働き方
看取り介護の手順|国の手引きが2回改名し、算定要件になるまで
内容確認: 2026年7月28日 ・ 次回確認期限: 2027年4月30日 ・ 編集部確認済み
「ご本人はもう話せない。ご家族はこう言っている」。看取り介護の場面で、この状態のまま方針が決まっていくことがあります。あとで記録を開いても、誰の意思だったのかが読み取れない。
そこで迷うのは、経験が足りないからではありません。看取りの手順は、資格の勉強でも入職時の研修でも、まとまった形で教わる機会がほとんどないからです。国の手引きがあることは知っていても、開いたことがある人は多くないでしょう。
先に結論をお伝えすると、その手引きは名前が2回変わっています。2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」として作られ、2018年に「人生の最終段階における医療・ケア」となって、介護職が名指しでチームの一員に加わりました。そして2021年、報酬の算定要件になりました。
手引きは、本人の意思が確認できないときの順番も定めています。最初にすることは「家族の希望を聞く」ではありません。
読み終えたとき、「家族が○○を希望」と書きかけた1行を、どの段階の話なのかが分かる形に書き直せるようになっているはずです。
まず結論:看取りの手引きは、報酬の要件になった

国の手引きは、名前が2回変わっています。 2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」として作られ、2015年に「終末期医療」から「人生の最終段階における医療」へ、2018年に「医療・ケア」へ。この2回目で、介護の現場が正面から想定に入りました。
2021年、それが報酬の算定要件になりました。 看取りに係る加算の算定要件に「ガイドライン等の内容に沿った取組を行うこと」が求められています。読んでおくとよい理念文書から、やっていないと算定できないものへ変わりました。
本人の意思が確認できないとき、最初にすることは「家族に聞く」ではありません。 ガイドラインが定める順番は、まず家族等を通じて本人の意思を推定すること。それができないときも、決めるのは「家族の希望」ではなく「本人にとっての最善」です。家族の希望がそのまま方針になる段階は、どこにもありません。
「本人はもう話せない。家族はこう言っている」。そういう場面で、記録に何をどう書くか。判断の重さのわりに、教わる機会は多くありません。
この記事で扱うのは、看取りの心構えではなく、制度が定めた手順と、記録での書き分けのほうです。
看取りの手引きから「終末期医療」が消えるまで

いま国の手引きは「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」といいます。長い名前ですが、この長さには理由があります。もとの名前から2回、言葉が足されたり入れ替わったりしてきました。
2015年、「終末期」をやめた理由
最初のガイドラインは2007年、「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」という名前でした。
2015年3月、この名前が変わります。理由は解説編にはっきり書かれています。
平成27年3月には、「終末期医療に関する意識調査等検討会」において、最期まで本人の生き方(=人生)を尊重し、医療・ケアの提供について検討することが重要であることから、「終末期医療」から「人生の最終段階における医療」へ名称の変更を行いました。
「終末期」は、終わりの時期という区切りを指す言葉です。それを「人生の最終段階」に置き換えた。終わりつつある期間ではなく、続いている人生の一部として捉え直すという判断でした。
介護のしるべでは、これと似た用語の見直しを別の記事でも扱っています。2004年に「痴呆」が「認知症」になったときも、理由の第一項目は「高齢者の尊厳に欠く表現であること」でした。詳しくは尊厳とは(介護保険法に後から加えられた言葉)をご覧ください。
2018年、「・ケア」が加わった
2回目の改訂は2018年3月です。ここで名前に「・ケア」が入り、現在の形になりました。
解説編は、改訂の観点を3つ挙げています。
| 改訂の観点(原文) | 介護現場にとっての意味 |
|---|---|
| 本人の意思は変化しうるものであり、医療・ケアの方針についての話し合いは繰り返すことが重要であることを強調すること。 | 一度確認した意向を「決まったこと」として扱わない |
| 本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、その場合に本人の意思を推定しうる者となる家族等の信頼できる者も含めて、事前に繰り返し話し合っておくことが重要であること。 | 話せなくなってからではなく、話せるうちから家族を交えておく |
| 病院だけでなく介護施設・在宅の現場も想定したガイドラインとなるよう、配慮すること。 | この文書は自分たちの現場のものでもある |
