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尊厳とは|介護保険法に後から加えられた言葉と、身体拘束が原則禁止の理由

公開: 2026年8月1日 / 編集: 介護のしるべ編集部

内容確認: 2026年7月28日 ・ 次回確認期限: 2027年4月30日 ・ 編集部確認済み

「利用者の尊厳を守りましょう」。研修でも、申し送りでも、この言葉は繰り返されます。それでも、目の前で誰かがベッド柵を4点にしているのを見たとき、自分は何と言えばいいのか。言葉が出てこないまま、その場を通り過ぎたことはないでしょうか。

言葉が出ないのは、意識が低いからではありません。「尊厳を大切に」という言い方には、判断の基準が入っていないからです。何をしてよくて何がいけないのかを、この一言から引き出すことはできません。

尊厳は、もともと介護保険法にあった言葉ではありませんでした。2005年の改正で「第一条中『者が』の下に『尊厳を保持し、』を加える」という1行によって、後から差し込まれた語です。そして同じ改正で、「痴呆」という語が「認知症」に変わりました。理由の第一項目は「高齢者の尊厳に欠く表現であること」でした。

この記事では、尊厳が制度にどう書き込まれてきたかを条文でたどり、その最も具体的な形である身体拘束の原則禁止を、禁止される11の行為と3つの要件まで降ろして整理します。

読み終えたときに手元に残るのは、心構えではありません。迷ったときに自分へ投げる3つの問いです。

まず結論:尊厳は、法律に書き足された言葉

「尊厳を保持し」は、2005年の改正で介護保険法第1条に後から加えられました。 改正法の条文は1行です。「第一条中『者が』の下に『尊厳を保持し、』を加える。」制度が始まった2000年の条文に、この語はありませんでした。

同じ改正で「痴呆」が「認知症」になりました。 用語を変えた理由の第一項目が「高齢者の尊厳に欠く表現であること」です。国は理念を掲げただけでなく、言葉をひとつ差し替えるところまでやりました。

尊厳のいちばん具体的な形は、身体拘束の原則禁止です。 省令は「緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為を行ってはならない」と書いています。禁止の対象になる行為は、手引きで11項目が名指しされています。

「尊厳を大切に」という言い方は、聞くたびに背筋が伸びる一方で、明日の判断には使えません。この記事が扱うのは、その言葉が制度のどこにどう書かれ、現場ではどんな行為の可否として現れているかのほうです。

「身体拘束ゼロへの手引き」には、家族の声が収められています。

アルツハイマーの夫について「点滴をはずしたら困るから両手を縛ってもいいでしょうか」と医師にいわれ、そうした。「かわいそうだ」といってナースの一人が自由にしたとき、重ねて縛られていた両手をさすっている夫の姿を見て、思わず泣いてしまった。

尊厳という言葉が指しているのは、この場面のことです。

尊厳とは|法令が使う「尊厳の保持」

尊厳という語は、日常でもニュースでも使われます。ただ、介護の文脈で出てくる「尊厳の保持」は、日常語より少し限定された意味を持っています。この節では、法令がどの言葉とセットでこの語を使っているかを確認しましょう。

日常語の意味と、法令の意味は少しずれる

辞書的には、尊厳は「尊くおごそかなこと」「侵しがたいこと」と説明されます。この説明を読んで、次の日の仕事が変わった人はおそらくいません。抽象度が高すぎるからです。

法令はもう少し具体的です。尊厳という語は単独では使われず、「尊厳の保持」という形で、必ず何かとセットで書かれています

介護保険法第1条では「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」と続きます。社会福祉法第3条も「個人の尊厳の保持を旨とし」のあとに、能力に応じた自立した日常生活の支援が続く形でした。

つまり法令の言う尊厳の保持は、その人が自分の力で暮らしていける状態を支えることとほぼ一体で書かれています。抽象的な敬意の話ではなく、暮らしの話として置かれているわけです。

