働き方

QOLとは|ADLとの違いと「客観的に測れる」という誤解、記録での残し方

公開: 2026年8月1日 / 編集: 介護のしるべ編集部

内容確認: 2026年7月28日 ・ 次回確認期限: 2027年4月30日 ・ 編集部確認済み

「QOLの向上に努めます」。研修の資料にも、事業所の理念にも、そう書いてあります。それでも、記録用紙を前にすると手が止まる。QOLが上がったかどうかを、自分は何をもって判断すればいいのか。

先に、いちばん肩の力が抜けることを書きます。**QOLが上がったかどうかは、あなたが判断するものではありません。**WHOの定義は “an individual’s perception”——本人の認識という言葉から始まります。外から測るための指標として作られた概念ではないからです。

世界で最も広く使われているQOLの尺度SF-36も、日本語版を開発した研究者が「自己報告式の健康状態調査票」と書いています。しかも、面接形式にすると点数が高く出る傾向があり、第三者が記入したものは自己記入式と同列に比較できないとまで注意されました。

この記事では、WHOの定義原文と尺度の一次文献、そして国の健康寿命がどう算出されているかを確認しながら、「ADLが上がればQOLも上がる」という通説がどこまで言えるのかを整理します。

読み終えたときに残るのは、点数のつけ方ではありません。今日の記録に、本人の言葉をひとつ残すという具体的な手順です。

まず結論:QOLは本人の採点表である

WHOの定義の中心は「本人の認識」です。 WHOは QOL を “an individual’s perception of their position in life” と定義しています。訳せば、その人自身が自分の人生の状況をどう認識しているか。外から測る指標として設計された言葉ではありません。

QOLの尺度は、本人が答える自記式が基本です。 世界で最も広く使われているSF-36について、日本語版を作った研究者はこう書いています。「最も頻繁に用いられている方法は、自己記入式の質問紙法である」。しかも、面接形式にすると点数が高く出る傾向があり、第三者が記入したものは自己記入式と同列に比較できないとまで注意されています。

だから記録には、点数ではなく本人の言葉を残すほうが確かです。 「QOLが向上した」は職員側の評価語です。「前より外に出るのが楽しい」は本人の言葉。後で読む人にとって、価値が違います。

介護福祉士として17年働いてきた35歳の方が、noteにこう書いていました(第11日:「ありがとう」を言われる仕事だと思ってた。18歳の私を絶望させた、介護の『本当の泥臭さ』の正体。・note・2026年3月)。

精一杯やっていた。丁寧に介助していた。

それでも、ご家族から言われた言葉があったそうです。

「もっとやさしくしてあげてください。母が嫌がっているので」

丁寧さは自分で採点できます。けれど、受け取る側がどう感じたかは、こちらの採点表には載りません。QOLという言葉が指しているのは、まさにそちら側です。

QOLとは|「生活の質」の定義を原文で読む

QOLは Quality of Life の略で、日本語では「生活の質」「人生の質」と訳されます。ただ、この訳語だけでは何を指しているのか掴みにくい。ここではWHOの定義を原文で確認し、実際に使われている尺度がどんな構造をしているかを見ていきます。

定義の中心は「本人の認識」

WHOはQOLをこう定義しています。

WHO defines Quality of Life as an individual’s perception of their position in life in the context of the culture and value systems in which they live and in relation to their goals, expectations, standards and concerns.

