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フレイルとは|「虚弱」という訳語を捨てた理由と、廃用症候群との線引き

公開: 2026年8月1日 / 編集: 介護のしるべ編集部

内容確認: 2026年7月28日 ・ 次回確認期限: 2027年4月30日 ・ 編集部確認済み

「最近フレイルが進んできましたね」。カンファレンスでそう言われて、うなずきながら、内心では何を指しているのかよく分からないまま座っていた。そんな経験はないでしょうか。

言葉の意味を知らないからではありません。フレイルという言葉が、身体のことも気持ちのことも人付き合いのことも全部まとめて指せてしまう、便利で広い言葉だからです。広い言葉は、使った瞬間に話を終わらせてしまうことがあります。

この記事の結論を先に言うと、フレイルは「戻せる」ことを伝えるために選び直された言葉です。もともと使われていた「虚弱」では、もう戻らないと聞こえてしまう。だから日本老年医学会は2014年に、訳語を取り替えました。

その経緯をたどると、よく似た4つの言葉——フレイル、サルコペニア、ロコモ、廃用症候群——のうち、どれが自分たちの関わり方で防げるものなのかが見えてきます。

読み終えたとき、「フレイル傾向」と書きかけた記録を、次の人が手を打てる1行に書き直せるようになっているはずです。

まず結論:フレイルは「戻せる」ために選ばれた言葉

「フレイル」は、日本老年医学会が2014年に「虚弱」に代わる言葉として選び直したものです。 理由は、「虚弱」だと「もう戻らない」と伝わってしまうからでした。学会のステートメントは、そこをはっきり書いています。

フレイルは身体だけの話ではありません。 筋力や歩行の問題に加えて、うつなどの精神・心理的な問題、独居や経済的困窮といった社会的な問題までを含む概念です。3つの側面のどれが崩れても、フレイルは進みます。

似た4つの言葉のうち、廃用症候群だけは「原因」で名づけられています。 フレイル・サルコペニア・ロコモは「どこが弱っているか」を指す言葉です。廃用症候群だけが「生活が不活発だから起きた」という原因を名前に持っています。ここが、記録を書くときにいちばん効きます。

「最近フレイルが進んでますね」。カンファレンスでそう言い合うとき、実際に何を指しているのかは人によってずれています。ずれたまま記録に「フレイル傾向」と書くと、次に読む人は何をすればいいのか分かりません。

この記事で扱うのは、言葉の意味そのものより、その言葉を選んだ結果、次の人の手の打ち方がどう変わるかのほうです。

フレイルとは|学会が「虚弱」という訳語を捨てた理由

フレイルという言葉は、英語の frailty から来ています。ただ、そのまま外来語として持ち込まれたわけではありません。日本語訳をどうするか検討した結果、既にあった「虚弱」を捨てて選ばれた語です。この節では、なぜ捨てたのかを原典で確認します。

正式な定義は「予備能力の低下」から始まる

厚生労働省が2018年の「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン」で引いている定義は、次のとおりです。

「フレイル」とは、『フレイル診療ガイド2018年版』(日本老年医学会/国立長寿医療研究センター、2018)によると、「『加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態』を表す”frailty”の日本語訳として日本老年医学会が提唱した用語である。フレイルは、要介護状態に至る前段階として位置づけられるが、身体的脆弱性のみならず精神心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する。」と定義されている。

出発点は「予備能力の低下」です。体力が落ちた状態ではなく、余力が減った状態を指しています。

余力が減ると何が起きるか。ここが現場の実感とつながります。

同じ発熱でも、余力のある人は数日で戻り、余力の少ない人は寝込んだまま食事量が落ち、そのまま歩けなくなる。フレイルが問題にしているのは、この**「ひと押しで崩れやすさ」**です。