社会福祉法が置いた「個人の尊厳の保持を旨とし」

社会福祉法の条文を見てみます。

第三条 福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない。

「福祉サービスの基本的理念」という見出しが付いた条文です。福祉サービス全般について、尊厳の保持を旨とすることが最初に置かれています。

なお、この語が法律のなかで何度も出てくるわけではありません。社会福祉法の全文を検索すると、「尊厳」の出現はこの第3条の1回だけです(2026年7月時点)。あとで見る高齢者虐待防止法も同じく1回。繰り返し登場する言葉ではなく、要のところに1回置かれる言葉だと考えると、位置づけが掴みやすくなります。

研修の科目名にもなっている

尊厳は、研修のカリキュラムにも名前として入りました。介護職員初任者研修には「介護における尊厳の保持・自立支援」という科目があります。厚生労働省が定めた研修科目と時間数を見ると、全130時間のうち9時間がこの科目です。技術を扱う「こころとからだのしくみと生活支援技術」の75時間を別にすれば、いちばん長い部類にあたります。研修内容の詳細は介護職員初任者研修とは(学ぶ内容・費用・取得までの流れ)で扱っています。

ここでも尊厳の保持は、自立支援と組みで置かれました。別々のテーマではなく、ひとつながりの科目として設計されているということです。

どこにどう書かれているか
社会福祉法 第3条福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし
介護保険法 第1条これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう
高齢者虐待防止法 第1条高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ
初任者研修のカリキュラム介護における尊厳の保持・自立支援(全130時間のうち9時間)

法律の目的規定と、研修の科目名。尊厳という語が現れるのはこの2つの場所です。逆にいえば、現場の運営基準を定めた省令には、この語はほとんど出てきません。そこでは尊厳ではなく、してはいけない行為が名指しで書かれました。その話は後半で扱います。

介護保険法に「尊厳」が入ったのは2005年

介護保険法の第1条に「尊厳を保持し」と書かれていることは、研修でもよく紹介されます。ただ、この語が制度の開始時にはなかったことまで説明されることは、あまりありません。ここでは改正法の条文と、その2年前に出た報告書をたどります。

改正法の条文は1行だけ

2005年6月29日に公布された「介護保険法等の一部を改正する法律」(法律第七十七号)。その本文に、次の1行があります。

第一条中「者が」の下に「尊厳を保持し、」を加える。

これだけです。改正前の第1条は「…その他の医療を要する者等について、これらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」と続いていました。そこへ「尊厳を保持し、」が差し込まれ、現在の形になりました。

第1条の該当部分
2000年施行時これらの者が、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう
2005年改正後(現行)これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう

たった6文字の追加ですが、置かれた位置が効いています。「自立した日常生活」のに入りました。自立の話をする前に、まず尊厳がある、という順番です。

きっかけは2003年の報告書

この改正の2年前、2003年6月に厚生労働省老健局の研究会がひとつの報告書を出しています。表題は「2015年の高齢者介護〜高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて〜」。戦後のベビーブーム世代が65歳以上になりきる2015年を見据えて、これからの高齢者介護の姿を描いたものです。

この報告書に「尊厳」という語は27回出てきます。冒頭で、何を基本に据えたかがこう書かれています。

その姿を描くに当たっては、これからの高齢社会においては「高齢者が、尊厳をもって暮らすこと」を確保することが最も重要であることから、高齢者がたとえ介護を必要とする状態になっても、その人らしい生活を自分の意思で送ることを可能とすること、すなわち「高齢者の尊厳を支えるケア」の実現を目指すことを基本に据えた。

表題そのものが「高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて」です。この報告書のあと、介護保険法の目的規定に同じ語が入りました。

自立支援の根底にあるもの

同じ報告書に、現場でよく議論になる論点への答えが書かれています。自立支援と尊厳のどちらが上位なのか、という問いです。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