日本語版の尺度を出している金子書房は、この定義をこう訳しています。

個人が生活する文化や価値観の中で、目標や期待、基準および関心に関わる自分自身の人生の状況についての認識

読み落としやすいのが、最初の “an individual’s perception” です。認識、と訳される部分。誰の認識かといえば、その人自身の認識です。

もうひとつ大事なのが「文化や価値観の中で」という条件です。何をよい状態と感じるかは、その人が育った環境や、大切にしてきたものによって変わります。だから同じ状態を見ても、Aさんは満足し、Bさんは満足しない。それがQOLの前提として定義に書き込まれています。

つまりQOLは、同じ物差しで全員を並べるための指標ではありません。並べられないことを承知のうえで、それでも本人の認識を聞き取ろうとする概念です。

WHOQOL-26は4つの領域で聞いている

WHOが開発した尺度に、WHOQOL-26があります。日本語版の構成は次のとおりです。

項目内容
質問項目数26問(4領域を問う24問+QOL全体を問う2問)
領域身体的領域/心理的領域/社会的関係/環境領域
回答時間10分程度
自己採点5分程度
対象年齢18歳以上

注目したいのは領域の内訳です。身体に関わるのは4つのうち1つ。残る3つは、心理的なこと、人との関係、そして環境です。

「自己採点 5分程度」という記載も見逃せません。採点するのは本人だという前提が、商品説明の段階で示されています。

介護の現場でQOLを語るとき、どうしても身体の話に寄りがちです。歩けるようになった、食事量が増えた、入浴の回数が増えた。それらは大切な変化ですが、尺度の構造でいえば4分の1の領域に関する話にすぎません。

「その人らしさ」で止まらないために

QOLの説明でよく出てくるのが「その人らしさを大切に」という言い方です。間違ってはいません。ただ、この言葉だけで終わると、次の日の仕事が1ミリも変わらないという問題があります。

「その人らしさ」は、聞かれた側が答えにくい言葉でもあります。「あなたらしさは何ですか」と問われて、すらすら答えられる人は多くないでしょう。

WHOの定義は、もう少し具体的な手がかりをくれます。**目標(goals)、期待(expectations)、基準(standards)、関心(concerns)**の4つです。

定義の語聞き方に翻訳すると
目標これから、やってみたいことはありますか
期待どうなったらいいな、と思っていますか
基準ご自分では、どのくらいできれば十分だと思いますか
関心いま、いちばん気になっていることは何ですか

抽象的な問いを、答えられる大きさに割るということです。この4つなら、次の訪問でそのまま口に出せます。

ADLが上がればQOLも上がる、とは限らない

「ADLとQOLは相関関係にある」「ADLが向上すればQOLも向上する」。QOLを扱う記事の多くが、この説明を採用しています。実感としても分かる話です。ただ、尺度の構造を見ると、そう単純ではない部分が見えてきます。この節では、両者の関係を測定する道具の側から整理します。

尺度のなかで身体機能が占める場所

先ほどのWHOQOL-26では、4領域のうち身体的領域は1つでした。SF-36も同じ構造です。

SF-36の一次文献によれば、この調査票は36項目のうち1項目(1年間の健康推移を尋ねる項目)を除いた35項目で、8つの下位尺度を算出します。そして8つの尺度は、最終的に2つの要約尺度にまとめられます。

8つの尺度は,図2において因子構造に従って並べられている.つまり,一番上に記されている「身体機能」は「身体的健康」に最も強く関連する尺度であり,一番下に記されている「心の健康」は「精神的健康」に最も強く関連する尺度である.

「身体機能」は8つのうちの1つ。要約すれば「身体的健康」と「精神的健康」の2本立てです。8つの内訳は次のとおりで、論文の図では上から順に並べられています。

下位尺度(原版名)関連が強い要約概念
身体機能(physical functioning)身体的健康
日常役割機能・身体(role-physical)
体の痛み(bodily pain)
全体的健康感(general health perception)
活力(vitality)精神的健康
社会生活機能(social functioning)
日常役割機能・精神(role-emotional)
心の健康(mental health)

論文の図では、「身体機能」の下にぶら下がる質問項目として「1キロメートル以上歩く」「数百メートル歩く」と並んで「入浴・着替え」が挙げられています。介護の現場でADLとして扱っている行為が、この尺度では8分の1の枝に収まっている、ということです。