「虚弱」だと不可逆に聞こえる、という理由

日本老年医学会は2014年5月、この訳語についてステートメントを出しました。訳語を変えた理由が、そこに書かれています。

Frailty の日本語訳についてこれまで「虚弱」が使われているが、「老衰」、「衰弱」、「脆弱」といった日本語訳も使われることがあり、“加齢に伴って不可逆的に老い衰えた状態”といった印象を与えてきた。しかしながら、Frailty には、しかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性が包含されている。

**「虚弱」では、戻せることが伝わらない。**それが理由でした。学会は関連学会にも呼びかけて案を検討し、「虚弱」に代わって「フレイル」を使う合意を得た、と続けています。

この「戻せる」という含みは、あくまで概念に含まれているという意味です。誰でも必ず元に戻るという話ではありません。ただ、言葉のせいで最初から諦められてしまう状態を避けたかったという意図は、はっきり読み取れます。

同じことが認知症でも起きました。厚生労働省の検討会が2004年に「痴呆」を「認知症」へ改めたときも、理由の第一項目は「高齢者の尊厳に欠く表現であること」でした。

呼び方が見方を作る、という判断が続けて2回はたらいています。この経緯は尊厳とは(介護保険法に後から加えられた言葉)で扱いました。

身体・精神心理・社会の3つの側面

ステートメントは、フレイルの中身も定義しています。

Frailty とは、高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念である。

この3つは、それぞれ身体的フレイル・精神心理的フレイル・社会的フレイルと呼ばれます。現場での見え方に置き換えてみましょう。

種類ステートメントが挙げている例現場での見え方
身体的フレイル筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなる移乗の介助量が増えた。段差でつまずくようになった
精神心理的フレイル認知機能障害やうつレクへの参加を断るようになった。同じことを何度も聞くようになった
社会的フレイル独居や経済的困窮面会が途絶えた。デイの利用が週2回から1回に減った

もうひとつ、「虚弱」ではこの多面性を表現できないとも書かれています。学会は訳語を2つの理由で退けました。戻せることが伝わらないこと、そして身体だけの話に見えてしまうことです。

右の列を眺めると、気づくことがあるかもしれません。**3つとも、日々の記録に書いていておかしくない出来事です。**特別な検査ではなく、いつもの申し送りの材料がそのまま並んでいます。

学会が「介護専門職に知られていない」と書いた

このステートメントには、読んでいて少し驚く一文があります。

しかしながら、この Frailty の概念は多くの医療・介護専門職によりほとんど認識されておらず、介護予防の大きな障壁であるとともに、臨床現場での適切な対応を欠く現状となっている。

**介護専門職に知られていないことを、学会自身が問題として挙げている。**そのうえで、高齢者の医療介護に携わるすべての専門職が予防の重要性を認識すべきである、と結んでいます。

つまりこの言葉は、研究者どうしの用語として作られたのではありません。現場に届けるために選び直された言葉です。

2014年から10年以上が経ち、いまでは健診の質問票にも介護予防の事業にも入り込みました。次の節では、その判定の中身を見ます。

フレイルの判定|J-CHS基準5項目と現場の書類

フレイルかどうかを判定する物差しは、いくつかあります。日本でよく使われるのが、国立長寿医療研究センターが示した日本版CHS基準です。この節では5つの項目を確認し、そこから介護現場の書類につながる線を見ます。

2020年に改定されたJ-CHS基準の5項目

正式には「日本版CHS基準」、略してJ-CHS基準と呼ばれます。2020年に改定された内容が次のものです。

項目評価基準
体重減少6か月で、2kg以上の(意図しない)体重減少
筋力低下握力:男性<28kg、女性<18kg
疲労感(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
歩行速度通常歩行速度<1.0m/秒
身体活動「軽い運動・体操をしていますか?」「定期的な運動・スポーツをしていますか?」のいずれも「週に1回もしていない」と回答

5項目のうち、機器を使うのは握力と歩行速度の2つだけです。残る3つは、体重の記録と本人への質問で分かります。特別な検査を要する指標ではないという点は、意外に知られていません。