**3つ目です。**病院だけを想定していた文書に、介護施設と在宅が加わりました。背景として解説編が挙げているのは、高齢多死社会の進行にともなう在宅や施設での療養・看取りの需要の増大と、地域包括ケアシステムの構築です。
もっとも、名前が変わっても現場の書式まで一斉に切り替わるわけではありません。「終末期の希望」という見出しの用紙が、いまも使われている職場はあるでしょう。言葉の入れ替えが終わっているのは制度の側だけ、という状態は珍しくありません。
同時にACPの概念も盛り込まれました。アドバンス・ケア・プランニングの略で、解説編は「人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス」と説明しています。1回で決めるものではなく、繰り返すプロセスだという点が要です。
介護職が名指しでチームに入った
改訂されたガイドライン本体の、いちばん最初の原則を見てください。
① 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則である。
「医療・介護従事者」。医療だけではありません。
解説編は、さらに職種を名指ししています。
2)そのためには担当の医師ばかりでなく、看護師やソーシャルワーカー、介護支援専門員等の介護従事者などの、医療・ケアチームで本人・家族等を支える体制を作ることが必要です。
別の箇所では「ケアに関わる介護支援専門員、介護福祉士等の介護従事者」とも書かれています。
**この文書は、介護職が読むものとして書き直された。**2018年にそういう位置づけを与えられています。名前から「終末期医療」が消えて「医療・ケア」になったのは、その裏返しでした。
2021年、看取りの手引きが算定要件になった

ここまでは言葉の話でした。2021年、この文書の扱いが変わります。理念を示すものから、報酬の条件を構成するものになりました。
看取りに係る加算の要件に組み込まれた
厚生労働省老健局「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」(2021年)の「2.(2)① 看取り期における本人の意思を尊重したケアの充実」に、こう書かれています。
○ 看取り期における本人・家族との十分な話し合いや他の関係者との連携を一層充実させる観点から、訪問看護等のターミナルケア加算における対応と同様に、基本報酬(介護医療院、介護療養型医療施設、短期入所療養介護(介護老人保健施設によるものを除く))や看取りに係る加算の算定要件において、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取組を行うことを求める。
同じ資料の「算定要件等」欄は、次のように書き分けています。
○ ターミナルケアに係る要件として、以下の内容等を通知等に記載する。 ・「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取組を行うこと。 ○ 施設サービス計画の要件として、以下の内容等を運営基準の通知に記載する ・ 施設サービス計画の作成にあたり、本人の意思を尊重した医療・ケアの方針決定に対する支援に努めること。
前者が加算等の要件、後者は運営基準側の求めです。入口が2つあるということでもあります。
理念文書が、算定の条件になりました。「読んでおくとよいもの」から「やっていないと算定できないもの」へ、位置づけが変わったということです。
対象になったサービスの広さ
この見直しの対象は、施設だけではありません。同じ資料が挙げているサービスを並べると、範囲の広さが見えます。
短期入所療養介護、小規模多機能型居宅介護、居宅介護支援、特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院。
グループホームも、居宅のケアマネジャーも入っています。看取りは特養だけの話ではないという前提が、対象サービスの並びに表れています。
グループホームの夜勤帯で「これは看取りに入ったのか、まだ違うのか」が分からないまま朝を迎える。居宅のケアマネジャーが、退院前の話し合いで初めて方針を聞かされる。どちらの立場も、この見直しの対象に入りました。
看取り介護加算そのものが求めていること
では加算の本体は何を求めているのか。特別養護老人ホームなどの看取り介護加算について、厚生労働省の留意事項通知(平成12年老企第40号)はこう説明しています。
看取り介護加算は、医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断した入所者について、本人及び家族とともに、医師、看護職員、介護職員等が共同して、随時本人又はその家族に対して十分な説明を行い、合意をしながら、その人らしさを尊重した看取りができるよう支援することを主眼として設けたものである。
押さえておきたい点が3つあります。
| 要素 | 通知が求めていること |
|---|---|
| 診断 | 医師が「一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない」と診断していること |