ADLはこのうち身体の側に対応する情報です。ADLが動けばQOLの一部が動く。全部が動くわけではない、というのが構造から言えることになります。

もちろん、その一部から先へつながることはあります。一人で入浴できるようになったことで、デイの回数を減らして近所へ出る時間ができる。買い物や調理といったIADL(手段的日常生活動作)が戻れば、人と会う機会も増える。身体的領域の変化が、社会的関係や環境領域を動かす入口になる場面です。

ただし、つながるかどうかは本人の関心次第でしょう。買い物に行きたい人にとって歩行の改善は意味を持ちますが、もともと外出に関心がない人には別の意味を持つはずです。ADLとIADLの記録の書き分けはADLとは|できるADL・しているADLの違いと、記録での書き分け方で扱っています。

ADLが下がってもQOLが保たれることがある

逆方向も成り立ちます。身体機能が落ちても、心理的な安定や人との関係や環境が保たれていれば、本人の認識としての生活の質は下がらないことがある。

訪問介護のヘルパーからサービス提供責任者になり、いまは高齢の入居者を見守る仕事をしている方が、noteにこう書いていました(ゴキブリ、ネズミがいても家がいい・note・2024年3月)。

施設なんか行きたくない、ここがいい、ここで死にたいと言う方がほとんどでした。

安全の面だけを見れば、施設に移ったほうがよい場面はあります。転倒の危険は減り、食事も入浴も確実になる。ADLの数値も、支援があるぶん維持されやすいかもしれません。

それでも「ここがいい」と言う人が多いという話です。何をよい状態とみなすかは、その人が生きてきた文脈のなかで決まる。WHOの定義が「文化や価値観の中で」とわざわざ断っているのは、こういう場面のためでもあります。

これは「施設は本人のためにならない」という主張ではありません。本人の希望と、安全や身体機能の最大化は、必ずしも同じ方向を向かないという事実の確認です。どちらを取るかは、本人と家族と専門職が一緒に考えることになります。

「向上した」と職員が宣言できない理由

ここまでを踏まえると、記録によく登場するある表現に、少し慎重になったほうがよいことが分かります。「QOLが向上した」という書き方です。

QOLの定義は本人の認識でした。尺度も本人が答えるものでした。すると、本人が「よくなった」と言っていない段階で職員がQOLの向上を宣言すると、定義の外に出てしまいます。

書けるのは、次のようなことです。

書ける書きにくい
本人が「前より楽になった」と話した(日付・場面つき)QOLが向上した
入浴を週2回から週3回に変更し、本人が希望を続けている意欲が向上した
ADLの評価が一部介助から見守りに変わった生活の質が改善した

右の列が禁止だという話ではありません。ただ、右を書くなら、その根拠になる左の事実が同じ記録のなかに要る、ということです。

ADLの記録との役割分担

ADLとQOLは、記録の欄も、書く人も違います。

ADLは観察できるので、誰が見ても「浴槽をまたぐときに手を添えた」は同じ事実として書けます。だからこそ、しているADLとできるADLを分けて書く意味がありました。この書き分けについてはADLとは|できるADL・しているADLの違いと、記録での書き分け方で扱っています。

QOLは観察できません。表情や様子から推測することはできますが、それは推測です。推測を書くなら、推測だと分かる形で書くほうが後の人に親切でしょう。

ADLQOL
記録の形介助量・条件・環境本人の言葉の引用
変化の示し方前回との比較(数値・段階)本人の言い方の変化
第三者の代筆可能(観察記録として)本人の回答としては扱えない

なお、ICF(国際生活機能分類)の構成要素にQOLは含まれていません。ICFが分類するのは生活機能と障害、そして背景因子です。両者の関係はICFとは|6つの構成要素と「活動と参加」の線引き、記録での使い方で整理しています。

