/今の季節を理解する/場所の理解 |
| 第5群 社会生活への適応 | 日常の意思決定 |
そして、この記事でいちばんお伝えしたい一文が、テキストの能力評価の説明にあります。
その行為ができないことによって介助が発生しているかどうか、あるいは日常生活上の支障があるかないかは選択基準に含まれない。
歩行の項目では、歩けるかどうかだけを見ます。歩けないことで介助が発生しているかは、その項目では考慮しません。「これだけ手がかかっているのに、なぜ」という違和感の正体は、ここにあります。介助の量は、別の項目群と特記事項を通じて拾われる仕組みになっているのです。
介助の方法で評価する項目と選択肢の言葉
一方、移乗、移動、食事摂取、排尿、排便、口腔清潔、洗顔、整髪、上衣の着脱、ズボン等の着脱、洗身、つめ切り、薬の内服、金銭の管理、買い物、簡単な調理などは「介助の方法」で選びます。テキストはこの軸について「原則として実際に介護が行われているかどうかで選択する」としています。
ここで、選択肢の言葉づかいに注目してください。
| 軸 | 項目の例 | 選択肢 |
|---|---|---|
| 能力 | 1-3 寝返り | つかまらないでできる/何かにつかまればできる/できない |
| 介助の方法 | 2-1 移乗、2-4 食事摂取 | 介助されていない/見守り等/一部介助/全介助 |
| 介助の方法 | 2-7 口腔清潔、2-8 洗顔 | 介助されていない/一部介助/全介助 |
介助の方法の軸には「自立」という言葉が使われていません。**「介助されていない」**です。能力があるかどうかではなく、実際に介助が行われていないという事実を選ぶ設計になっています。この一語の違いが、二つの軸の性格の差そのものです。
なお、実際に行われている介助が対象者にとって不適切だと調査員が判断する場合は、理由を特記事項に記載したうえで適切な介助の方法を選び、介護認定審査会の判断を仰ぐことができるとされています。過剰な介助も過少な介助も、そのまま固定されるわけではありません。
「ADLが低いほど要介護度が高い」とは限らない
要介護度は、ADLの合計点で決まるものではありません。判定は介護の手間の大きさをもとに行われます。だから、身体機能が保たれている認知症のある人のほうが手間がかかる、という逆転も起こります。
この隙間を埋めるのが特記事項です。テキストは、特記事項に書くべき内容を次のように整理しています。
手間:介護の手間の判定で重視される情報源。状態ではなく、その状態によって発生している手間の内容を記載する
頻度:上記の介護の手間と頻度を参照することで、介護の全体量を理解することが可能になる
さらに、書き方についてもはっきりした指示があります。
「ときどき」「頻繁に」のように、人によってイメージする量が一定でない言葉を用いることは、平準化の観点からは望ましくない。平均的な手間の出現頻度について週に2、3回というように数量を用いて具体的な頻度を記載する。
家族から「動けないのになぜこの区分なのか」と聞かれたときは、この構造を伝えられます。できないこと(能力)と、実際にどれだけ手がかかっているか(手間)は、別々に拾われている。手間が十分に伝わっていないと感じるなら、次の調査までに頻度を数えて記録しておく、という具体的な行動につながります。
障害高齢者の日常生活自立度は「状態」で判定する
もう一つ、現場で必ず目にする指標があります。障害高齢者の日常生活自立度、いわゆる寝たきり度です。主治医意見書やLIFEへの提出情報にも登場します。
| 区分 | ランク | 判定基準 |
|---|---|---|
| 生活自立 | J | 何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する |
| 準寝たきり | A | 屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない |
| 寝たきり | B | 屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが、座位を保つ |
| 寝たきり | C | 1日中ベッド上で過ごし、排泄、食事、着替において介助を要する |
注目したいのは、この基準の留意事項です。
判定に際しては「〜をすることができる」といった「能力」の評価ではなく「状態」、特に『移動』に関わる状態像に着目して、日常生活の自立の程度を4段階にランク分けすることで評価するものとする。