歩行速度の1.0m/秒という数字は、日常の場面に置き換えられます。歩行者用の信号は、大阪府警察や福岡県警察の説明によれば「一般的には歩行速度を秒速1メートルとして道路を渡りきれるよう調整」されているためです。つまり1.0m/秒は、青信号のあいだに横断歩道を渡り切れるかどうかの境目あたりにあたります。

ただしこれは、基準の数字を実感に置き換えるための説明にすぎません。横断の様子を見て該当・非該当を判断するためのものではないので、そこは切り分けてください。

3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイル

判定の区切りは3段階あります。

  • 3項目以上に該当:フレイル
  • 1〜2項目に該当:プレフレイル
  • 該当なし:ロバスト(健常)

プレフレイルは、フレイルの前段階を指す言葉です。ここに位置づけられる人が、いちばん多い層でもあります。

大事なのは、この判定を介護職が下すものではないという点です。判定は医師などの専門職が行います。ただ、5項目のうち3つは日々の記録と会話から拾える情報なので、気づいて申し送る側に介護職が立てることは確かです。

5項目のうち2つは、基本チェックリストの設問そのもの

ここが、この基準を眺めていて気づいた接点です。原表をよく見ると、2つの項目に括弧書きが付いています。

  • 体重減少 →(基本チェックリスト #11
  • 疲労感 →(基本チェックリスト #25

基本チェックリストは、介護予防・日常生活支援総合事業の事業対象者を判定する25項目の様式です。地域包括支援センターや居宅で、日常的に扱っている書類でしょう。

つまりJ-CHS基準の一部は、すでに現場で回している書類の設問をそのまま使っています。フレイルは医学の側から降ってきた概念に見えて、判定の入口は介護保険の様式と地続きです。

このつながりが分かると、見え方が変わります。基本チェックリストに丸を付ける作業は、書類仕事ではなく、フレイルの兆しを拾う作業でもあったということです。

質問票に口腔機能と社会参加が入っている理由

もうひとつ、行政の側の物差しがあります。厚生労働省が策定した「後期高齢者の質問票」です。2019年に作られ、2020年4月から全国の自治体で順次使われています。

この質問票は、10の類型に整理された15項目で構成されています。

類型設問の例
食習慣1日3食きちんと食べていますか
口腔機能半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか/お茶や汁物等でむせることがありますか
体重変化6カ月間で2〜3kg以上の体重減少がありましたか
運動・転倒以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか/この1年間に転んだことがありますか
社会参加週に1回以上は外出していますか
ソーシャルサポートふだんから家族や友人と付き合いがありますか

注目したいのは、口腔機能と社会参加が独立した類型として入っていることです。前の節で見た「フレイルは身体だけの話ではない」という定義が、行政の様式にそのまま反映されています。

厚生労働省の解説には、この質問票の役割のひとつとして「診療や通いの場等においても質問票を用いて健康状態を評価することにより、住民や保健事業・介護予防担当者等が高齢者のフレイルに対する関心を高め、生活改善を促すことが期待される」と書かれています。健診の場だけで使うものとは想定されていません。

サルコペニア・ロコモ・廃用症候群との線引き

フレイルの周りには、似た言葉が並んでいます。サルコペニア、ロコモティブシンドローム、廃用症候群。どれも「弱った状態」を指すため混ざりやすいのですが、見ている範囲が違います。しかも4つ目だけは、名前の付け方からして別ものでした。

サルコペニアは筋肉の話

サルコペニアの定義も、先ほどと同じ2018年の厚生労働省ガイドラインが原典を示して引いています。

「サルコペニア」とは、『サルコペニア診療ガイドライン2017年版』(日本サルコペニア・フレイル学会、2017)によると、「高齢期にみられる骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下により定義される」とされている。

**筋肉に限定されています。**量が減り、力または動きが落ちる。これがサルコペニアです。

フレイルとの関係でいえば、サルコペニアは身体的フレイルの中核をなす部分です。ただ、うつも独居もサルコペニアには含まれません。フレイルのほうが広い、という理解でおおむね足ります。