自立支援が目的で、尊厳はその副産物ではありません。順番は逆です。尊厳の保持が根底にあり、その表れとして自立支援がある、と報告書は書いています。

この順番は、現場の判断に効いてくるはずです。たとえば「自立支援のために、時間はかかっても自分でやってもらう」という方針があるとします。方針としては正しい。ただ、本人が疲れ切っていて「今日はやってほしい」と言っているのに、自立支援を理由に押し通すなら、根底のほうを踏み外していることになります。

報告書には、こんな一節もあります。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じであり、また仮に、痴呆の状態になったとしても、個人として尊重されたい、理解されたいという思いは同じである。

引用のなかの「痴呆」は、2003年当時の表記です。この語が変わるのは、この報告書の翌年でした。

同じ改正で「痴呆」が「認知症」になった

2005年の改正法をもう一度開くと、「尊厳を保持し、」を加える1行のすぐ近くに、別の改正が並んでいます。「痴呆対応型共同生活介護」を「認知症対応型共同生活介護」に改める、といった条文です。尊厳という語の挿入と、痴呆から認知症への置き換えは、同じ1本の法律で同時に行われました

変更理由の第一は「尊厳に欠く表現」

用語を変えるかどうかは、その前年に開かれた検討会で議論されています。「『痴呆』に替わる用語に関する検討会」といい、2004年6月から4回にわたって開かれました。

その検討会が整理した「変更の必要性」の、第一項目がこれです。

(1) 高齢者の尊厳に欠く表現であること。 「痴」には「おろかなこと、ばか」という意味があり、また、「呆」には「おろかなこと、あきれる、あっけにとられる」という意味がある。「痴呆」という用語そのものは、「あほう」という意味から由来しており、「痴呆」と呼ばれる高齢者に対する尊厳やいたわりを欠く表現である。

漢字の字義まで確認したうえで、尊厳を欠くと結論しています。

同年12月24日にまとまった報告書の結論は、次のとおりです。

(1) 「痴呆」という用語は、侮蔑的な表現である上に、「痴呆」の実態を正確に表しておらず、早期発見・早期診断等の取り組みの支障となっていることから、できるだけ速やかに変更すべきである。 (2) 「痴呆」に替わる新たな用語としては、「認知症」が最も適当である。

さらに3項目めで、単に用語を変える広報だけでは足りないとも釘を刺しています。「これに併せて、『認知症』に対する誤解や偏見の解消等に努める必要がある」。

呼び方が本人の力を奪うという指摘

変更の必要性には、もうひとつ現場に刺さる項目があります。

(2) 「痴呆」の状態や症状について、誤解を招く表現であること。 「痴呆」という用語は、「痴呆」になると「なにもわからない」、「なにもできない」状態になるという誤解を生じさせる一因となっている。こうした誤解があるために、本人が抱いている不安や焦りの気持ちを周囲が理解することの妨げとなっており、本人ができることまで周囲がやってしまい本人の能力を更に低下させることにつながっている。

呼び方が誤解を生み、誤解が周囲の手出しを増やし、手出しが本人の力を奪う。この連鎖が、国の報告書に書かれています。

同じ報告書は、認知症のある方こそ尊厳の保持を基本に据える必要がある、とも書いています。

痴呆性高齢者は、記憶障害が進行していく一方で、感情やプライドは保持されるため、外界に対して強い不安を抱くと同時に、周りの対応によっては、焦燥感、喪失感、怒り等を感じやすくなる。このため、痴呆性高齢者にこそ、その人の人格やそれまでの生活を尊重するという「尊厳の保持」の姿勢をケアの基本とする必要がある。