QOLの尺度は「客観的」ではなく自記式

検索上位には「QOLを客観的に測定する評価尺度」という見出しが並びます。ところが、その尺度をつくった側の文献を読むと、書かれている内容はかなり違いました。この節では、SF-36の日本語版を開発した研究者の記述から、尺度の実際の使われ方を確認します。

SF-36は自己報告式の健康状態調査票

まず、SF-36がどういう位置づけの道具なのか。日本語版の開発に携わった鈴鴨よしみ・福原俊一の解説論文は、冒頭でこう定義しています。

SF-36®(MOS Short-Form 36-Item Health Survey)は,世界で最も広く使われている自己報告式の健康状態調査票である.特定の疾患や症状などに特有な健康状態ではなく,包括的な健康概念を,8つの領域によって測定するように組み立てられている.わずか36項目の質問,5分程度の回答時間で包括的な健康度を測定する…

「自己報告式」。最初の一文に書かれています。

この調査票は1980年代のアメリカで行われた Medical Outcome Study(MOS)に伴って作られ、1991年に始まった IQOLA という国際プロジェクトを通じて各国語版がつくられました。日本語版は1992年から福原らを中心に作業が始まり、version1.2 が完成しています。対象年齢は16歳以上です。

聞き方を変えると点数が変わる

同じ論文の「SF-36® のデータ収集方法」という節に、現場にとって決定的な記述があります。

最も頻繁に用いられている方法は,自己記入式の質問紙法である.視覚障害がある回答者や高齢者のための面接用バージョンも作成されており,対面や電話インタビューによって実施することが可能である.ただし,一般に面接形式は自己記入式に比べて得点が高くなる傾向が指摘されているので,注意が必要である.

面接形式にすると、点数が高く出る傾向がある。

理由までは書かれていませんが、目の前に人がいる状況で「あまりよくない」と答えるのは、紙に書くより気を使う。そう考えると腑に落ちる話ではないでしょうか。

現場に引きつけると、こうなります。「調子はどうですか」と職員が本人に尋ねて返ってきた答えは、本人が誰にも見られずに書いた答えより、明るい側に寄る可能性がある。

思い当たる場面はいくつもあります。入浴介助の直後に「気持ちよかったですか」と聞けば、たいてい「ええ」と返ってきます。送迎車の中で「今日はどうでした」と聞いたときの答えと、家族が同席している面会の場での答えも、同じとは限りません。担当が替わった直後の一言と、半年通った相手への一言も違うでしょう。

聞き取りが悪いという意味ではありません。聞き取った答えには、聞いた相手との関係と、その場の状況が乗っているということです。

第三者が記入した点数は同列に比較できない

続く一文は、さらに踏み込んでいます。

また,状態の良くない対象者の場合は第3者が記入する方法も可能ではあるが,これも,自己記入式と同列に比較できないことを考慮する必要がある.

第三者が記入する方法は「可能ではある」。ただし自己記入式と同列には比較できない。

つまり、家族や職員が代わりに答えた点数を、本人が答えた点数と並べて「上がった」「下がった」と論じることはできません。これはQOLに限らず、代理回答という手法そのものが抱えている限界です。

回答のしかた一次文献の記述実務での読み方
自己記入式最も頻繁に用いられている方法基準になる形
面接形式(対面・電話)自己記入式に比べて得点が高くなる傾向方法を変えたら前回と比べない
第三者記入自己記入式と同列に比較できない「本人の回答」としては扱わない

ここから、記録に書ける一言が生まれます。QOLに関することを書くときは、誰が答えたのかを添える。本人が言ったのか、家族が言ったのか、職員が見て思ったのか。この3つを混ぜないだけで、記録の信頼度は変わります。

WHOQOL-26の使いどころ

では尺度は使えないのか、というとそうではありません。使い方の問題です。

WHOQOL-26は26問・回答10分・自己採点5分の自記式です。読み書きができて、質問の意味を取れる方であれば、本人に渡して答えてもらえます。答えたあとに一緒に見ながら「この項目、思ったより低いですね」と話す材料になる。