国の判定基準そのものが、「能力ではなく状態で見なさい」と明記している。 つまり、この指標については「できるADL」ではなく「しているADL」で判定せよ、ということです。加えて「判定に当たっては、補装具や自助具等の器具を使用した状態であっても差し支えない」とされ、時間帯や体調で程度が異なる場合は「一定期間(調査日より概ね過去1週間)の状況において、より頻回に見られる状況や日頃の状況で選択する」と定められています。
ここまで見てきた原則が、そのまま繰り返されているのが分かります。用具は使ったままでよい。1回ではなく1週間の頻度で見る。そして、能力ではなく実際の状態を見る。
ADL低下の見方と、介護記録での書き分け

記録は、現場の時間をはっきりと奪っています。マイナビ介護職『介護職白書 2024年度版』(株式会社マイナビ/調査時期: 介護職調査 2024年11月7日〜12月3日)によれば、残業をしている人が残業中に行っている業務は、利用者対応55.0%に次いで介護記録が36.2%。残業をしている人の3人に1人以上が、その時間で記録を書いていることになります。
こちらも転職サービスの登録会員を対象とした調査のため、介護職全体の数値としては読まないほうがいいものの、記録に時間を取られている実感そのものは多くの職場で共有されています。
だからこそ、量を増やすのではなく軸を揃えたい。ここまでの内容を、明日の記録に落とし込みましょう。ADLの低下がどこから現れるかを押さえたうえで、認知症との関係を判定基準から読み、最後に記録を書く前の確認項目と文例をまとめます。
低下は先にIADLへ現れる
ADLの低下は、多くの場合IADLの領域から始まります。歩ける、食べられる、着替えられる。それでも、買い物の計算が合わなくなった、薬が余っている、郵便物が溜まっている。
この段階で気づけると、打てる手の幅が広くなります。買い物に同行する、服薬カレンダーを導入する、ケアマネジャーに相談して支援を組み替える。
身体介助が必要になってから対応するのに比べて、本人ができることを残したまま調整できます。
一方で、この段階の変化は記録に残りにくいという問題があります。介護記録の様式はBADL中心に作られていることが多く、「郵便物が溜まっている」を書く欄がありません。気づいたことは、特記や申し送りの欄に一言でも残しておく価値があります。
認知症とADLの関係を判定基準から読む
認知症とADLの関係は、認知症高齢者の日常生活自立度の判定基準を読むとよく分かります。
| ランク | 判断基準 | 見られる症状・行動の例 |
|---|---|---|
| I | 何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している | — |
| II | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる | — |
| IIa | 家庭外で上記IIの状態がみられる | たびたび道に迷うとか、買物や事務、金銭管理などそれまでできたことにミスが目立つ等 |
| IIb | 家庭内でも上記IIの状態が見られる | 服薬管理ができない、電話の応対や訪問者との対応など一人で留守番ができない等 |
| III | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする | (IIIa は日中を中心として、IIIb は夜間を中心として上記IIIの状態が見られる) |
| IV | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする | — |
| M | 著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする | — |
ランクIIの例に並んでいるものを見てください。買物、金銭管理、服薬管理、電話の応対、留守番。いずれもIADLの項目そのものです。 国の判定基準が、認知症の初期段階をIADLの変化で捉える構造になっているということです。老研式活動能力指標の手段的自立5項目とも、見事に重なります。
身体機能に変化がなくても、IADLの様子から気づけることがある。この視点は、記録を書くときにも家族に説明するときにも使えます。
記録を書く前に確認する5項目
記録は、長く書くほど伝わるわけではありません。書く前の30秒で次の5項目を確認するだけで、量を増やさずに伝わる記録になります。
1. どちらの軸を書いているか。 「できる(能力)」なのか「している(実際の介助)」なのかを自覚してから書きます。両方書ける欄なら、両方書きます。
2. 介助量の根拠が1行あるか。 「一部介助」とだけ書かれた記録は、読む人によって想像する量が変わります。どこからどこまでを誰がやったのかを添えます。
3. 環境を併記したか。 手すり、福祉用具、履物、時間帯、声かけの有無。用具を使った状態で評価してよいというのが国の基準の考え方です。