引用中の「痴呆性高齢者」は2004年当時の表記です。なお、この引用と前後の引用に出てくる項番の括弧は、原典の表記のまま載せています。

記憶は薄れても、感情とプライドは残る。だから周りの対応が効く、という整理です。

家族の会の名前も変わった

用語の変更は、行政の文書だけの話ではありませんでした。当事者団体の名前も変わっています。

長く「呆け老人をかかえる家族の会」という名前で活動していた団体は、2006年6月に認知症の人と家族の会へ改称しました。公益社団法人になったのは、その4年後の2010年6月です。本記事の後半で引用する家族の声も、改称前の名前で行われた調査によるものです。

言葉を変えることは、それ自体では何も解決しません。ただ、変えないままでは動かないものがあることも確かです。

そして、呼び方の見直しがいちばん早く効くのは、記録と申し送りです。「不穏」「問題行動」「帰宅願望」。どれも、本人の理由を消して結果だけを書く語です。次の勤務者はその1行から利用者像を作るので、書き方がそのまま見方になります。

用語検討会が指摘したのは、まさにこの連鎖でした。呼び方が誤解を生み、誤解が手出しを増やす。今日の記録を1行だけ、「何をしていたか」と「何を言っていたか」に書き直せるか、試してみてください。それが尊厳という語の、いちばん手前にある実践です。

身体拘束が原則禁止である理由

ここまでは理念と言葉の話でした。ここからは行為の話になります。尊厳という語がいちばん具体的な形をとって現れるのが、身体拘束の規定です。省令には尊厳という語は出てきません。代わりに、してはいけない行為が名指しで書かれています。

省令は行為を名指しで禁じている

特別養護老人ホームの運営基準を定めた省令(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準)の第11条に、こうあります。

4 指定介護老人福祉施設は、指定介護福祉施設サービスの提供に当たっては、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない。

「行ってはならない」。理念の言葉ではなく、禁止の条文です。

続く第5項が記録の義務を定めています。

5 指定介護老人福祉施設は、前項の身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。

この省令の全文を検索しても「尊厳」という語は1度も出てきません(2026年7月時点)。理念は法律の目的規定に、現場の基準は行為の禁止と記録の義務として書かれている。この分業のしかたが、尊厳という言葉の実務での姿です。

禁止の対象となる11の行為

では、何が身体拘束にあたるのか。厚生労働省の身体拘束ゼロ作戦推進会議がまとめた「身体拘束ゼロへの手引き」(2001年3月)に、具体的な行為が11項目挙げられています。

前文はこうです。「介護保険指定基準において禁止の対象となっている行為は、『身体的拘束その他入所者(利用者)の行動を制限する行為』である。具体的には次のような行為があげられる。」

#手引きに挙げられている行為(原文)
1徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
2転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
3自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
4点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
5点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
6車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
7立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
8脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
9他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
10行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
11自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。

なお1項目めの「徘徊」は2001年当時の原文の表記です。本人なりの目的がある行動を、目的のない歩き回りとして扱ってしまう語なので、本記事でも引用のなかだけで使っています。この点は後の節で触れる2025年の新しい手引きで実際に手が入り、同じ項目が「一人歩きしないように」へ書き換えられました。前の節で見た用語の見直しは、いまも続いています。

この11項目を眺めると、気づくことがあります。**ひもで縛る行為だけではありません。**サイドレールで囲む、テーブルを付ける、立ち上がりにくい椅子を使う、つなぎ服を着せる。どれも現場で「安全のため」として選ばれてきたものです。

だからこそ「うちは拘束していない」と言い切る前に、この11項目と自分の職場を照らし合わせる価値があります。ここでの目的は、誰かの職場を違法だと判定することではありません。気づかないまま続いているものがないかを確かめることです。

緊急やむを得ない場合の3要件

省令は「緊急やむを得ない場合を除き」と例外を置いています。この例外がどこまでかを、手引きが3つの要件として整理しました。

要件手引きの定義(原文)
切迫性利用者本人又は他の利用者等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと。
非代替性身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと。
一時性身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること。