尺度の値打ちは、本人が自分の状態を言葉にするきっかけになるところにあります。職員が採点して点数で管理するための道具ではありません。

同じ理由で、点数を職場の目標に据えることにも慎重でいたいところです。点を上げること自体が目的になると、聞き方が誘導的になりやすい。前の節で見たとおり、聞き方は点数を動かします。

国の指標も、本人の答えでできている

ここまで「QOLは本人の認識」と繰り返してきました。現場感覚として受け入れにくい面もあるかもしれません。ところが、国が政策目標に使っている健康寿命という指標も、実は同じ作りをしています。この節では、国の数字がどこから来ているのかを確認しましょう。

健康寿命は1つの質問から算出される

健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されます。この定義だけ読むと、要介護認定のデータや医師の診断から出しているように思えるかもしれません。

実際の算定方法は違います。厚生労働省のe-ヘルスネットには、こう書かれていました。

「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という質問に対して、「ない」という回答を「健康」とし、「ある」という回答を「不健康」として、サリバン法により算出します。

質問はこの1問です。回答者はその人自身で、国民生活基礎調査を通じて集められました。

サリバン法という計算のしかたについても、同じページに説明が置かれていました。

毎年必ず10万人が誕生する状況を仮定し、そこに年齢別の死亡率と、年齢別の「健康・不健康」の割合を与えることで、「健康状態にある生存期間の合計値(健康な人の定常人口)」を求め、これを10万で除して健康寿命を求めます。なお、我が国の現行指標では、簡易生命表から5歳階級別の定常人口、国民生活基礎調査から5歳階級別の「健康・不健康」の割合を得て、「健康な人の定常人口」を求めています。

つまり日本の健康寿命は、ADLの実測値でも医師の判定でもなく、本人が「ある」「ない」で答えた結果の積み上げです。

しかも、この指標には副指標が用意されています。「自分が健康であると自覚している期間の平均」といい、こちらは「あなたの現在の健康状態はいかがですか」という質問への回答から算出されます。「よい」「まあよい」「ふつう」を健康、「あまりよくない」「よくない」を不健康として数える設計です。

自覚している期間の平均。ここまでくると、主観そのものを国が指標に採っていることになります。

同じページは、健康寿命が生まれた経緯についてもこう説明していました。

生きている状態(QOL:生活の質)を勘案することが重要であるとの認識が高まり、死亡データだけでなく生きている状態のデータを組み合わせた「健康統合指標」として健康寿命が着目されるようになりました。

QOLを勘案するために作られた指標なのだから、本人に聞く形になるのは筋が通っています。

平均寿命との差は男性8.49年・女性11.63年

令和4年(2022年)の数値は次のとおりです。

平均寿命健康寿命
男性81.05歳72.57歳8.49年
女性87.09歳75.45歳11.63年

出典は厚生労働省のe-ヘルスネット(2025年2月17日更新)で、数値の根拠として「令和4年簡易生命表の概況」と「健康寿命の令和4年値について」が参考文献に挙げられています。

差は男性で約8年半、女性で約12年。ここが介護の仕事が関わる期間にあたります。

ただ、この差の読み方には注意が要ります。「不健康な期間」と呼ばれることがありますが、中身は「日常生活に何か影響がある」と本人が答えた期間です。寝たきりの期間という意味ではありません。持病の通院がある、階段がつらい、そういう回答もすべてここに入ります。

**この8年から12年を「失われた時間」と見るか、「支援があれば十分に生きられる時間」と見るか。**QOLという言葉が置かれているのは、まさにこの解釈の場所です。

そして、高齢者のQOLを考えるうえで手がかりになるのが、先に見た4つの領域です。

WHOQOL-26の領域加齢に伴う動き方支援で動かせる余地
身体的領域年齢とともに下がりやすい維持・緩やかな回復が中心になりやすい
心理的領域身体とは別に動く関わり方・声のかけ方で変わりうる
社会的関係退職・死別・転居で細りやすい場と機会を用意すれば戻ることがある
環境領域住まい・制度・経済の影響を受ける福祉用具・住宅改修・サービス調整で動かせる