| 共同 | 本人・家族とともに、医師・看護職員・介護職員等が共同して行うこと |
| 説明と合意 | 随時、十分な説明を行い、合意をしながら進めること |
**「随時」と「合意をしながら」が並んでいます。**一度説明して同意をもらえば終わり、という設計ではありません。
指針の整備も求められました。管理者主導で、生活相談員・介護職員・看護職員・介護支援専門員等による協議によって「看取りに関する指針」を定めることとされ、現場で「看取りのマニュアル」と呼ばれているものの多くが、この指針にあたります。盛り込む項目には施設の看取り方針、終末期の経過ごとの考え方、医療行為の選択肢、医療機関との連携体制、そして本人・家族との話し合いや同意・意思確認の方法が含まれます。
なお、回復の見込みについての診断は医師が行うものです。**介護職が状態から判断する話ではありません。**この線は、あとの節で扱う記録の書き方にも関わってきます。
看取りの方針の決め方|本人の意思が確認できるとき

ガイドラインは、方針の決め方を2つの場合に分けています。本人の意思が確認できる場合と、できない場合です。まず前者から見ます。
医学的検討と説明のうえで、本人が決める
原文はこうです。
① 方針の決定は、本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て、医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされることが必要である。そのうえで、本人と医療・ケアチームとの合意形成に向けた十分な話し合いを踏まえた本人による意思決定を基本とし、多専門職種から構成される医療・ケアチームとして方針の決定を行う。
順番が決まっています。医学的検討 → 情報提供と説明 → 話し合い → 本人の意思決定 → チームとして方針決定。
介護職が関わるのは、主に3つ目の話し合いの部分です。ただ、その前提として本人が説明を受けて理解できる状態にあるかを見ているのは、日々そばにいる人でもあります。
意思は変わる前提で設計されている
②が、この文書の性格をよく表しています。
② 時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるような支援が行われることが必要である。この際、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めて話し合いが繰り返し行われることも必要である。
**「その都度」「繰り返し」。**意思が変わることを想定外の事態としてではなく、前提として書いています。
だから「前に本人が言っていたから」で押し切るのは、この設計に合いません。前に聞いた内容は出発点であって、結論ではないということです。
話し合った内容は、その都度文書に
そして③。
③ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。
短い一文ですが、記録の義務がここに置かれています。**「最後にまとめて」ではなく「その都度」**です。
意思が変わりうる前提で設計されているので、変わっていく過程そのものが残っていないと意味がありません。3回話して3回とも違うことを言った、という記録にも価値があります。
本人の意思が確認できないときの3段階

現場でいちばん難しいのが、この場面です。本人がもう意思を示せない。家族はいる。さて、どう決めるのか。ガイドラインは3段階の順番を定めています。
①推定できる場合は「推定意思を尊重」
まず1段階目です。
① 家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
ここを読み違えないでください。求められているのは家族の希望ではなく、家族を通じて本人の意思を推定することです。
同じ「家族に聞く」でも、問いが違います。
| 問い方 | 得られるもの |
|---|---|
| ご家族はどうしてほしいですか | 家族の希望 |
| ご本人なら、こういうときどうおっしゃったと思いますか | 本人の推定意思 |
ガイドラインが1段階目に置いているのは、下の問いです。本人が主語のままでいられる段階が、まずあるということになります。
「昔から人に迷惑をかけるのを嫌がっていた」「入院は嫌だとよく言っていた」。そういう話が家族から出てきたら、それは推定の材料です。記録に残す価値があります。
②推定できない場合は「本人にとっての最善」
推定ができないこともあります。本人が何も言い残していない。家族も分からない。そのときが2段階目です。
② 家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う。
ここで初めて「話し合って決める」段階に入ります。ただし決めるのは「家族の希望」ではなく、本人にとっての最善です。主語はまだ本人のままになっています。
そして最後に「繰り返し行う」と書かれています。1回決めたら終わりではありません。
③家族等がいない場合・判断を委ねられた場合