3つのうちどれかではなく、すべてを満たすことが条件です。手引きはこう書いています。「以下の3つの要件をすべて満たす状態であることを『身体拘束廃止委員会』等のチームで検討、確認し記録しておく。」

そして、この例外の射程はかなり狭く設定されています。

「緊急やむを得ない場合」の対応とは、これまで述べたケアの工夫のみでは十分に対処できないような、「一時的に発生する突発事態」のみに限定される。

一時的に発生する突発事態のみ。日常的に続いている拘束は、この例外には入りません。

非代替性の判断についても、手引きは念を押しています。

「非代替性」の判断を行う場合には、いかなる場合でも、まずは身体拘束を行わずに介護するすべての方法の可能性を検討し、利用者本人等の生命又は身体を保護するという観点から他に代替手法が存在しないことを複数のスタッフで確認する必要がある。

**複数のスタッフで確認する。**一人で決めることは想定されていません。

記録と、3か月に1回の委員会

省令はさらに、体制の整備も義務づけています。第11条第6項です。

講じなければならない措置(条文)
身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置その他の情報通信機器(以下「テレビ電話装置等」という。)を活用して行うことができるものとする。)を三月に一回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その他の従業者に周知徹底を図ること
身体的拘束等の適正化のための指針を整備すること
介護職員その他の従業者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること

3か月に1回以上の委員会、指針の整備、定期的な研修。この3つがそろって初めて、体制が整っていることになります。

手引きは、いったん拘束を始めた場合の扱いにも触れています。「『緊急やむを得ない場合』に該当するかどうかを常に観察、再検討し、要件に該当しなくなった場合には直ちに解除する。」始めたら終わりではなく、続けてよいかを問い直し続ける設計です。

手引きは2025年に作り直された

ここまで引いてきた「身体拘束ゼロへの手引き」は、2001年のものです。2025年3月、厚生労働省老健局がこれを作り直しました。新しい名前は「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」。施設だけでなく、在宅の介護事業所と家族も対象に加わっています。

**11項目と3要件は、そのまま引き継がれました。**ここまで見てきた中身は、いまも現役です。

変わったところが2つあります。ひとつは、11項目に但し書きが付いたこと。「しかし、これらは、あくまでも例示であり、他にも身体拘束に該当する行為があることに注意が必要である」と書かれました。11項目に載っていなければセーフ、ではないわけです。

もうひとつが、先ほど触れた1項目めの表現の書き換えでした。

そして新しい手引きの「はじめに」は、この記事がここまでたどってきた道すじを、そのまま書いています。

「身体拘束ゼロへの手引き」が作成された平成13年以降、平成17年には介護保険法の目的規定(同法第1条)に高齢者の「尊厳の保持」が加えられる等の改正があったほか

続けて、新しい手引きは「平成13年の手引きが触れていなかった高齢者の『尊厳の保持』の意味および重要性について記載しています」とも書きました。2005年に法律へ書き足された言葉が、20年かけて手引きにも書き足された。そういう順番です。

3要件についても、新しい手引きは一段踏み込みました。

介護現場において、「切迫性」「非代替性」「一時性」を満たすケースは極めて少ない。

例外は狭い。国はそう言い切っています。

迷ったときの物差し|3つの問いと相談先

ここまでの制度を、日々の判断に使える形にします。身体拘束のような重い場面だけでなく、声のかけ方や順番の決め方といった小さな場面でも使える物差しです。

「尊厳を大切に」では判断できない

「尊厳を大切にしよう」という言葉には、判断の基準が入っていません。だから、大切にしているつもりの行為と、そうでない行為を分けられない。

一方、身体拘束の制度は具体的です。要件を確認する/記録を残す/複数で判断する/説明するという手順が定められています。この手順の考え方は、拘束以外の場面にもそのまま持ち込めます。