身体的領域だけを見れば、高齢期のQOLは下がる一方に見えます。ただ、4つのうち残る3つは、支援の側から手が届く場所です。訪問の曜日を本人の生活リズムに合わせる、同じ職員が続けて入る、居間の椅子の位置をひとつ変える。そうした調整が効くのは、身体的領域ではなく心理的領域・社会的関係・環境領域のほうです。

デイサービスの送迎で「今日は誰と同じ車ですか」と聞かれる。訪問のたびに前回の話の続きから始まる。そういう積み重ねが動かしているのも、身体機能の欄ではありません。

介護保険法に「QOL」という語はない

もうひとつ、意外に知られていない事実があります。

介護保険法(平成9年法律第123号)の全文をe-Gov法令検索で取得して調べたところ、「QOL」「QOL」「生活の質」のいずれも1度も出てきませんでした(2026年7月時点)。介護報酬の側でも、リハビリテーションや個別機能訓練の様式を示した介護保険最新情報Vol.936(令和3年3月16日)を全文検索した範囲では、これらの語は見つかりません。

では、法は何と書いているのか。第1条の目的規定です。

この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け…

法が使うのは「尊厳を保持し」「その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」という言い方です。第2条第4項にも、同じ「その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならない」という文言が置かれています。

QOL介護保険法の言葉
出どころWHO・研究の言葉法令の言葉
判定するのは本人制度(要介護認定・給付)
使う場面本人の認識を聞き取るとき給付の範囲や目的を示すとき

だから「QOLを上げるのが介護保険の目的です」という言い方は、厳密には法の言葉ではありません。逆にいえば、QOLは制度に縛られない言葉です。加算の要件でもなければ、実地指導で問われる項目でもない。誰の許可も要らず、明日から自分の記録に持ち込めます。

記録でQOLをどう扱うか|点ではなく引用で残す

ここまでの整理を、記録の形に落とします。難しい尺度を導入する必要はありません。書き方をひとつ変えるだけで、後で読む人に届く情報が変わります。

「QOLが向上した」と書かない

まず、やめるものから決めます。

SF-36の一次文献が「第3者が記入する方法も可能ではあるが,これも,自己記入式と同列に比較できない」と注意していたことを思い出してください。職員が代わりに判定した値は、本人の答えと並べられません。この原則は、点数だけでなく言葉にも当てはまります。

「QOLが向上した」「意欲的に参加された」「生活の質が改善した」。これらは職員側の評価語です。書いた人には状況が見えていますが、読む人には何が起きたのか分かりません。3か月後の自分にも分からないでしょう。

評価語だけの記録読む人に伝わらない理由
QOLが向上した何をもってそう判断したのかが残らない
意欲的に参加された誘われて来たのか、自分から来たのかが分からない
笑顔が見られたいつ・どの場面かが分からず、再現できない

評価語を使ってはいけないという話ではありません。評価語の隣に、その根拠になった事実が要るということです。

本人の言葉をそのまま残す

代わりに置くのが、本人の言葉です。要約せず、言い回しごとカギ括弧で残します。

「たまには外の空気を吸いたいね」を「外出への意欲あり」と要約した瞬間に、情報が減ります。「たまには」という控えめさも、「ね」という同意を求める語尾も消える。次に関わる職員が読んだとき、この方に何と声をかければよいかの手がかりが失われます。

3点セットで書くと過不足がありません。

要素書くこと
言葉本人の言い回しのまま「たまには外の空気を吸いたいね」
場面いつ・どこで・何をしているとき朝の整容中、窓の外を見ながら
誰の発言か本人/家族/職員の観察を分ける本人の発言