3段階目です。
③ 家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
「うちでは決められないので、お任せします」と言われる場面は、実際にあります。そのときも判断の基準は変わりません。本人にとっての最善です。
そして①〜③のどれであっても、④が続きます。
④ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。
**「その都度、文書に」は、本人の意思が確認できる場合と、できない場合の両方に書かれています。**同じ一文が2度出てくるということは、そこが動かせない要求だからです。
まとまらないときは別の話し合いの場を設ける
意見が割れることもあります。ガイドラインは、その場合の対応も用意していました。
「(3)複数の専門家からなる話し合いの場の設置」として、3つの場面が挙げられています。
| ガイドラインが挙げている場面(原文) | 現場での言い換え |
|---|---|
| 医療・ケアチームの中で心身の状態等により医療・ケアの内容の決定が困難な場合 | チーム内で結論が出ない |
| 本人と医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合 | 本人とチームの意見が合わない |
| 家族等の中で意見がまとまらない場合や、医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合 | きょうだいで意見が割れている |
これらについて、条文はこう続きます。
等については、複数の専門家からなる話し合いの場を別途設置し、医療・ケアチーム以外の者を加えて、方針等についての検討及び助言を行うことが必要である。
注目したいのは「医療・ケアチーム以外の者を加えて」の部分です。いつものメンバーで議論を続けるのではなく、外の目を入れる設計になっています。
現場では、看取りカンファレンスや担当者会議と呼ばれる場がこれに近い役割を担ってきました。ただガイドラインが求めているのは外部の人を加えることなので、いつものカンファレンスとは設計が違う点に注意が要ります。会議の種類と法的な位置づけはカンファレンスとは(法令が名前を付けた2つの会議)で整理しました。
家族のあいだで意見が割れているケースも、ここに含まれました。「ご家族で話し合っておいてください」と預けてしまう前に、この規定を思い出す価値があります。
なお、ガイドラインは対象外も明示していました。
④ 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインでは対象としない。
この線は、記事としてもそのまま引きます。ここで扱っているのは、あくまで方針の決め方の手続きです。
看取りの記録に何を残すか

ここまでの手順を、記録という具体に落としましょう。看取りの記録は、あとから読み返される可能性がいちばん高い記録でもあります。
「その都度、文書に」が2回書かれている意味
前の節で見たとおり、この一文はガイドラインに2度出てきます。本人の意思が確認できる場合の③と、できない場合の④です。
繰り返されているのは、話し合いが1回で終わらない前提があるからです。意思は変わりうるものとして設計されているので、変化の過程が残っていないと、最後の判断だけが宙に浮きます。
現実には、話し合いは廊下やベッドサイドで断片的に起きます。「そういえばこの前、こんなことを言っていた」。それを次の勤務者に渡すには、書くしかありません。
口頭で同意を得たときの書き方
看取り介護加算の留意事項通知は、記録について具体的でした。口頭で同意を得た場合は、介護記録に説明日時・内容等を記載し、同意を得た旨を記載することとされています。
本人が十分に判断できる状態になく、家族に連絡しても来てもらえない場合についても記載があります。医師・看護職員・介護職員等が本人の状態等に応じて随時相談し、共同して看取り介護を行っていると認められる場合には算定できるとされました。
ただし条件が付いています。介護記録に残すべきものとして、職員間の相談日時・内容に加えて、**本人の状態と「家族と連絡を取ったにもかかわらず来てもらえなかった旨」**が挙げられています。
つまり連絡を試みた事実そのものが、記録すべき項目に入っているということです。
さらに通知は、家族が入所者の看取りについてともに考えることは極めて重要であるとしたうえで、一度連絡を取って来てくれなかったとしても、定期的に連絡を取り続け、可能な限り家族の意思を確認しながら介護を進めていくことが重要だ、と続けています。連絡がつかないことは、手続きを省いてよい理由にはなりません。
「家族の希望」と「本人の推定意思」を書き分ける
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
記録に「家族が○○を希望」とだけ書かれていると、あとから読む人には**どの段階の話なのかが分かりません。**推定意思を聞いた結果なのか、推定できないので家族と話し合った結果なのか。ガイドラインの3段階のどこにいるのかが消えてしまいます。