原因のほうも、加齢だけではありません。日本サルコペニア・フレイル学会は、筋肉が作られにくくなる状態を招く因子として「身体的不活動、運動単位の減少、慢性炎症、酸化ストレスの増加、サテライト細胞の減少、ホルモンの変化、外傷・疾病、インスリン抵抗性増大など」を挙げています。

先頭に身体的不活動が並んでいる点は覚えておいてください。このあと見る廃用症候群と、地続きになっている部分です。

ロコモは運動器の話

ロコモティブシンドロームは、2007年に日本整形外科学会が提唱した概念です。和名を運動器症候群といいます。

定義は「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」。運動器とは、骨・関節・筋肉・神経など、体を動かす仕組み全体のことです。変形性膝関節症や骨粗鬆症、腰部脊柱管狭窄症といった病気も、ここに含まれます。

サルコペニアが筋肉だけを見るのに対し、ロコモは膝や腰の痛みで歩けなくなった状態も拾う。そこが違いです。判定には立ち上がりテスト、2ステップテスト、ロコモ25という質問票を使い、ロコモ度1から3までを判定します。

廃用症候群は「原因」で名づけられた言葉

ここまでの3つは、どこが弱っているかを指す言葉でした。廃用症候群だけが違います。

この言葉は、生活不活発病とも呼ばれてきました。厚生労働省が2008年に社会保障審議会へ出した資料は、こう説明しています。

「生活が不活発」なことによって生じる全身のあらゆる機能の低下

**原因が名前に入っています。**加齢でも病気でもなく、「生活が不活発だったこと」が原因だと言い切っている言葉です。

だから対象になる範囲も広い。同じ資料が挙げている例を並べると、その広さが見えます。

体の一部に起こるもの全身に影響するもの精神や神経の働きに起こるもの
関節拘縮/廃用性筋萎縮・筋力低下/廃用性骨萎縮/皮膚萎縮(短縮)/褥瘡/静脈血栓症→肺塞栓症心肺機能低下/起立性低血圧/消化器機能低下(食欲不振・便秘)/尿量の増加→血液量の減少(脱水)うつ状態/知的活動低下/周囲への無関心/自律神経不安定/姿勢・運動調節機能低下

拘縮も褥瘡も便秘もうつも、同じ一つの原因から並んで出てくるという整理です。

4つの言葉は、定義の「かたさ」も同じではない

4語を並べると、こうなります。

言葉見ている範囲定義の出どころ
フレイル身体・精神心理・社会の3側面日本老年医学会(2014年に訳語を提唱)/フレイル診療ガイド2018年版
サルコペニア骨格筋(筋肉量と筋力・身体機能)サルコペニア診療ガイドライン2017年版(日本サルコペニア・フレイル学会)
ロコモティブシンドローム運動器(骨・関節・筋肉・神経)日本整形外科学会(2007年提唱)
廃用症候群(生活不活発病)生活が不活発なことで起きる全身の機能低下厚生労働省の資料による概念の説明

表を作っていて気づくことがあります。**上の3つには学会の診療ガイドラインと判定基準があるのに、廃用症候群にはどちらもありません。**握力何kg、ロコモ度いくつ、といった線引きが存在しない言葉です。

これは廃用症候群が軽いという意味ではありません。むしろ逆で、現場でいちばん使われながら、いちばん定義があいまいなまま使われているということでしょう。

この差は、申し送りの場面で表に出ます。「ロコモですね」と言われても、聞いた側は次に何をすればいいか分かりません。一方「先週から廊下を歩かなくなりました」なら、動けます。

**定義のかたさの違いは、そのまま「その言葉を聞いた人が動けるかどうか」の違いになる。**次の節で、その中身に踏み込みます。

廃用症候群だけは、ケアの側で作ってしまえる

ここまでは言葉の整理でした。ここからは、その違いが日々の関わりにどう跳ね返るかの話になります。フレイルもサルコペニアもロコモも、介護職の関わり方だけで止められるものではありません。廃用症候群だけは事情が違います。