3つ目が効きます。前の節で見たとおり、本人が答えたのか、家族が答えたのか、職員が見て思ったのかは、同列に扱えません。記録の1行に「本人」と添えるだけで、その区別が後まで残ります。

次の訪問で使える3つの問い

本人の言葉を残すには、まず言葉が出てくる必要があります。とはいえ「あなたらしさは何ですか」と聞いても、答えは返ってきません。

WHOの定義が挙げていた目標・期待・基準・関心を、そのまま問いの形にします。次の3つなら、業務の合間の30秒で口に出せます。

  • いま、いちばん気になっていることは何ですか(関心)
  • 前と比べて、できなくなって残念なことはありますか(基準)
  • これから、やってみたいことはありますか(目標)

順番にも意味を持たせました。1つ目は現在のこと、2つ目は過去との比較、3つ目は未来のこと。いきなり未来を聞かれると答えにくい人でも、現在から順にたどると言葉が出てくることがあります。

3つを一度に聞く必要はありません。今日はどれか1つだけで十分です。

なお、この3つの問いは事業所によっては別の様式で扱われている場合があります。たとえばリハビリテーション関連の様式にある「興味・関心チェックシート」は、生活行為を「している」「してみたい」「興味がある」の3列で聞く形になっており、3つ目の問いと重なります。すでにある様式を確認してから使うほうが、二度手間になりません。

言葉が返ってこなかったことも記録する

最後に、これがいちばん書かれていない項目かもしれません。

聞いてみたけれど答えが返ってこなかった。首を振っただけだった。話題を変えられた。そうしたことも、記録に残す価値があります。

「聞けなかった」は空欄ではなく、情報です。同じ問いを別の職員が別の時間帯に投げたときに答えが返ってきたなら、そこには時間帯や相手という条件が効いていることになります。条件が見えれば、次に打てる手も見えてくるはずです。

状況記録の例
答えが返ってこなかった「やってみたいことは?」と尋ねたが、うなずくのみ(15時・談話室・職員A)
別の場面では話した翌朝の整容中、同じ話題で「昔は畑をやっていた」と話す(8時・居室・職員B)
家族から聞いたご長女より「畑仕事が生きがいだった」と情報提供(面会時・家族の発言)

言葉にしにくい方の場合、答えが出るまでに時間がかかることがあります。認知症のある方への関わり方を体系的に学ぶ場は認知症介護実践者研修とは|受講の条件・学ぶ内容と、キャリアや手当への活かし方で扱っています。

大切なのは、本人が答えられないからといって、職員が代わりに採点表を埋めないことです。空欄のままでも、なぜ空欄なのかが書いてあれば、それは立派な記録になります。

まとめ|今日の記録に、本人の言葉をひとつ

QOLは本人の採点表でした。WHOの定義は本人の認識から始まり、尺度は自記式が基本で、聞き方を変えれば点数も変わります。第三者が記入したものは、本人の回答と同列には比べられません。

ADLが上がればQOLも上がる、とは限らないことも見てきました。尺度の構造でいえば、身体機能は4領域のうち1つ、8下位尺度のうち1つ。動くのはQOLの一部です。そして国の健康寿命さえ、本人が1つの質問に答えた結果から作られていました。

次の一歩は、いくつかの選び方があります。今日の記録から評価語をひとつ減らして、代わりに本人の言葉をカギ括弧のまま残してみる。あるいは次の訪問で、3つの問いのうちどれか1つだけ聞いてみる。事業所に興味・関心チェックシートがあるなら、「してみたい」の列を読み返すところから始めても構いません。

全部を今日から変える必要はありません。1行で十分です。

よくある質問

QOLとADLの違いは何ですか?