書き分けの例を挙げます。
| 書き方 | あとから読んだ人が受け取るもの |
|---|---|
| 家族より、病院には行かせたくないとの希望 | 家族の希望。本人の意思との関係が不明 |
| 長女より、本人が生前「病院は嫌だ、家がいい」と繰り返し話していたと聞き取り。推定意思として共有 | ①の段階。本人の意思の推定であり、その根拠も残っている |
| 本人の意向を示す発言は家族からも確認できず。長女・次男と医師・看護師・介護職で協議し、本人にとっての最善として○○を選択 | ②の段階。推定できなかったことと、誰と何を話したかが分かる |
**段階が分かる記録は、次の話し合いの出発点になる。**逆に段階が分からない記録だと、次の人が同じ問いを一からやり直すことになります。
迷ったときの3つの問い
日々の場面で使える形にまとめましょう。看取りの記録を書く前に、3つだけ自分に投げてみてください。
- 本人ならどう言ったか(家族の希望を聞いているのか、本人の意思を推定しているのか)
- その根拠は何か(誰が、いつ、どんな場面で聞いた話なのか)
- いま決めたことを、いつ問い直すか(次に確認する機会をどこに置くか)
3つとも、ガイドラインの構造をそのまま借りています。1つ目は3段階の①と②の分かれ目、2つ目は推定の材料、3つ目は「繰り返し行う」という要求に対応します。
3つ目が抜けやすい部分です。方針が決まると、そこで記録が止まりがちです。ただ、この文書は**決めた内容を問い直すことまでを手順に含めています。**次に確認する場面を1行書いておくだけで、次の勤務者が動けます。
この手順は、実務のどこに挟まるか
最後に、ここまでの話が日々の流れのどこに入るかを整理しましょう。
| 場面 | この記事で扱った手順との関係 |
|---|---|
| 入所・利用開始時の説明 | 看取りに関する指針の説明と同意。指針には話し合いや意思確認の方法が含まれる |
| 医師の診断 | 回復の見込みがないという診断。ここから加算の対象になる |
| 方針の話し合い | ガイドラインの手順(意思が確認できる場合/できない場合の3段階)が働く |
| 日々の記録 | 「その都度、文書に」。口頭同意は説明日時・内容と同意を得た旨を記載 |
| 見直し | 意思は変わりうる前提。決めた内容を問い直す |
訪問系でも同じです。ヘルパーが「最近、食事の量が減っている」と気づいて記録に残す。その1行が、サービス提供責任者やケアマネジャーを通じて話し合いの材料になります。手順の入口に立っているのは、いちばんそばにいる人であることが多いはずです。
全部を今日から変える必要はありません。次に看取りの記録を書くとき、「家族の希望」と書きかけた1行を、上の書き分け表のどれにあたるか確かめるところからで十分です。
まとめ|言葉が変わり、要件になった

国の手引きは、2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」として生まれました。2015年に「終末期医療」から「人生の最終段階における医療」へ。2018年に「医療・ケア」へ。この2回目で介護施設と在宅が想定に入り、介護支援専門員や介護福祉士が名指しでチームの一員になりました。
そして2021年、看取りに係る加算の算定要件に「ガイドライン等の内容に沿った取組」が求められるようになります。理念だった文書が、算定の条件になりました。
次の一歩は、いくつかの選び方があります。職場の看取りに関する指針を開いて、本人・家族との意思確認の方法がどう書かれているか確かめる。直近の看取りの記録を1件開いて、「家族の希望」なのか「本人の推定意思」なのかが読み取れるか見てみる。あるいは、3つの問い(本人ならどう言ったか/その根拠は何か/いつ問い直すか)のうち1つだけ使ってみる。
全部を今日から変える必要はありません。気になっている記録が1件浮かんだなら、そこからで十分です。
よくある質問
看取り介護とは何ですか?
医師が回復の見込みがないと診断した人に対して、本人・家族と職員が話し合いながら、その人らしさを尊重して最期まで支援することです。厚生労働省の留意事項通知(平成12年老企第40号)は、特別養護老人ホームなどの看取り介護加算について「医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断した入所者について、本人及び家族とともに、医師、看護職員、介護職員等が共同して、随時本人又はその家族に対して十分な説明を行い、合意をしながら、その人らしさを尊重した看取りができるよう支援することを主眼として設けたものである」と説明しています。回復の見込みについての診断は医師が行うものであり、介護職が状態から判断するものではありません。「随時」「合意をしながら」とあるとおり、一度説明して同意を得れば終わりという設計にはなっていません。
「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」とは何ですか?