「生活が不活発」とは「活動」が低下した状態

先ほどの2008年の厚生労働省資料は、「生活が不活発」の中身をこう分解しています。

「生活が不活発」とは「活動」が低下した状態 それには「質」(やり方:歩くか車椅子か、立って行うか座って行うか等)と「量」(1日、1週、1月の頻度)の2つの側面がある。「質」と「量」を「掛け合わせ」たものが「生活の活発さ」

ここでいう「活動」は、ICF(国際生活機能分類)の用語です。ICFは生活機能を心身機能・活動・参加の3つの層で捉える枠組みで、その真ん中にあたります。詳しくはICFとは(6つの構成要素と「活動と参加」の線引き)で扱いました。

注目したいのは、「質」が先に挙げられていることです。

トイレまで歩いていた人が車いすで行くようになった。立って歯を磨いていた人が座って磨くようになった。回数は変わっていません。それでも「生活の活発さ」は落ちています。

「質」と「量」を掛け合わせたものが、生活の活発さ

ここで効くのが、掛け合わせという表現です。足し算ではないので、片方がゼロに近づくともう片方の努力が消えます

週5回のデイ利用を維持していても、そこでの過ごし方が「座って待つ時間」ばかりなら、量は保てても質が落ちている。逆に歩行は維持できていても、外に出る回数が月1回まで減れば、質は保てても量が落ちている。

この2軸は、記録に落としやすい形をしています。「ADLが低下」と書く代わりに、質が変わったのか量が減ったのかを分けて書けるからです。ADLの記録の書き分けについてはADLとは(できるADL・しているADLの違い)で詳しく扱っています。

「安静には害もある」と国の資料が書いている

同じ資料の後半に、はっきりした一文があります。

安静には害もある

続けて、こう書かれています。「手術、捻挫、風邪などの小さな病気・けがの時の安静や運動制限で生活が不活発になることが多い」。

きっかけは大きな病気とは限らない、という指摘です。風邪で3日寝込んだ。捻挫で1週間動かなかった。その3日や1週間のあとに、元の生活へ戻れないまま横ばいになる。介護現場でよく見る流れが、そのまま書かれています。

さらに資料は、思い込みのほうにも踏み込みます。

「病気の時は安静第一」「年だから無理をしない」などの思い込みを変えることが大事

「年だから無理をしない」。これは家族の言葉であると同時に、職員のあいだでも自然に出てくる言葉ではないでしょうか。

転倒させたくない、事故を起こしたくない。その気持ちから出る配慮が、結果として活動を削っていることがあります。

もちろん、どこまで動いてよいかの判断は医師や理学療法士など専門職の領域です。ここで言えるのは、安静を「とりあえず安全な選択」として無条件に置かないほうがよい、ということまでです。

「お大事に」を「お元気に」に変えていこう、という提案

この資料でいちばん具体的なのが、次の提案でした。

例:①「お大事に」という挨拶を「お元気に」「早く元気になって」と変えていこう ②「活動度」の指導を:「具体的にどう動くべきか」を専門家が具体的に指導

国の資料が、挨拶の言葉を変えようと書いている。読んだときに手が止まった箇所でした。

「お大事に」は、休んでくださいという意味を含みます。「お元気に」は、戻ってきてくださいという意味になる。伝わる方向が逆です。

これは精神論ではありません。前の節で見たとおり、廃用症候群の原因は生活の不活発さです。その不活発さは、周りの言葉と関わり方から始まることがあるという指摘になっています。

明日から試せることでもあります。体調を崩して部屋で休んでいる利用者に声をかけるとき、最後の一言を変えてみる。それだけで何かが劇的に変わるわけではありませんが、自分がどちらの方向を向いているかは自覚できます。