4. 頻度を数量で書いたか。 「ときどき」ではなく「週4〜5回」。認定調査の特記事項についての指示ですが、日々の記録にもそのまま応用できます。
5. ずれを明記したか。 「できるが、していない」場合は理由の推測まで書きます。時間帯なのか、環境なのか、声かけなのか。ここが次のケアプランの入口になります。
書類の量そのものが負担になっている現実もあります。老健の専任施設ケアマネを11年続けている方は、noteにこう書いていました。「施設ケアマネの仕事で避けて通れないのが、書類業務です。本当に多いです。」「気づけば、記録に追われていることがあります。」時間をかけているのに伝わらないとしたら、つらいものです。だからこそ、軸を揃えることに意味があります。
そのまま使える記録の文例
長い文章を書く必要はありません。5項目を満たすと、むしろ短くなります。
| 場面 | ありがちな記録 | 5項目を満たした記録 |
|---|---|---|
| 食事 | 夕食、一部介助。 | 朝食は右手でスプーンを持ち自力摂取。夕食は疲労が強く全介助(夕食のみ、週4〜5回)。 |
| 移乗 | 移乗、見守り。 | 手すり使用で自力にて車椅子へ移乗。立ち上がりの初動のみ声かけ要。日中は毎回同様。 |
| 更衣 | 更衣、全介助。 | 上衣は袖通しまで自力、ボタンは介助。手順の声かけがあれば自分で進められる。朝は時間の都合で職員が実施することが多い。 |
| 排泄 | トイレ、一部介助。 | 日中はトイレにて自力排泄、ズボンの上げ下げのみ介助。夜間はポータブルトイレを使用し、移乗に介助(週7回)。 |
3つ目の例に「朝は時間の都合で職員が実施することが多い」と書いてある点に注目してください。これは職場の体制を告発する文章ではなく、「本人にはできる力が残っている」という事実を守るための記録です。
この一行があれば、次に関わる職員も、半年後にケアプランを見直す人も、本人に残っている力を前提に考えられます。逆にこの一行がなければ、記録の上では「更衣は全介助の人」として引き継がれていきます。
まとめ|迷ったら「どちらを聞かれているか」に戻る

ADLは日常生活動作の略で、基本的な身体動作を指すBADLと、買い物や服薬管理といったIADLの2つに分けて捉えるのが基本です。そして同じADLでも、「できる(能力)」と「している(実際の状況)」では答えが変わります。
要介護認定の調査は項目ごとにこの軸を使い分けており、能力で見る項目では介助が発生しているかを選択基準に含めません。障害高齢者の日常生活自立度に至っては、「能力の評価ではなく状態に着目する」と基準そのものに書かれています。
ADLの点数を上げること自体は、目的ではありません。目的は、その人が続けたい生活を続けられることです。バーセルインデックスが何点であっても、本人が「風呂に入れないのがいちばん嫌だ」と言うなら、次に取り組むのは入浴になります。評価は地図であって、成績表ではありません。
次の一歩は、いくつかあります。 どれか1つで十分ですし、今日決めなくても構いません。
- 明日の記録を1件だけ、5項目の確認を通してから書いてみる
- 「できるが、していない」動作を1つ挙げ、何が邪魔をしているのかをカンファレンスに出してみる
- 環境で変えられそうな要因があれば、福祉用具専門相談員やケアマネジャーに相談してみる
- 認定調査に立ち会う機会があるなら、手間と頻度を数えて数字で伝える準備をしておく
記録の画面で手が止まったときは、「いま自分は、能力を聞かれているのか、実際を聞かれているのか」に戻ってください。たいていの迷いは、そこで答えが出ます。
よくある質問
ADLとIADLの違いは何ですか?
ADL(日常生活動作)のうち、基本的な身体動作を指すのがBADL、道具や社会との関わりを伴う複雑な動作を指すのがIADLです。健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)は、BADLを「歩行や移動、食事、更衣、入浴、排泄、整容などの基本的な身体動作」、IADLを「交通機関の利用や電話の応対、買物、食事の支度、家事、洗濯、服薬管理、金銭管理などのより複雑な生活関連動作」と説明しています。単に「ADL」と言うときはBADLを指すことが多いです。在宅の利用者では、身体は動くのに買い物や服薬管理が難しくなるという形で、IADLのほうが先に崩れることがあります。身体介助の必要量だけを見ていると、この段階の変化は見落とされがちです。IADLを含めて測る指標としては老研式活動能力指標がよく使われます。
「できるADL」と「しているADL」は、記録にどちらを書けばよいですか?