人生の最終段階の医療とケアについて、方針をどう決めるかの手順を定めた厚生労働省の手引きです。2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」として作られ、2015年に「最期まで本人の生き方(=人生)を尊重し、医療・ケアの提供について検討することが重要である」という理由から「人生の最終段階における医療」へ改称されました。2018年3月の改訂で「・ケア」が加わり、改訂の観点のひとつとして「病院だけでなく介護施設・在宅の現場も想定したガイドラインとなるよう、配慮すること」が挙げられました。本体は方針決定を担うチームを「多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチーム」と定義し、解説編は「介護支援専門員、介護福祉士等の介護従事者」を構成員として名指ししています。
本人の意思が確認できないときは、家族が決めるのですか?
家族の希望をそのまま採用するのではなく、まず本人の意思を推定するのが原則です。ガイドラインは3段階の順番を定めており、①家族等が本人の意思を推定できる場合には「その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする」、②推定できない場合には「本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする」、③家族等がいない場合や判断を医療・ケアチームに委ねられた場合には「本人にとっての最善の方針をとることを基本とする」としています。②では「時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う」ことも求められました。いずれの場合も、話し合った内容はその都度文書にまとめることとされています。
看取り介護加算の算定には何が必要ですか?
医師の診断、本人・家族への説明と同意、多職種による計画、そして記録が必要です。厚生労働省の留意事項通知は、医師が医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断していること、本人及び家族とともに医師・看護職員・介護職員等が共同して随時十分な説明を行い合意をしながら進めること、管理者主導で生活相談員・介護職員・看護職員・介護支援専門員等の協議により「看取りに関する指針」を定めることなどを求めています。指針には施設の看取り方針、終末期の経過ごとの考え方、医療行為の選択肢、医療機関との連携体制、本人・家族との話し合いや同意・意思確認の方法を盛り込むこととされています。加えて令和3年度の介護報酬改定により、看取りに係る加算の算定要件として「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン等の内容に沿った取組を行うこと」が求められるようになりました。具体的な算定可否の判断は保険者が行います。
看取りの話し合いは、どこまで記録に残せばよいですか?
話し合いのたびに、その都度文書にまとめることが必要です。ガイドラインは、本人の意思が確認できる場合と確認できない場合の両方について「このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする」と定めています。同じ一文が2度置かれているのは、意思が変わりうる前提で設計されているためで、変化の過程が残っていないと最後の判断だけが根拠を欠くことになりかねません。看取り介護加算の留意事項通知はさらに具体的でした。口頭で同意を得た場合は介護記録に説明日時・内容等を記載し、同意を得た旨を記載することとされています。本人が十分に判断できる状態になく、家族に連絡しても来てもらえない場合については、医師・看護職員・介護職員等が随時相談し共同して看取り介護を行っていると認められれば算定できるとされ、そのときは介護記録に職員間の相談日時・内容に加えて、本人の状態と「家族と連絡を取ったにもかかわらず来てもらえなかった旨」の記載が必要とされました。同通知は、家族が入所者の看取りについてともに考えることは極めて重要であるとしたうえで、一度来てもらえなくても定期的に連絡を取り続け、可能な限り家族の意思を確認しながら進めていくことが重要だとしています。記録では「家族の希望」なのか「本人の推定意思」なのかを書き分けておくと、次に読む人がどの段階の判断かを追えます。
出典
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(方針決定の手順・積極的安楽死の除外) (2018年(平成30年)3月改訂)
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン 解説編」(改称の経緯・改訂の3観点・医療・ケアチームの構成) (2018年(平成30年)3月改訂)
- 厚生労働省老健局「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」(看取り期における本人の意思を尊重したケアの充実) (2021年(令和3年))
- 厚生労働省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準…及び指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」(老企第40号・看取り介護加算) (2000年(平成12年)3月8日)
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、正確性・最新性を保証するものではありません。 制度や施設の状況は変わることがあります。実際のご判断の前には、各施設・公式情報や公的機関でご確認ください。
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