3つの問いに置き換える

迷ったときに、次の3つを自分に投げてみてください。

  • それは本人が選べることか(本人に選択肢が渡っているか)
  • 理由を記録に書けるか(なぜそうしたかを、後で読む人に説明できるか)
  • 家族に同じ言葉で説明できるか(相手が変わっても説明が変わらないか)

3つとも、制度の構造をそのまま借りています。1つ目は自己決定、2つ目は身体拘束の記録義務、3つ目は手引きが求める家族への説明です。

問い制度上の対応現場での使い方
本人が選べることか介護保険法第1条の「尊厳を保持し、その有する能力に応じ」先に決めてから伝えていないか。選択肢を2つ以上出せているか
理由を記録に書けるか省令第11条第5項の記録義務「安全のため」で止まらず、何が起きうると考えたのかを書けるか
家族に同じ言葉で説明できるか手引きが求める説明の手続き職員同士で使う言い方と、家族に話す言い方が食い違っていないか

2つ目が効きます。記録に書けない行為は、たいてい説明できない行為です。逆に、書ける形に整理できるなら、その判断は共有できます。

そして手引きの言うとおり、一人で判断しないこと。3つの問いのどれかに詰まったら、それは自分の力不足ではなく、チームで話す合図です。

高齢者虐待防止法が定める5つの類型

尊厳と虐待は、制度のうえで直接つながっています。高齢者虐待防止法の第1条は、こう書き出されます。

この法律は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ

尊厳の保持のために、この法律があるという構造です。同法が定める虐待の類型は5つあります(第2条第5項第1号)。

類型条文の定義
身体的虐待高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること
介護・世話の放棄放任高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること
心理的虐待高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
性的虐待高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること
経済的虐待高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること

条文が「著しい」という語を重ねている点は、読むときに注意が要ります。程度の判断が入るということでもあり、逆にいえば個別の場面が虐待にあたるかどうかを、記事や個人が断定できるものではありません。判断するのは市町村です。

気づいたときの相談先

職場で気になる場面に出会ったとき、相談先は市町村の高齢者福祉の担当課、または地域包括支援センターです。高齢者虐待防止法は、養介護施設従事者等による虐待を発見した場合の市町村への通報について定めており、通報したことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁じています。

2025年の手引きは、身体拘束と虐待の関係をはっきり書いています。

「緊急やむを得ない場合」の適正な手続きを経ていない身体的拘束等は、原則として養護者及び養介護施設従事者等による高齢者虐待に該当する行為とされており、本人の居住地自治体に相談・通報が必要である

手続きを踏んでいるかどうかが、そのまま分かれ目になるという整理です。

いきなり通報という話ではなくても構いません。まず職場の身体的拘束等適正化委員会に議題として上げる、指針を読み返す、といった手前の段階もあります。

「身体拘束ゼロへの手引き」に収められた家族の声のひとつは、こう締めくくられていました。

人権尊重を考えれば、身体拘束禁止は当然と思うが、働く方々の意識を変えていかなければ、たとえ禁止令が出たとしても、なくなることはないと思う。

2001年に書かれた言葉です。禁止の条文があっても、それだけでは変わらない。そのことを、家族の側がいちばんよく分かっていました。

まとめ|言葉の前に、行為から見直す

尊厳は、2005年の改正で介護保険法第1条に書き足された言葉でした。同じ改正で「痴呆」が「認知症」に変わり、その理由の第一項目が「高齢者の尊厳に欠く表現であること」だった。国は理念を掲げるだけでなく、言葉と行為の両方に手を入れています。

現場でいちばん具体的な形は身体拘束の原則禁止です。省令が禁止と記録を義務づけ、手引きが11の行為を名指しし、例外は切迫性・非代替性・一時性の3つをすべて満たす場合に限られます。判断は一人で行わない。これも定められていることです。

次の一歩は、いくつかの選び方があります。2025年版の手引きにも引き継がれた11項目と、自分の職場を照らし合わせてみる。職場の身体的拘束等適正化の指針を、一度読み返す。あるいは、迷った場面で3つの問い(本人が選べるか/理由を記録に書けるか/家族に同じ言葉で説明できるか)のうち1つだけ使ってみる。

全部を今日から変える必要はありません。気になっている場面を1つ思い浮かべるところからで十分です。

よくある質問

介護における「尊厳の保持」とは何ですか?