記録の書き分け|「フレイル」と書く前に

ここまでの整理を、記録という具体に落とします。フレイルという言葉は便利です。便利すぎて、書いた瞬間に手が止まってしまうことがあります。

「フレイル」と書くと、原因の話が消える

記録に「フレイル傾向あり」と書いたとします。次に読む人は、そこから何を読み取るでしょうか。

おそらく「年をとって全体的に弱ってきている」です。**加齢という、誰にも動かせない原因が想定されます。**それは間違いではありませんが、そこで話が終わってしまう。

一方、同じ状態を「入浴を週2回から1回に減らしてから、脱衣に時間がかかるようになった」と書けば、読んだ人は入浴の回数に手をかけられます。

言葉の選び方が、次の人の選択肢を決めます。フレイルは正確な言葉ですが、正確さと、手が打てるかどうかは別です。

3つの問い(持ち帰り資産)

迷ったとき、記録を書く前に3つだけ自分に投げてみてください。

  • 「質」は落ちたか(歩く→車いす、立って行う→座って行う、といったやり方の変化があるか)
  • 「量」は減ったか(1日・1週・1月の頻度で、何かが減っているか)
  • いつから、何をきっかけに変わったか(発熱、入院、家族の来訪が途絶えた、など)

3つとも、厚生労働省の資料の構造をそのまま借りています。1つ目と2つ目は「生活の活発さ」の2側面、3つ目は「安静には害もある」で挙げられていた小さな病気・けがの視点です。

3つ目が効きます。きっかけを書けたということは、そこに戻せる可能性があるということだからです。

逆に、どれだけ考えてもきっかけが見当たらないなら、それは加齢による変化かもしれないという情報になります。どちらであっても、書いた記録は次の人の役に立ちます。

判定するのは介護職ではない、という線引き

ここは、はっきりさせておきたい点です。フレイルかどうか、サルコペニアかどうかを判定するのは、医師などの専門職になります。介護職が握力計を持ち出して「この人はフレイルです」と決める話ではありません。

介護職の側にあるのは、気づいて、書いて、渡すという役割です。

体重が減っている、むせるようになった、外出が減った。これらはJ-CHS基準や後期高齢者の質問票が拾おうとしている変化そのものです。日常的に接している人ほど早く気づけます。

気になったときの相談先は、担当のケアマネジャー、事業所の看護職員、そして地域包括支援センターです。介護予防・日常生活支援総合事業につなぐ判断には基本チェックリストが使われるため、その入口に立っているのが日々の記録ということになります。

書き分けの例

同じ場面を、どう書くかで比べてみます。

書き方次に読む人が受け取るもの
フレイルが進行している年のせいで全体的に弱っている。手の打ちどころが分からない
ADL低下傾向できることが減った。ただし何が減ったかは不明
先月の発熱後、居室からの移動がトイレのみになった(量)。トイレまでは手すり伝いから車いすに変わった(質)発熱がきっかけ。移動の回数と方法の両方が変わった。戻す手がかりがある

3つ目は長いと感じるかもしれません。ただ、この1行を書いておくと、次のカンファレンスで話す材料がそのまま揃います

全部の記録をこう書く必要はありません。「あれ、この人変わったな」と思った日に、1件だけ試してみてください。

まとめ|言葉を選ぶことは、手の打ち方を選ぶこと

フレイルは、「虚弱」では戻せることが伝わらないという理由で、2014年に選び直された言葉でした。身体だけでなく、気持ちのことも人付き合いのことも含みます。

似た4語のうち、廃用症候群だけは「生活が不活発だったこと」を原因として名前に持っています。厚生労働省の資料は「安静には害もある」と書き、「お大事に」を「お元気に」に変えていこうとまで踏み込んでいました。

次の一歩は、いくつかの選び方があります。3つの問い(質は落ちたか/量は減ったか/いつから、何をきっかけに)を、気になっている利用者ひとりに当ててみる。基本チェックリストの#11と#25を、あらためて読み直す。あるいは、今日の申し送りで「フレイル」と言いかけたところを、具体の変化に言い換えてみる。

全部をやる必要はありません。気になっている人の顔がひとつ浮かんだなら、そこからで十分です。

よくある質問

フレイルとはどういう意味ですか?