書類が何を聞いているかで決まります。「できるADL」は評価・訓練時の能力、「しているADL」は実生活で実行している状況を指し、リハビリテーション医学ではこの2つを別のものとして扱うのが基本です。要介護認定の基本調査では、寝返り・起き上がり・歩行・立ち上がりなどは「能力」で、移乗・移動・食事摂取・排尿・着脱などは「介助の方法」で選ぶと決められており、同じ調査票の中で軸が切り替わります。日々の介護記録では両方を書き分けるのが最も実用的です。「手すりを使えば自分で立てるが、朝は時間の都合で職員が介助している」のように、能力と実際の介助と理由を並べて書くと、次のケアプランの材料になります。どちらか一方に丸めてしまうと、伸びしろの情報が消えます。
要介護認定では、ADLが低いほど要介護度は高くなりますか?
要介護度は、ADLの合計点では決まりません。厚生労働省の認定調査員テキスト2009改訂版は、能力で評価する調査項目について「その行為ができないことによって介助が発生しているかどうか、あるいは日常生活上の支障があるかないかは選択基準に含まれない」と明記しています。歩行の項目では歩けるかどうかだけを見て、歩けないことで生じている介助量はその項目では考慮しません。介助の量は「介助の方法」で評価する項目群と、特記事項を通じて拾われる仕組みです。また要介護度は介護の手間の大きさをもとに判定されるため、身体機能が保たれている認知症のある人のほうが手間がかかる場合もあります。調査に立ち会うときは、状態そのものより「どんな手間が、週に何回発生しているか」を具体的に伝えるほうが実態が届きやすくなるはずです。
手すりや福祉用具を使っている場合、ADLはどう評価しますか?
使っている状態で評価してかまいません。認定調査員テキスト2009改訂版は、能力や介助の方法について「日常的に自助具、補装具等の器具・器械を使用している場合で、使用していることにより機能が補完されていれば、その状態が本来の身体状況であると考え、その使用している状況において選択する」としています。障害高齢者の日常生活自立度の判定基準にも「補装具や自助具等の器具を使用した状態であっても差し支えない」と書かれています。つまり「杖なしでは歩けないから歩行はできない」と考える必要はなく、普段どおり杖を使った状態で判断してよいのです。介護記録でも同じ考え方が使えます。「手すりあり・履き慣れた靴・日中」といった条件を1行添えておくと、環境を変えたときに何が効いたのかを後から検証できるようになります。
職場でバーセルインデックスを測るのはなぜですか?
介護報酬の加算の算定要件になっているためです。厚生労働省の通知「科学的介護情報システム(LIFE)関連加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和3年3月16日老老発0316第4号)は、ADL維持等加算について「事業所・施設における利用者等全員について、利用者等のADL値(厚生労働大臣が定める基準(平成27年厚生労働省告示第95号)第16号の2イ⑵のADL値をいう。)を、やむを得ない場合を除き、提出すること」と定めており、このADL値の評価に用いられるのがバーセルインデックスです。同じ通知は、提出した情報のフィードバックを受けてケア計画を見直すPDCAサイクルを回すことも求めています。制度上は「測って終わり」ではなく、測った数字がケアに戻ってくる建前になっています。事業所にはフィードバックの帳票が届いているはずです。
出典
- 厚生労働省「認定調査員テキスト2009改訂版(平成30年4月改訂)」要介護認定 (2018年(平成30年)4月改訂)
- 大川弥生「用語の解説 『するADL』『できるADL』と『しているADL』」リハビリテーション研究 第85号51頁(日本障害者リハビリテーション協会) (1996年(平成8年)3月)
- 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「高齢者の生活機能」(BADL・IADL・老研式活動能力指標) (2026年(令和8年)閲覧)
- 厚生労働省「科学的介護情報システム(LIFE)関連加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」老老発0316第4号(介護保険最新情報Vol.938) (2021年(令和3年)3月16日)
- 株式会社マイナビ マイナビ介護職『介護職白書 2024年度版』(介護職調査 2024年11月7日〜12月3日/事業者調査 2024年11月7日〜17日) (2025年(令和7年)2月発行)
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