法令上は、その人が自分の力で暮らしていける状態を支えることと一体で書かれている理念です。社会福祉法第3条は「福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない」と定めています。介護保険法第1条も「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」と続き、尊厳の保持と自立支援がひとつながりで置かれています。なお、この語は法律のなかで何度も出てくるものではなく、社会福祉法でも高齢者虐待防止法でも出現は1回だけです。理念を掲げる目的規定に置かれる言葉であり、現場の運営基準を定めた省令では、尊厳という語ではなく「してはならない行為」として具体化されています。

介護保険法に「尊厳」はいつから書かれているのですか?

2005年(平成17年)の改正からです。2000年の制度開始時の第1条には、この語はありませんでした。2005年6月29日に公布された「介護保険法等の一部を改正する法律」(法律第七十七号)に「第一条中『者が』の下に『尊厳を保持し、』を加える。」という条文があり、これによって現在の「これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」という形になりました。きっかけは2003年6月の高齢者介護研究会報告書「2015年の高齢者介護〜高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて〜」で、同報告書は「介護保険は…『自立支援』を目指すものであるが、その根底にあるのは『尊厳の保持』である」と述べています。なお同じ2005年改正で、「痴呆」を「認知症」に改める用語変更も行われました。

身体拘束はどんな場合に認められるのですか?

「切迫性」「非代替性」「一時性」の3つをすべて満たす、緊急やむを得ない場合に限られます。省令(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準)第11条第4項は「当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為を行ってはならない」と定めました。厚生労働省の「身体拘束ゼロへの手引き」(2001年3月)は、この例外を切迫性(生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと)、非代替性(身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと)、一時性(一時的なものであること)の3要件として整理し、「一時的に発生する突発事態」のみに限定されるとしています。判断は担当者個人ではなく施設全体で行い、態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由の記録も義務づけられました。

ベッド柵(サイドレール)は身体拘束にあたりますか?

「自分で降りられないようにベッドを柵で囲む」使い方は、身体拘束として挙げられています。厚生労働省の「身体拘束ゼロへの手引き」が示す禁止の対象となる具体的な行為11項目の3番目が、「自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む」です。同じ11項目には、ひもで縛る行為だけでなく、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつけること、立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるいすを使用すること、介護衣(つなぎ服)を着せること、自分の意思で開けられない居室等に隔離することも含まれます。ただし個別の場面が拘束にあたるかどうかは、目的・使い方・本人の状態によって変わるものです。判断は担当者個人ではなく、身体的拘束等の適正化のための委員会など施設全体の体制で行うものとされています。

職場で尊厳を欠く対応を見かけたら、どうすればよいですか?

相談先は市町村の高齢者福祉担当課または地域包括支援センターです。高齢者虐待防止法は、養介護施設従事者等による高齢者虐待を発見した場合の市町村への通報について定めており、通報したことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁じています。ただし、いきなり通報という段階でなくても構いません。事業所には身体的拘束等の適正化のための委員会を3か月に1回以上開催し、指針を整備し、定期的に研修を行うことが省令で義務づけられているため、その場に議題として上げる方法もあります。個別の場面が虐待にあたるかどうかを判断するのは市町村であり、記事や個人が断定できるものではありません。まず事実を日時・場面つきで記録に残しておくと、どの相談先に持ち込む場合でも話が進みやすくなります。

出典


本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、正確性・最新性を保証するものではありません。 制度や施設の状況は変わることがあります。実際のご判断の前には、各施設・公式情報や公的機関でご確認ください。

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