加齢によって余力が減り、ちょっとしたことで健康を崩しやすくなった状態を指す言葉です。厚生労働省が保健事業のガイドラインで引いている『フレイル診療ガイド2018年版』(日本老年医学会/国立長寿医療研究センター、2018)の定義では、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す英語の frailty の日本語訳とされ、「要介護状態に至る前段階として位置づけられるが、身体的脆弱性のみならず精神心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態」と説明されています。体力が落ちた状態そのものではなく、余力が減って崩れやすくなった状態を指す点が特徴です。

フレイルとサルコペニアはどう違いますか?

サルコペニアは筋肉に限定した概念で、フレイルはそれを含むより広い概念です。厚生労働省のガイドラインが引く『サルコペニア診療ガイドライン2017年版』(日本サルコペニア・フレイル学会、2017)では、サルコペニアは「高齢期にみられる骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下により定義される」とされています。一方フレイルは、日本老年医学会のステートメントによれば、身体的な問題だけでなく、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題も含む概念です。サルコペニアは身体的フレイルの中核をなす部分にあたりますが、うつや独居はサルコペニアには含まれません。

フレイルは戻せるのですか?

概念そのものに「戻る可能性」が含まれています。日本老年医学会が2014年5月に出したステートメントは、「Frailty には、しかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性が包含されている」と述べており、これがまさに「虚弱」という訳語をやめて「フレイル」を採用した理由でした。「虚弱」「老衰」「衰弱」「脆弱」といった訳語は「加齢に伴って不可逆的に老い衰えた状態」という印象を与えてしまう、というのが学会の説明です。ただし、これは誰でも必ず元に戻るという意味ではありません。同ステートメントも「早期に発見し、適切な介入をすることにより、生活機能の維持・向上を図ることが期待される」という表現にとどめています。

廃用症候群とフレイルはどう違いますか?

廃用症候群は原因を名前に持つ言葉で、フレイルは状態を指す言葉です。廃用症候群は生活不活発病とも呼ばれ、厚生労働省の資料では「『生活が不活発』なことによって生じる全身のあらゆる機能の低下」と説明されています。原因が「生活が不活発だったこと」にあると名前の時点で示されている点が、加齢に伴う予備能力の低下を指すフレイルとの違いです。同資料は「生活が不活発」を「質」(歩くか車椅子か、立って行うか座って行うか等のやり方)と「量」(1日・1週・1月の頻度)の2側面に分け、この掛け合わせが「生活の活発さ」だとしています。関節拘縮や褥瘡だけでなく、便秘・脱水・うつ状態・周囲への無関心まで、同じ原因から並んで起こるものとして挙げられています。

フレイルかどうかは誰が判定するのですか?

判定は医師などの専門職が行うもので、介護職が下すものではありません。日本でよく使われる物差しは国立長寿医療研究センターが示した日本版CHS基準(J-CHS基準・2020年改定)で、体重減少・筋力低下・疲労感・歩行速度・身体活動の5項目のうち3項目以上に該当するとフレイル、1〜2項目でプレフレイル、該当なしでロバスト(健常)と判定されます。ただし5項目のうち体重減少と疲労感は、介護予防・日常生活支援総合事業で使う基本チェックリストの第11項・第25項がそのまま参照されており、日々の記録や会話から拾える情報でもあります。気になる変化に気づいたときの相談先は、担当のケアマネジャー、事業所の看護職員、地域包括支援センターです。

出典


本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、正確性・最新性を保証するものではありません。 制度や施設の状況は変わることがあります。実際のご判断の前には、各施設・公式情報や公的機関でご確認ください。

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