QOLは本人が自分の生活をどう認識しているか、ADLは観察できる日常生活動作です。判定する人が違います。WHOはQOLを「個人が生活する文化や価値観の中で、目標や期待、基準および関心に関わる自分自身の人生の状況についての認識」と定義しており、原文は "an individual's perception"(個人の認識)から始まります。つまり判定するのは本人です。一方ADLは食事・排泄・入浴・移乗といった動作を指し、誰が見ても同じ事実として観察・記録できます。記録の形も変わります。ADLは介助量や条件を書き、QOLは本人の言葉を引用の形で残すのが実際的です。第三者が代わりに書いた場合、ADLは観察記録として成立しますが、QOLは「本人の回答」としては扱えません。

ADLが上がればQOLも上がるのですか?

一部は連動しますが、全部が連動するわけではありません。QOLの尺度の構造を見ると理由が分かります。WHOQOL-26は身体的領域・心理的領域・社会的関係・環境領域の4領域で構成され、身体に関わるのは4つのうち1つです。SF-36は8つの下位尺度を2つの要約尺度(身体的健康・精神的健康)にまとめる構造で、「身体機能」は8つのうち1つにあたります。ADLはこのうち身体の側に対応する情報なので、ADLが動けばQOLの一部が動く、という関係です。逆に、身体機能が低下しても、心理面や人との関係や環境が保たれていれば本人の認識としての生活の質が保たれることもあります。安全や身体機能の最大化と、本人が望む暮らしが同じ方向を向かない場面は現実に起こります。

QOLは客観的に測定できますか?

QOLの尺度は自己記入式が基本で、観察者が採点する客観指標ではありません。世界で最も広く使われているSF-36について、日本語版を開発した鈴鴨よしみ・福原俊一は「世界で最も広く使われている自己報告式の健康状態調査票である」と定義したうえで、データ収集方法についてこう注意しています。「最も頻繁に用いられている方法は,自己記入式の質問紙法である.」「一般に面接形式は自己記入式に比べて得点が高くなる傾向が指摘されているので,注意が必要である.」「また,状態の良くない対象者の場合は第3者が記入する方法も可能ではあるが,これも,自己記入式と同列に比較できないことを考慮する必要がある.」。つまり、誰がどう聞いたかによって点数が変わります。前回と比較するなら、回答方法をそろえる必要があります。

介護保険の制度でQOLは評価されていますか?

介護保険法に「QOL」「生活の質」という語は使われていません。介護保険法(平成9年法律第123号)の全文をe-Gov法令検索で確認したところ、「QOL」「QOL」「生活の質」はいずれも0件でした(2026年7月時点)。介護報酬の側でも、リハビリテーションや個別機能訓練の様式を定めた介護保険最新情報Vol.936(令和3年3月16日)を全文検索した範囲では同じ語が見つかりません。法が第1条で使うのは「これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」という表現です。したがってQOLは加算の要件でも実地指導で問われる項目でもなく、制度に縛られない言葉ということになります。裏を返せば、誰の許可も要らずに自分の記録へ持ち込める考え方です。

本人が言葉で答えられないとき、QOLはどう記録すればよいですか?

職員が代わりに採点するのではなく、聞けなかったこと自体を条件つきで記録します。QOLは本人の認識を指す概念なので、本人が答えていない状態で「QOLが向上した」と書くと定義の外に出てしまいます。代わりに書けるのは、いつ・どこで・誰が・どんな問いを投げ、どんな反応だったかという事実です。たとえば「『やってみたいことは?』と尋ねたが、うなずくのみ(15時・談話室・職員A)」と残しておけば、別の職員が別の時間帯に同じ問いを投げて言葉が返ってきたときに、時間帯や相手という条件が効いていることが見えてきます。家族から得た情報は「ご長女より」と発言者を明記し、本人の言葉と混ぜないでください。空欄であっても、なぜ空欄なのかが書かれていれば記録として機能します。

出典


本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、正確性・最新性を保証するものではありません。 制度や施設の状況は変わることがあります。実際のご判断の前には、各施設・公式情報や公的機関でご確認ください。

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